紅白名言集解説・6

 1月17日ということで、今日はやはり阪神大震災を取り上げないといけません。1995年、もう26年前のことですが、あの日のことは今でも憶えています。尼崎の自宅で偶然目が覚めていたから良かったものの、大きな揺れで思わず逃げていなければおそらく寝床に倒れてきたタンスに潰されていました。近くの古い店では、火災が起きた記憶もあります。

 さて大きな災害があった年の紅白歌合戦はそれに合わせた編成になるものですが、昭和の頃は案外今みたいな取り上げられ方をされたことは一切なく、おそらく1991年の雲仙普賢岳で「SMILE AGAIN」を出場歌手全員で歌ったのが初めてのケースになるかと思います。この当時未曾有と言われた大災害の1995年でも、後半の4ステージで大きく取り上げられたという形で、最初から最後まで被災地を訪れる映像とかそういうのはありませんでした。もっとも本来引き受ける予定のなかった淡路島出身の上沼恵美子が2年連続で紅組司会を引き受けたのは、この震災が一番の理由になっています。

 今回の名言集でピックアップしたのは、神戸の被災地を偲ぶ形で前川清が「そして神戸」を歌った時の曲紹介。白組司会の古舘伊知郎と一緒に登場、丁々発止のやり取りもこの時ばかりはお預けで実にマジメに。今では何の躊躇もなく選曲するであろうこの曲も、当時は局内で果たしてどうなのだろうかという議論があったそうです。それを選曲する理由になったのは、神戸の人々のリクエストが多かったから。イントロと間奏で入る神戸の港・町並みの中継も入る前川さんの熱唱は、本当に胸を打ちました。震災から26年、少しずつ過去の話となりつつある中で、未だに当時の状況をマスコミがしっかり伝えているのは大変意義深いことではないでしょうか。

松任谷由実『深海の街』

 昨日ちょうどNHKでスペシャル番組が放送されたということで、昨年11月にリリースされたこのアルバムについて書きます。

 収録された曲数は12、そのうち先行配信シングルは4曲。コロナ禍のステイホーム期間中で作られた作品で、録音は全て自宅スタジオ。番組のインタビューによると、全てのレコーディングを終えた感想は「楽しかった」、これは過去になかった経験だったそうです。

 1曲目の「1920」からユーミンらしさが溢れています。ちょうど100年前は自身の母親が生まれた年でもあるそうですが、スペイン風邪が大流行してアントワープ五輪が少ない観客の中行われた年でもあります。時代は大きく変われど本質的な部分は今も昔も変わらない、そんなメッセージが曲中に込められています。「ノートルダム」はフランス・パリの大聖堂、今思えば2019年4月の大火災が現状の世界を預言していたのかもしれません。そこからインスパイアされたと思われる歌詞は、激しい説得力を持って聴く人の胸を貫きます。

 テレビで歌う機会の多かった「知らないどうし」は今年10月に先行配信。”愛していた””孤独”という言葉、背景にこの1年の雰囲気があることは容易に想像できますが、かと言って単純なメッセージソングではなく、どの時代でも共通して聴ける曲を作る所がシンガーソングライター・ユーミンたる所以のような気もします。背景を知ることでよりカッコ良さが浮き彫りになっている、そんな楽曲でもあります。コロナ禍を受けての作品という中でラストの「深海の街」はそれ以前に配信された楽曲。これをタイトルにするのが、また今作の面白い部分ですね。

 全体的に聴いていて感じたのは、やはりこの世にいるからこその「生」。コロナ禍の今でしか作れないアルバムと本人はインタビューで語っていましたが、結果的には原点回帰に近い部分もあるような印象を持ちました。個人的に好きで聴いていたアルバム『OLIVE』『REINCARNATION』、サウンドはその2作品よりバリエーション豊富ですが、作風にはそれを彷彿とさせる部分がいくつもあります。あと”永遠”という単語とそれに近い意味の言葉が今作では特に印象的でした。

 シンガーソングライターの最大のメリットは、自分の人生で感じたことをそのまま楽曲で表現出来るということ。そしてユーミンが凄いのは、還暦を過ぎた今でも敏感にアンテナを受信して、アウトプット出来るということ。多少年齢を重ねて心境は変われど、芯が変わっていないことは過去作を含めて聴くと本当によく分かります。この人ほど、「老」という文字が似合わない人も珍しいです。そしてユーミン以前に、自身ほど売れている女性シンガーソングライターがほとんどいなかったことを考えると、今でも彼女はパイオニア的存在。素直に尊敬します。ユーミンを長い間聴いてこなかった人も、聴いたことない人にも是非聴いて欲しい、オススメのアルバムです。

 

Spotify Release Reader 新曲レビュー(Base Ball Bear, 三山ひろし)

 SpotifyのRelease Readerは毎週金曜日更新。ということで今後金曜日はここから2曲ピックアップして感想を書く形にしたいと思います。

 年々味のあるバンドになっているような気がするBase Ball Bear。バリバリのロキノン系バンドとして颯爽と登場したのが2000年代後半、今では地に足をつけた骨のあるミュージシャンという印象が非常に強くなっています。1月11日に配信開始した「ドライブ」は、演奏される一つ一つの音から感じさせる貫禄と、普段の生活の延長線上で生まれたような歌詞が特色となっています。派手さはないですが一つ一つ共感できる言葉と、3人がバッチリ噛み合っている演奏。タイトル通り、ドライブで流すと気持ち良く運転できそうな楽曲に仕上がっています。レコーディング風景を映像にしたPVもオススメ。

 なんだか若い頃は当時の若い人に、今はそれこそ今の30代~40代くらいの人に。ベボベのファンは非常に多く存在しているのですが、良い意味で彼らのために楽曲を作っているという印象が非常に強いです。サウンドがここまで自然に変化するロックバンドも、珍しいのではないでしょうか。




 続いては三山ひろしさんの新曲「谺-こだま」です。作詞は「北国の春」などでお馴染みのいではく氏。そして師匠の中村典正先生が亡くなり、新たに曲を提供するのは「浪花節だよ人生は」「南部蝉しぐれ」などが代表作の四方章人氏。1月はじめの週に新曲をリリースするのはこれで4年連続となりました。年末のNHK紅白歌合戦に出場して、再びけん玉ギネス記録に挑戦することになるかどうかはまだ先の話となります。

 ”さよならと叫べばヨ さよならと”の歌い出しがすごく印象深いですね。演歌はメロディーがどうしても似てしまいますので、一度聴いて耳に入る歌い出しは非常に重要になります。そういう意味では個人的に、大変印象深い曲という感想を持つことが出来ました。これで少しは例年より、ワイプでけん玉をやられても歌が頭に入るのではないでしょうか(笑)。でも映像抜きでサウンドで聴くと、やっぱり三山さんは声がすごく良いですね。「四万十川」を歌ったのは2016年になりますが、それと似た様な清らかさを感じます。癖のある歌声ではないですが、それでも声を聴けば誰だか分かる歌声。演歌のみならずどのジャンルから見渡しても、非常に大きな財産だと思います。