2021.5.28 赤い公園THE LAST LIVE「THE PARK」

 赤い公園を知ったのは2014年の春。「絶対的な関係」がフジテレビドラマ『ロストデイズ』主題歌でヒットした頃だったかと思います。楽曲・PVともに1分46秒で納めていましたが、その濃度に驚いた記憶があります。その後のアルバム『猛烈リトミック』と、それに収録された「NOW ON AIR」。素晴らしい作品でした。間違いなく大ブレイクすると思いましたが、案外ロックファンを超えたファン層はすぐに獲得できたと言い難い面もあります。とは言えギターで作詞・作曲を担当している津野米咲さんのライティング能力は当時から高く評価されていて、SMAPやモーニング娘。に提供した楽曲は今でもファンに愛されてる楽曲となっています。

 赤い公園は2度大きな苦労を経験しています。最初は2017年のボーカル・佐藤千明の脱退。ラストを飾る形になった「journey」「カメレオン」はまさに渾身の歌声でした。その後に加入したのが、アイドルネッサンスで活動していた現・ボーカル、石野理子。アイルネのステージは生で見たことあり、センターボーカルで独特の存在感を見せていましたが、まさか名の知れたボーカルとして加入するなど想像もせず。ブランクを経て発表された「消えない」を筆頭とした楽曲も素晴らしく、その活動におおいに期待できましたが…。

 2020年10月、コロナ禍でライブ活動が出来ない中流れた津野米咲逝去のニュース。それはショックという一言では表現できないほどの強い衝撃でした。赤い公園のバンドとしてもそうですが、これからまだまだ彼女の手で多く生み出されるであろう新しい名曲が聴けなくなることも、計り知れないほどの大きな損失です。

 ソングライターを失い、残ったメンバー3人がとった選択は、赤い公園の活動終了。2021年5月28日、中野サンプラザで行われるラストライブで幕を下ろします。会場だけでなく、配信でも見ることが出来た彼女たちの最後のステージでの姿を、書いていきます。

 なおアーカイブは5月30日(日)0時半まで視聴可能となっています。まだ本番を見ていない人は、先にアーカイブを見てからこの記事を見ることをオススメします。チケットは5月29日(土)18:00まで購入可能となっています。詳しくはこちらのページをご覧ください。

オープニング~前半

 緞帳が上がり、最初に演奏される曲は「ランドリー」。座席1つごとに距離を取った席を立つ観客、楽曲が楽曲ということもありますが、画面からは強い緊張感を感じさせます。米咲さんが鳴らしていた轟音のようなギターは、今日はBase Ball Bearの小出祐介が奏でています。最初の曲が演奏された後に、ボーカルの石野さんが立ち上がって大声を出して「消えない」。会場を一気にヒートアップさせます。登場した瞬間から放たれる彼女の強いオーラは、白い無垢な衣装をまとっていたアイドルネッサンス初期の頃と完全に別人と化しています。あの時に歌っていた「17才」のオリジナル歌唱者が横でギターを弾いているというのも、考えてみれば不思議な光景です。もっとも、彼女を津野さんに紹介した人こそが、当の小出さんらしいのですが。

 歌川さんが和太鼓のようにドラムを奏で、ギター・ベースが加わって始まるのは「ジャンキー」。石野さんが歌う姿だけでなく、個々の演奏からや楽曲そのものからも伝わる妙な色気。「Mutant」「紺に花」、合間にはキーボードの紹介。このブロックは昨年のアルバム『THE PARK』収録曲で並べます。左手を動かしながら笑顔で歌う石野さんが美しいです。

 ミディアムテンポで歌い上げる「Canvas」は『純情ランドセル』収録曲。『THE PARK』との違いがあるとしたら、伸ばしの表現方法でしょうか。前任のボーカル・佐藤千明とはハスキーさで大きな違いはありますが、見事に歌い継いでいます。というよりすっかり自分の物にしていると言う方が正しいでしょうか。迫力ある演奏を6曲見せた後に、最初のMCに入ります。

最初のMC~引き込まれるような演奏が続く中盤

 まずはサポートメンバーの紹介。ギターは小出さんとtricotのキダモティフォ、キーボードは堀向彦輝 a.k.a. hico。ただ小出さんはどうやら忙しい身のようで、何かしらのアルバイトがあると言うことですぐに一旦退席します。演奏する曲は多数あるようで、このMCは短めに切り上げてすぐ演奏、「絶対的な関係」で盛り上げにかかります。冒頭にも書いた通り、この曲が持つ1分50秒は世界で一番濃密な空間だと思っているのですが、そこから繋がるのは「絶対零度」。最高の流れです。ただそれにしても…、新しい曲になればなるほど歌詞の一言がズシッと重く聴こえるのは私だけでしょうか。

 「ショートホープ」も『純情ランドセル』収録曲。当時はあまり気に止めなかったのですが、今あらためて聴くとこの曲はサビのメロディーラインが本当に天才的です。歌詞の物語性と、”橙”というフレーズの節の付け方を両立させられるのは、間違いなく米咲さんだけだろうと思います。その後の演奏が「風が知ってる」というのもまた…。バラードなので余計にその天才性が聴いている方に伝わります。完全に聴衆が引き込まれた雰囲気の中でドロップされるのは「透明」「交信」。「交信」のコーラスワークと、言葉にならない歌詞パートもまた他では聴けない芸術性が詰まっています。キダさんが弾くアウトロのギターソロも印象的です。

 キーボードのみの演奏で始まる「pray」、その間にキダさんが一旦退席して小出さんが再びステージに戻ります。この曲の石野さんは他の曲以上に、歌詞の言葉を伝えることを強く意識して歌っているように見えました。

3人だけのステージは、津野米咲のギターと共に

 1年半ぶりとなった有観客ライブ、この状況で来てくれた観客と配信の視聴者に挨拶。楽しい話もしたい所ですがと前置きしますが、ここはあらためて文面ではなく石野さんの言葉で解散すると直接挨拶。”この場が楽しければ”という話に、お姉さん方2人も頷きます。1個ずつ席が空いているのを指して”どこかに座っているかも知れないので”と若干ホラー展開で話す藤本さんですが、観客席には石野さん直筆のイラストと、「この席は空けて下さいね」と書かれたメッセージが描かれた紙が置かれています。4人が座る絵を描いているのですが、見たところまあまあの画伯っぷり。お姉さん方は書き出しから笑っていたようです。

 歌川さんがキーボードの前に移動してギターを手にします。目の前には、米咲さんが初めて手にしたエレキギターが飾られています。ここからは3人のみのステージ、「さんこいち」と名付けてアコースティック展開で始まる演奏は「衛星」。歌川さんのギターは、ステージだと高校時代以来だそうです。

 高校時代はずっと自信なさげに、赤い公園と別のコピーバンドでチャットモンチーを歌ってた期間があったと暴露する藤本さん。これまで公にしていなかった事実を話されて、歌川さんは少し恥ずかしがっています。そんな話の後、今度はギターからキーボードに楽器を代えます。楽曲は「Highway Cabriolet」。淡い鍵盤の音にベースと、打ち込みの音を混ぜた演奏は、会場に不思議な神秘性を生み出していました。

 石野さんがタンバリンを手にします。笑顔で”指紋がなくなるまで”と随分キツい言葉でクラップを求める歌川さん。このセクションのラストを飾る形となる「Yo-Ho」は、会場の手拍子も加わります。藤本さんはここでベース・ギターではなく、シンセベースを弾いています。かつてチャットモンチーが2人で楽器をとっかえひっかえしたライブを見たことがありますが、赤い公園のお姉さん方2人もその時に並ぶくらいのマルチプレイヤーっぷりです。

驚異的な後半、ラストは涙無しでは…

 藤本さんの話に、石野さんが彼女の話に3年間ついていけなかったと告白。確かに先ほどの話を聴く限り、彼女のキャラクターは独特なものがあります。このタイミングで、tricotのキダさんとBase Ball Bearの小出さんも再びステージに加わります。石野さん中心に、キダさんも加えて思い出話メインのガールズトーク。こういう話に参加するのがいかにも不得意な感じのする小出さんですが、ようやく最後の方で石野さんから話をふってもらえました。どうやら先ほどは、3件ほど配達に行っていて玄関先で自分の名前も名乗っていたらしいです…、はい。

 ラストなので今回全曲を演奏することも考えたようですが、やはりそういうわけにもいかず。ですがやはり最後ということで、ツインギターを交えたメドレーが作られます。選曲されたのは「今更」「のぞき穴」「西東京」「ナンバーシックス」「闇夜に提灯」、ハードなナンバー連発でした。「のぞき穴」のシャウトも勿論健在、ここから「西東京」に繋がる展開も凄まじいです。

 終盤演奏される盛り上げ曲「KOIKI」「NOW ON AIR」「yumeutsutsu」で完全に会場一体となります。千明さんを歌い継ぐどころかもはや憑依のレベルにまで到達している石野さんの「KOIKI」「NOW ON AIR」は、曲の良さも相まって感動的な内容です。お立ち台に座って歌う「夜の公園」には、歌詞に合わせた色気まで備わっています。

 最後の曲を前に、メンバーがそれぞれ挨拶。順番はじゃんけんで決めます。全文ではなく、一聴で適度に抜粋して記事にしました。

藤本ひかり(Ba)「軽音楽部の高校の視聴覚室から始まって、自分たちが始めたものがこんなに大きくなるなんて、あの頃の自分に教えてあげたい」「色んな人に助けられながらベースがいっぱい弾けました」「私たちに対して心配性だから、先に車で向こうの世界を見に行ってるんだろうって」「向こうでまた一緒に、音楽が出来たらいいと思います」「生きている人たちは、物語のページをめくることが出来ると思っていて」「書き足すことも燃やしちゃうことが出来るから」「何でもできる」「私の番号を緊急連絡先みたいに使って」「同じ時を過ごせて本当に何より幸せです」「声は聴こえなくても皆さんの気持ちはいっぱい伝わってきました」「皆さん超能力者なんで、その超能力を色んな所でいかしてください」

歌川菜穂(Dr)「11年と半分くらい?やってきて、そうですね…」「こんなに沢山の人に聴いてもらえるようなバンドになると思わなかったんですけど」「私自身が公園の曲に救われ、助けられ…(涙)色々あったけど」「とにかく米咲が作る曲が大好きで」「赤い公園の曲を、少しは自身持って叩けるようになったかなと思いました」「いい曲をただ、伝えたい一心で…」「本当に沢山の人に支えられて今日を迎えられたので…ありがとうございました」

石野理子(Vo)「私は赤い公園の楽器隊の音楽をしている時の楽しさにすごく魅了されて入ったんですね」「会ったこともない、声しか聴いたことない人物なのに、私のことを最初から受け入れてくれて」「年下の私を受け入れてくれたファンの皆さんもそうですし、メンバーにもすごく感謝しています」「あとはちょっと申し訳ない気持ちもあります」「心苦しい部分もあったけど、常に毎回毎回のライブで成長していく姿を見せたかったんですけど」「その最終過程に立てないのはすごく残念だけど」「聴いてくださるファンがいるだけで、本当に本当に嬉しいんです」「今日ライブできて嬉しかったです」「またどこかで皆さんとお会いしたいなぁって思うくらい、今日は楽しいライブでした。皆さんありがとうございました」

 ラストナンバーは「オレンジ」。石野さんの挨拶とも重なっているような歌詞は、正直言って涙無しでは見ることが出来なかったです。津野さんがどういう想いでこの歌詞を書いたのか、そしてそれが結果的に遺作になるとは…。そんなことを考えると、とてもじゃないですが正常な気持ちを保つことが出来ませんでした。本当に画面が滲んで見られない状況になるのは、配信だけでなく通常のライブでも個人的に何年かに1回あるかないかです…。

明るく締めたアンコール

 アンコール。藤本さんは個人的に持ってきたフィルムカメラで記念撮影。フィルムカメラを見たのは本当に何年ぶりなのかという勢いです。そしてあんな重い形で終われないよね、と石野さんも明るく話します。そしてキーボードの堀向さんも呼び込んでトーク。あくまでも、軽く明るく。先ほどまでの雰囲気を払拭しにかかります。キーボードを加えた形で始まる「KILT OF MANTRA」もまた、和のメロディーを取り込んだコミカルな要素のある楽曲でした。

 ギターのサポートも2人加わってフルメンバーが揃います。ここでサポートメンバーからも、話をするようにお願いをします。キダさんは「赤い公園が大好きです!」とシンプルに。堀向さんも声を変えて以下同文。ですので思いっきり伝説のMCとハードルを上げられる小出さん…。「その気持ちを喋ったら朝までかかるんですけど」「バンドとかロックとかいうのは、継承される物だと思ってる、何よりも魂とか精神とか」「(CDJから半年の流れを踏まえて)絶対バンドやめねぇからな、と思っております」。流石のコメントでした。

 堀向さんのキーボードソロ、そこからクラップにフィンガークラップが加えられます。イントロで分かる人なら分かる、「黄色い花」。おそらく最初のサビ、このご時世でなければ観客全員を交えた大合唱だと思います。紙テープが放射されます。ステージに立つ6人は勿論客席の人々も、マスクしていても目だけで分かる笑顔です。そんな大団円ですが、アンコールなので間もなく終わってしまうという気持ちにもなります。不思議な空間です。

 キダさんと堀向さんが抜けて残りは小出さんを入れた4人、石野さんは「12年間大変お世話になりました、ありがとうございましたー!」と大声で挨拶。ラストを飾るのは「凛々爛々」。間奏ではそれぞれソロパートを交えて名前を読み上げた後、2番の歌い出しはアカペラ。これがステージで見せる赤い公園の最後の姿と考えると、やはり信じられないものがあります。ステージ中を駆け回り、アイルネ時代どころか2年前に生で見た際にも想像できないほどの石野理子のステージング。仮に彼女の歌手活動がここで終わるとするならば、当然勿体ないどころでは済まない話です。

 小出さんを送り出して、最後は3人が中央の赤いお立ち台に立ちます。アイコンタクトをして、「ありがとうございましたー!!!」と深々と挨拶。3人とも笑顔で、手を振りながら「じゃ、みんな解散!!」と言ってステージから去ります。その姿は大変爽やかで、また彼女たちらしいサッパリしたものでした。

おわりに

 解散という選択肢は現状を考えると本当に仕方がないことですが、それだけに最後のライブを見た後は余計に無念という気持ちが強くなります。これ以上彼女たちのライブを見られないのが本当に残念だと心から思いました。それ故に、津野米咲が残した素晴らしい楽曲とともに、このライブの様子も終生長く語り継ぎたいと心から思える内容でした。今回あらためて通しで聴いて痛感した彼女のソングライティング能力の天才ぶりは、やはり凄いです。どう考えても彼女以外書けないし書かないだろと思った瞬間は、正直一度や二度ではありません。

 歌川さんや藤本さんの演奏も素晴らしかったですが、やはり個人的には石野理子について語らずにもいられません。TOKYO IDOL FESTIVAL 2014のスカイステージでアイドルネッサンスを初めて見た時に、こんな力強い歌声のステージを魅せることなど想像もつきません。舞台を動き回り客席を盛り上げ、確かな技術に裏打ちされた声量を含めた歌唱力は本当に凄まじいものでした。類稀なセンスは、確かに2015年の時点で感じてはいましたがさすがにここまでとは。2000年生まれ、まだ20歳という年齢を考えると歌手活動がここで終わるとは全く思えません。ソロ歌手か、自らバンドを組む形かはたまた再びアイドルになるのかどうかはまだ分かりませんが、彼女の動向はまた追う必要がありそうです。

 3人とも、特に歌川さんや藤本さんは多分どこかのライブのサポートメンバーで見られる予感はしています。形を変えても、ミュージシャンとして長く愛される存在であっていてほしいです。そして私自身も、赤い公園の音楽は今後も聴き続けることになるはずです。約10年間、本当にありがとうございました、そしてお疲れさまでした!

 

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