2018.12.09 Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018 in 幕張メッセ国際展示場9~11ホール

ライブレポ

 1998年12月9日にCDシングル「Automatic/time will tell」を発売して以来、数々の記録を打ち立て多くの人々を魅了してきた宇多田ヒカル。今年デビュー20周年を迎えるにあたって、2006年以来12年ぶりに国内ツアーを開催。アルバム『初恋』の初回購入特典で応募、こういう形でチケットが取れた記憶はほとんどないのですが、なんと当選。ただでさえライブする機会が少ない、当然フェスにも出たことがない、過去に日本記録を樹立した程の大物、更に言うとツアーファイナル、デビュー20周年の節目となる日。半端ないプレミア感で、正直よく当たったなぁという気持ちが今でも強いです。1万円以上するチケット、顔写真認証もありの厳しい本人確認もありましたが、このライブに行けることを思えば微々たるもの。次にいつ見られるか分からない、もしかすると生で見るのは最初で最後かもしれない、そんな貴重な機会をレポしていきます。

開演前

 幕張メッセに行くのは2016年のCDJ以来、9~11ホールで見るのはPerfumeやKARA、ドリカムなどが出演したU-EXPRESS以来5年ぶり。何万人もいたオーディエンスの中で、その時以来というのはおそらく自分だけではないかと密かに思うわけですが。当時は2Fから入った記憶がありますが、今回そこは関係者受付となっていて、入場口は一旦下に降りる形でした。派手さはありませんが、今回のツアータイトルを示す掲示もされています。

 中に入ると大勢の人。グッズ売り場は当日販売だけでなく、ネットで事前購入受け取りサービスを行っています。開催2日くらい前だと事前購入の予約はさすがに不可能でしたが、おそらく多くの人が利用していたのでしょう。勿論当日来てグッズを購入する人もいましたが、大きな行列もなく非常にスムーズでした。ただ流石にトイレとなると会場だけでなく海浜幕張駅もすぐ近隣にあるプレナ幕張も長蛇の列が出来ていて、特に女性は大変だったかと思うわけですが…。

 もちろん花輪も多く飾られています。




 携帯・スマホに表示された電子チケットを読み込ませて入場。ちなみに今回紙のチケットは全く発行されていません。それ故にダフ屋の転売は不可能で、事実これだけの規模のライブに関わらずそれらしい方は一名たりとも見掛けませんでした。手荷物検査はありましたが、これは実に簡単なもの。そういえばカメラを持っていないかというチェックがありません。入場すると目に入ったのは座席表。

 今回はA15エリア。まさかの前方エリアでビックリしましたが、かなり端の方でした。DやEなどよりは相当恵まれていますが、ものすごく見やすいというわけではやはりありません。

 撮影に関してですが、今回はデジタルカメラ・一眼レフカメラなどの撮影や機材などを使って録音する行為は禁止、携帯スマートフォンに関しては必ずフラッシュモードをオフにしてくださいとのアナウンス。つまり裏を返せば、携帯やスマートフォンでフラッシュオフの撮影は問題ないようです。なんだか少し信じられないですが、確かにスマホ撮影禁止ならわざわざフラッシュモードにして…なんていうアナウンスはやらないはず。

 というわけで、自分の席からステージを撮影しても問題なさそうです。今回のアングルは下の通りです。

開演

 開演時間19時を迎えて諸注意アナウンス。それが終わると、後ろからさざ波のように拍手が沸き起こります。そういえば今日は場内SEも一切ありません。初めて行くアーティストのワンマンであることを差し引いても、今までにあまり感じたことのない雰囲気です。しばらくして場内暗転、歓声が沸き上がります。バックバンドの演奏が始まり、セリから登場するその姿は紛れもなく宇多田ヒカル本人。背中の空いた黒いドレスを身にまとった姿はものすごく美しく、遠くから見てもオーラがありました。記念すべき20周年ライブ、一曲目を飾るのは「あなた」

 一曲目から聴かせるバラード、歌声には若干の緊張もあるように思えました。ただ見ている側としては、生でステージを見ることが出来るというだけで興奮します。スマートフォンで早速撮影するオーディエンスも多数いましたが、私はまず聴き入ることにしました。2曲目は前作アルバム『Fantome』のトップを飾る「道」、こちらも当然ながら今ツアーで初披露。続いてはファンならずとも最初の一小節だけで分かる、誰しもが知っている名曲。17年前は、自分もそれこそ飽きるくらいに聴きまくっていた「traveling」

 今回のツアーの盛り上げ曲として作用しているこのナンバーは、緊張気味な空気を一気にほぐす役割も果たしていたような気がします。国民的名曲が持つ桁違いのパワーを、おおいに感じさせられました。バンドアレンジもCDとはまた違う色が加えられていて、大変ゴージャス。更に続くのは、個人的に彼女の曲で2番目に好きな超名曲「COLORS」

 こちらは1番サビから始まり、そのまま2番の歌詞に入るやや短い構成。キーもヒット当時より少し下げていました。オリジナルとは随分違いますが、年を経てあらためて聴くと30代半ばを迎えた自然体の「COLORS」としてすんなり受け入れられるような。無理をせず、今の相応の形で表現する美しさを生で見てあらためて感じたシーンになりました。

 4曲終わってMC。流暢では決してありませんでしたが、自分の言葉を大切に紡ぐように挨拶。会の主役になるのは苦手なんだけど、という一言に大きく共感させられます。

前半、インターバル

 次に演奏されるのは2008年の名曲「Prisoner Of Love」。リアルタイムではそこまで好きな楽曲ではなかったのですが、生で聴くとこんなに迫力あるナンバーだったのかという驚き。切迫感のある歌声もそうですが、一つ一つの言葉を本当に大切に噛みしめて歌っている印象もありました。発せられる単語の重さと意味をダイレクトに伝えるステージの後は、カップヌードルのCMでお馴染みだった効果音が耳に残る「Kiss&Cry」。後半では「Can You Keep A Secret?」の”Hit it off like this…”がマッシュアップされるアレンジ。大変な聴き応え。次にそのまま演奏されるのはこれかな、とも思いましたが正解は「SAKURAドロップス」。こちらも原曲より少しキーを下げてます。曲終わりでは自らシンセサイザーを演奏するシーンもありました。

 MCを挟んで披露された「光」も16年前とは違うアレンジ。この曲はもしかすると、ヒット当時より今の方が価値ある楽曲として評価されているのではないでしょうか。次の「ともだち」ではダンサーが登場。黒を基調としたドレスはステージで歌っている姿と似てるだけでなく、一緒に踊るシーンも。歌終わりに、その人が「Forevermore」のダンスをアレンジしてくれた高瀬譜希子さんであることを紹介。引き続き「Too Proud」でもゲストダンサーとして色気のある踊りを魅せてくれた後、インターバルに入ります。

 インターバルで用意された映像は、作家でもあり芸人でもある又吉直樹さんとの対談。ものすごくマジメな内容です。今回のツアータイトルLaughter in the Dark、絶望の中にあるユーモアについて深く掘り下げています。又吉直樹がお笑いを目指すキッカケになった子どもの頃の出来事、更にお笑いとは日常を破壊するものと熱く語った時に突然…

”バシコーン!”

 宇多田さんがビール瓶(本物ではないようです)で又吉さんの頭を勢い良く叩きます。”こういうことですよね?”というセリフを添えながら。突然の出来事に、会場は驚きと笑いで騒然としています。映像では、殴られた又吉さんがトイレに籠ります。宇多田さんが向かって対談を再開しようとした処でまたビール瓶を振り下ろすこと計4回。あまりのことに又吉さんは途中で帰りますが、お互い反省をした後対談再開。「First Love」の歌詞は実話ですか?という質問をする又吉さんの右手にはビール瓶、それに答える宇多田さんは兜をかぶって答えるという大変シュールなショートコントでした。なお脚本はやはり又吉さんだったようです。

 

後半はメインステージとは違う場所から

 映像が終わった後、照明は下手側後方に当たります。ブロックで言うとD~Eの3, 4辺りだったでしょうか。いずれにしても、自分の位置からは最も遠くの距離にあたる場所です。衣装も白を基調としたドレスに変えて、「誓い」「真夏の通り雨」「花束を君に」といったバラードをじっくり聴かせます。歌声は勿論ですが、バンド音やストリングスの音も大変クリアかつ響きも良く、思わず聞き惚れます。

 「花束を君に」のアウトロを演奏中にメインステージへ移動、MCでは水分補給。ペットボトルのラベルはなかったですが、中身はやはりサントリーの南アルプスだということ。ですので?次に演奏されるのは自然に「Forevermore」になります。軽快なリズムにオーディエンスもノリノリ。

 今回のライブはどのステージも素晴らしかったですが、特に圧巻だったのが「First Love」「初恋」を2曲続けて歌ったシーンでした。

 「First Love」は自分が知っている数多くのラブソングの中で一番の名曲だと思っています。淡い初恋を若干16歳にしてこのような形で表現出来るのは、天才以外の何者でもありません。あれから20年、今の年齢から当時を追憶あるいは洞察・分析しているような”初恋”を描けるのは、これもまた天賦の才能に拠る部分もありますがそれ以上に経験、何より人間活動と称して活動休止していた期間が大きくモノを言ってるような、そんな気がします。「First Love」は言うまでもなくラブソング史上に残る作品ですが、歌声や表現の凄味をライブで感じる点で言えば、「初恋」の方が上だったかもしれません。そういえばこのツアーはスマホで撮影可能なライブ、ですが本番中ずっと撮影していた観客はほぼ皆無といった状況でした。おそらく記録として残す以上に、直に記憶として目にやきつけたい体で感じたい、そういう人が大多数を占めていたのでしょう。特にこの2曲のパフォーマンスは、ものすごく引き込まれるステージで他を観察する精神的余裕はなかったです。それだけの凄味がある内容でした。

 本編ラストは「Play A Love Song」。そこからアンコールの呼び掛けに入りますが、拍手から一旦間を空けることなくそのまま一定のリズムで手拍子に入ります。

アンコール

 Tシャツ姿で出てきた宇多田ヒカルは、ショートカットも相俟ってまるで少年のようでした。そのせいかどうかは分からないですが、アンコール1曲目に選ばれたのは「俺の彼女」

 クールなステージを終えてバンドメンバーの紹介。海外のミュージシャンを揃えたツアーバンドもまた、確かな演奏技術の持ち主でした。それぞれのパートが見事な腕前を披露して、20年前の同じ日に発表されたデビュー曲「Automatic」。これもまた、当時と比べて明らかに進化していると思わせる素晴らしい内容に仕上がっていました。この曲に限った話ではないですが、懐メロというよりクラシックという言葉の方がおそらく名づけるに相応しいのではないかと思います。


 ツアーファイナル、デビュー20周年を振り返って喋ります。20年前の思い出(CD屋に自分のCDが並んでるのを確認した、当時の友達に批評された、2パターン出たこととだんご3兄弟が凄くて1位にはなれなかった、そう考えると37週も1位になった母は偉大だなぁ等)も語っていましたが、やはり中心は全ての人への感謝でした。とりわけマネージメントしてくれた父親、各所で娘の凄さを語ってくれた母親に対して、自らの言葉で思いの丈を語っていました。父親に関しては、普段面と向かってこんなことは言えないのでこの場を借りて、という形でもあったようです。その他携わってくれたスタッフや待ってくれたファン、新しく好きになってくれた人など…。そのたびに大きな拍手が舞い起こります。拍手の具合は人数×回数×強弱で決まると思いますが、おそらく自分が見てきたワンマンライブの中ではそれが一番大きかったような、そんな気がしました。それとともに、本当の美人は姿形だけでなく内面まで美しい、そんなこともあらためて感じさせられました。本編ラストはハッピーに、「Goodbye Happiness」。大団円の中で幕を閉じました。

 


 感想は、もう終演直後にInstagramで書いたことが全てです。一生の思い出になる、素晴らしい内容でした。おそらく彼女が作った音楽は、今後も聴き続けることになるでしょう…。

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