平成の紅白歌合戦も回を重ねること30回。昭和で映像が残っている紅白は第14回以降全部で25回分なので、もう振り返る紅白も今後は完全に平成がメインになることでしょう。ラストの競演が示すように、今回の紅白はこれまでの中でも群を抜いて反響の多い好評の内容でした。ですが、課題が全く無いかと言われるとそうではありません。良かった所、そうでない所をあらためてまとめることにします。
・司会
総合司会の内村光良はもしかすると、歴代最高と言ってもいいくらいの内容だったかもしれません。三津谷ディレクター(複数回)、ミル姉さん、USAダンサーなど、ここまで変幻自在な司会者は過去にいません。第34回~第36回の鈴木健二アナ以上だと思います。昭和なら白黒時代の宮田輝、カラー時代の山川静夫。平成だと堺正章・古舘伊知郎・中居正広に阿部渉アナ辺りが名司会者かつその時代を牽引する紅白司会者になるかと思いますが、今は完全にその系譜に内村さんが入っていると断言して良いでしょう。
年々曲紹介でVTRを用いるケースが増えていますが、今回は特に多かったような気がします。その分紅組・白組司会者の負担も昔と比べて少し軽減されているかもしれません。紅白だけならず司会経験自体が初めてだった広瀬すずは、度胸の良さが印象的でした。自信なさそうな、見る人を不安にさせるシーンがあまり無かったのは良かったですが、間違える時は思いっきり豪快に間違えていました。第70回、総合の内村さんもそうですが彼女も連続で起用される可能性がかなり高いと思われるので、『なつぞら』の仕事が落ち着いたら何か一つ番組を持たせて練習させても良いのではないでしょうか。斉藤由貴や石田ひかり、松たか子と比べてもポテンシャルはあると個人的に考えています。ネットでは間違えたことがやたら叩かれていますが、そこまで叩くこともないだろうというのが自分の見方です。
一方白組司会の櫻井翔は特にコメント無し、所々にアドリブも入れたりして慣れた安定した司会ぶりでした。第70回は他の嵐のメンバーもしくは続投、あるいは近年紅白司会への野望が半端ない村上信五が起用されるかもしれませんが、変えるとしたら少しプレッシャーがかかる環境になるかもしれません。
桑子真帆アナはやはりラスト勝利チームを間違えたのが大きなマイナスポイント。ここ最近、総合司会に新たな起用されるアナウンサーの技術低下が正直かなり目立ちます。ただ桑子アナにしても少し前の武田真一アナにしても畑が違うニュース系からの起用なので、仕方ない部分もあります。ですので可能ならば、やはり歌番組・音楽番組の司会である程度慣れてる人を使った方がいいのではないでしょうか。
・選考方法
今回の紅白で一番疑問が残ったのは、本番ではなくその前段階です。出場歌手発表以降、特別ゲストやら特別枠やら後に発表された歌手がいつの間に正式歌手に加わったり、曲目に冗長なサブタイトルが追加されたり、メドレーだと結局曲目が分からなかったり…。
まず従来の出場歌手発表は11月後半に全歌手発表というスケジュールです。平成初期に数枠空けて海外のアーティストを後からラインナップに加えたという前例もありますが、概ね最初の発表で全て決まっていたはずです。流れが変わったのは第60回矢沢永吉の特別出演、そこからこういった発表が毎年のように続いて、目玉歌手が大きく報道される機会が多くなったように思います。
各音楽番組、民放の特番を見ると第1弾・第2弾という具合で時期を分けて発表していることが多いです。夏や年末に行われるロックフェスはもっと顕著で、最初に全員が発表される大型フェスなど存在しません。今回の紅白、本番に近づくに連れ大物アーティストが発表される形になりました。いかがでしょうか。例えば幕張メッセで行われるCOUNTDOWN JAPAN、第1弾で発表されるアーティストはほとんどが毎年のように出演する常連組です。思い切って2回や3回に分けて、例えば最初は毎年のように出ている常連各10組ずつぐらいを一気に発表して、12月前半くらいに初出場メインの発表、後半に残り数枠の発表という形式にしても面白いかもしれません。
曲目ですが、今回メドレーに関しては例年以上に本番までシークレット状態になっているケースが目立ちました。例えばライブ中継でファンがいる中現地でリハしたPerfumeは、SNSで本番まで明かさないようにということを徹底させていました。それによって、この曲が来たか!という驚きが生まれたシーンは今回特に印象的なシーンになりました。ただ既に曲目発表されていたアーティストは、そういうサプライズは全くありません。演出面はともかく…。
曲順に関してはその歌手目当てで見る人が多い以上間違いなく本番までに発表する必要はありますが、曲目に関してはどうでしょうか。いっそのこと完全シークレットにして、本番でこれが来たか!と楽しめるシーンを増やすのも面白いかもしれません。勿論リハーサルもあるので、曲目が出ても問題ない時はその際の報道で軽く触れるのもありという程度で…。いずれにしても、曲目はどうしても本番までに発表する必要があるかと言われると、必ずしもそうでないような気はします。
・ステージについて
第65回から個人的に、見た後の感想をワンフレーズで残すようにしています。順番に「ライブ感を味わう」「実験」「虚構」「新時代」ときましたが、今年は文句なしに「歌」で決まりでしょうか。
歌番組なら当たり前のはずの歌が主役になっていないステージが、特にここ数年の紅白ではかなり目立っていました。ところが今回そういったシーンは例年より少なかったです。多彩なダンサーが登場した郷ひろみや筋肉体操が目立った天童よしみでさえも、歌の方が印象的でした。強いて言うとイリュージョンの水森かおりかけん玉の三山ひろし位になるでしょうか…。
サザンやユーミンなど後半は言うに及ばずとして、今回一番それを感じたのが丘みどりや山内惠介のステージ。ゲストダンサーが登場する場合、立ち位置にしてもカメラワークにしてもどちらがメインか分からなくなるものですが、実際のステージではなんだかんだ言いつつも歌手が一番クローズアップされていたような気がします。あるいは楽曲のパワーが強かったという部分もあるでしょうか。いずれにしても、どういう演出をしても最終的には歌に帰結するという形は非常に良かったです。
今回プロデューサーが変わりましたが、前回までで気になっていた所を今回そのまま良いように修正したようにも見えました。過去曲がそれなりにありつつも、後半その年の曲を比較的多く入れた曲順も近年の中では最上位、第63回に並ぶくらいの出来だと思います。そもそも、全体的に未来志向なのが何より良かったですね。過去の節目の紅白は明らかに未来より過去を振り返ることに重きを置いていた印象が強かったので…。その方針は、第70回でも是非継続して欲しいと切に願います。
・カメラワーク
良いシーンも勿論ありましたが、スイッチングのミスが例年以上に多かったです。さすがに第65回のAKB48でメンバーのアップとメッセージを逃すという最悪の事態はなかったですが、もうちょっとリハを重ねても良かったのではないでしょうか。
・審査方法と、そもそものあれこれ
今回は白組勝利という形になりました。ただゲスト審査員は紅組圧勝、おそらくひと昔前までの決め方だと間違いなく紅組勝利になっていたと思います。
振り返ると、今のように視聴者が直接投票出来るようになったのは第53回(2002年)から。その当時はゲスト審査員が1人ずつボール1個で全11個、視聴者投票と会場審査で勝った方にそれぞれボールが2個加わる形でした。ゲスト審査員の一票が視聴者・会場の一票と同じ価値になったのは第56回(2005年)からで(ただし第57回・第64回・第67回は第55回までと似た形)、その背景には前年視聴者投票で白組圧倒的優勢だったにも関わらず紅組勝利だったという結果があります。第56回以降、紅組が勝利したのは14回中3回しかありません。会場・視聴者審査では更にそれが顕著で、中間審査で紅組がリードしたのは第62回(2011年)が最後です。最終審査では第66回の視聴者審査が紅組リードという例があって、その時は結果も紅組の勝利でしたが他はほぼ全て白組です。したがって視聴者審査の比重を上げると、その時点でもう白組勝利の可能性が圧倒的に高まります。逆にゲスト審査員の比重を上げると視聴者・会場審査で白組圧勝でも結果紅組優勝になった場合、ネットを中心に抗議が起こる事態と化しています。
良くも悪くも審査結果は番組の評価に直結するものでなく、国民からしてもどちらが勝とうが日常に変化はありません。ただそれ故に、その歌手のファン人口×熱狂度でほとんど勝敗が決まる状況になっています。こういった熱狂度・団結力は総じて女性ファンの方が高い傾向にあります。ジャニーズもそうですが、三浦大知や氷川きよし、星野源辺りでも相当なものです。第43回(1992年)、チェッカーズのラストステージにファンが大挙して会場に集まってほとんど白組応援状態になったことがありますが、あそこまで極端でないにしてもそれに近い状況がここ10年くらいは、毎年当たり前になっていると考えて良いかもしれません。
勿論かつてがそうでなかったかどうかは断言できませんが(例えば野口五郎や水前寺清子などのステージなどでは明らかに特定のファンが存在していた回があります)、第31回(1980年)まではゲスト審査員と電話もしくは会場に招待される形で事前に選ばれた一般審査員のみの投票で、ごく普通の視聴者や会場の観客に審査権はありませんでした。ここ最近の勝敗のアンバランスさを考えると、もうこれくらいの時代にまであえて戻すのも一つの手かもしれません。
あと今回はサザンオールスターズのステージの後に投票する形でしたが、その是非はともかくサザンは一応白組歌手ではなく特別枠です。ですがやはり一般的な見方だと、白組というイメージでそのまま投票に流れるケースも多々あったような気がします。どちらにしても白組勝利だった可能性もありますが、そこは一応考えても良かった点ではなかったでしょうか。
最後に、おげんさんといっしょのコーナーで「紅白もこれからね、紅組も白組も性別関係なく混合チームでいけばいいと思う。そうしたらおげんさんも出れるし、おとうさんも出れる」という発言が今回ありました。さすがに第70回は現行通りでいくと思いますが、2020年以降はどうするでしょうか。昭和の紅白は男女雇用機会均等法も制定される前、女性チームの紅組が男性の集まる白組に向かって戦うという構図もありました(意外と白組側は女性のいる紅組に流れようとする演出も多かったですが)。第19回(1968年)では、今見ると女性蔑視としか思えない、今それをやると確実にネットが炎上して問題になるような台本も正直見受けられます。ただ今は、肝心の女性が思いっきり白組を応援するような世相です。そもそも、ここ数年は女性アーティストと男性アーティストの間でも色々と差を感じる部分が出てきて、両組を同数で揃えることさえ疑問を持ちたくなるような年もあります。とは言え、紅組=女性・白組=男性という図式は大変根強いものです。そこを変えて新しい様式にするのは、やはり並大抵のことではありません。
2020年以降も、大晦日NHKで大型音楽番組は間違いなく放送されるはずですが、それは「紅白」でなくなるのかもしれません。あるいは「紅白」というブランドを残して、例えば「第1回NHK紅白フェスティバル」という新しい番組として、紅白歌合戦が今でいう前身番組・1945年の紅白音楽試合に近い扱いになるのかも分かりません。少なくとも、元号が変わりオリンピックが開かれる今が非常に大きな変革期になることは間違いないような気がします。
・最後に
とりあえず第70回、大きな期待をかけたいところですが、前年の紅白の内容が優れていると翌年大きく視聴率が下がったり、内容が悪くなったりするケースが多いです。さすがに今回ラストのような奇跡的な内容は望むべくもないですが、番組としての軸は間違いなく堅持して欲しいところ。その中で残すべき要素は残し、改善すべき部分は思い切って変える。記念すべき第70回、今から非常に楽しみですがその分課題も例年以上に多いと思います。昔と比べると、今のNHKの番組作りは紅白に限らず本当に良くなっています。その手腕にあらためて期待したいです。それでは2019年も、よろしくお願いします。
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