日本レコード大賞について考える

 放送から1週間以上経ちましたが、12月30日に放送された日本レコード大賞について考えます。

 紅白歌合戦については毎年予想から本編レビューまで力を入れて書いていますが、同じ年末番組であるレコ大については例年あまり力を入れていません。昭和の時代は音楽好きでなくても、レコ大の後に紅白を見る習慣がついていた人がかなり多かったですが、自分の世代は「紅白の裏がレコ大」という時代です。歌謡曲好きが故に歴代大賞受賞曲は早いうちに頭に入れましたが、物心がついた頃~中高生の時にレコ大全編を見たことは一度もありません(紅白が始まる前に少し見る程度でした)。

 2006年から12月30日に放送日が変わりましたが、それ以降も外出していたり単純に見逃したりで、実際の番組はほとんど見ていません。2000代後半に一度録画して見ましたが、当時かなり早送りした記憶があり、正直申し上げると他の年末歌番組の方が出来が良いという印象でした。

 最近はFNS歌謡祭とともに、音楽番組では非常に珍しい生演奏重視の番組編成が注目されています。2020年に相当久々にちゃんと見ましたが、番組としての出来は非常に良かった印象でした。それは2021年についても、大きくは変わりありません。

 もっともレコ大でアーティストに贈られる賞は昔からそうですが、最近も首を傾げざるを得ない選出は少なくありません。一時より多少妥当性が上がったとは思いますが…。とりあえず今回は先日放送された「第63回 輝く!日本レコード大賞」について、感じたことをコラムにしてみました。

生演奏主体の番組作り

 現在の番組の根幹は、はっきり申し上げると演奏にあると思っています。

 優秀音楽賞はNiziU「Take a picture」を除くと全部生演奏で、原曲より聴き応えのあるステージ続出でした。特に乃木坂46「ごめんねFinger crossed」は別の曲かとも思えるくらいの出来の良さで、機会ができればどこかのタイミングで生音コンサートをやって欲しいほどの内容でした。特別賞のMISIAとYOASOBIなども同様で、他の番組ではまず見られないステージが展開されたという点で考えると非常に価値が高いです。YOASOBIはこの番組で演奏された3曲がいずれもテレビ初披露、プロモーションという観点から考えても本当に見事でした。

 そのため、従来の賞レース形式が番組作りの上で足枷になっている…という印象も持ちました。

現状の選出の問題点

 正直申し上げると、日本レコード大賞の選出における問題点は昭和の時代からずっと続く長年の課題であり、改善される気配もほとんどありません。

 まずは選出にあたって、明らかに各事務所・レーベルとの駆け引きが見えるということでしょうか。優秀音楽賞10組を例にあげても、ソニー3・エイベックス4・コロムビア1・キング1・クラウン1という具合。2社が多いということもさることながら、ユニバーサルやワーナーミュージック、ビクターやポニーキャニオンからの選出は今回に限らず非常に少ない傾向があります。また事務所単位で不参加を表明しているケースも多く、各レーベル・事務所のレコード大賞に対する考え方があまりにもバラけている状況にあります。さすがにデータ的に上から順番に選ぶというのは極端過ぎると思いますが、実際に広く支持された楽曲が全くノミネートされない事例は多数あります。さらに言うと、1994年を除いて当日会場に来られることが大前提という問題もあります。事務所がそういったスケジュールを組むことは少ないとしても、例えば12月30日に地方でコンサート開催があればその時点でアウトです。

 本来優れた楽曲やパフォーマンスに贈られる賞ならば、テレビ出演が可能か否かは関係ないはずです。またレーベルや事務所の垣根も必要ありません。ヒットしたことを示すデータは、それだけ支持を集めたという証ではあるので参考になるとしても、その結果だけで受賞者を決めるなら賞レースは必要ありません。あくまでも楽曲・パフォーマンスの存在と識者による判断で決めるべきものです。ただこれだけ大きな賞を開くにあたって各方面の協力は当然不可欠で、受賞を決めるにあたって拮抗している場合に、協力してくれたアーティスト・団体を優先するのは「人の情」でもあります。その「人の情」が結果的にお金や接待に発展する事例も、多くありそうですが…。そう考えると、「本来の楽曲・パフォーマンス以上の要素が決定にあたって大きくなり過ぎている」というのが、やはり根本的な原因として挙げられます。もちろんこの状況を変えるのは容易ではありませんが、そもそも変えようとしているのか?という部分に個人的には毎年疑問を感じています。

 また、何の説明もなく賞が作られたり廃止されたりというケースも多くあります。確かに時代によって賞が変わるのは自然なことですが、その理由説明くらいはあってもいいように感じます。というよりレコ大に限らずTBSの音楽番組で作るランキングもそうですが、説明不足と感じられる部分が非常に多いです。説明すべき部分を説明しないのは、信用の低下に繋がります。特にTBSは過去に報道で大失態を起こした例があるので、余計にしっかりしないといけないはずなのですが…。

 新人賞に関してはさらに問題が多く、ノミネート曲が発売期間内という基準さえ外れているケースまで見られます。また、今回最優秀新人賞を受賞したマカロニえんぴつは、メジャーデビュー前にも多数の楽曲をリリースしてヒットさせています。前回最優秀新人賞受賞の真田ナオキも、テイチク移籍前に3年間夢レコードから新曲を出しています。つまり新人賞ノミネートが実際には新人でもない状況になっているということです。

 そもそも「メジャーレーベルからのデビュー=新人」という図式が21世紀以降崩れています。バンドだと自主制作→インディーズ→メジャーという流れがあり、ネット音楽だとデビュー前の自主制作がYoutube100万再生だとそれ自体が実績になる状況です。昭和の時代から続く新人の定義が、世の中の移り変わりによって完全に成立しなくなりました。個人的には、新人を定義することが出来ないことを考えると、いっそのこと新人賞ノミネート廃止でもいいと思っているくらいです。新人にとって励みになる存在が一つ減るという意見もありますが、実際レコ大新人賞受賞を目標にデビューするアーティストはどれくらいいるのでしょうか。演歌ならまだ多少いるかもしれませんが、実際には正直ほとんどいないような気がしています。

 どうしても新人賞を決めるとしたら、もう事前に1組だけ最優秀を発表する形式でいいと考えています。最優秀はともかく、そうでない新人は近年そこそこの音楽ファンでも知らない・CDやストリーミングでも実績がないようなアーティストが増えています。さらに言うと、彼らのパフォーマンスが売上上昇のきっかけになったという結果もほとんど出ていません。そろそろここに関しては、思い切った決断があってもいい頃ではないでしょうか。

今はTBSと日本作曲家協会とのせめぎ合い?

 番組を通して見ていると、従来の表彰形式を維持したいと考えられる日本作曲家協会とステージ重視の番組側にすれ違いがあるのでは?と感じる部分が多くありました。

 TBSの番組ページにある「お知らせ」を見ると、明らかに特別賞の方が大々的な宣伝が多くなっています。また実際番組を見ても、多くの時間を割いていたのは優秀音楽賞より特別賞といった印象でした。2021年のヒットという観点で見ても、BTS、YOASOBI、Adoはどの優秀音楽賞受賞曲よりも目立っています。紅白歌合戦も近年は出場歌手より特別枠が目立つ逆転現象が多くなっていますが、今回のレコ大は間違いなくそれ以上でした。

 CDTVライブ!ライブ!を見ても近年のTBSテレビはフルコーラスのパフォーマンス重視で、実際優秀音楽賞・特別賞ともにパフォーマンスの尺は他の歌番組より長かったです。CDTVは基本的にどの事務所・レーベルが強いというブッキングではないので、本来は年末に放送されたスペシャル版の出演者でレコ大もやりたいという意図はあるように見えました。「レコ大しか出来ないパフォーマンス」が番組にある以上、余計に事務所・レーベルの関係で出せないアーティストがいることを考えたように思えます。

 もっともこのパフォーマンスも、私の推測でしかないですが日本作曲家協会の協力があるが故という可能性はあります。つまり言うとこれがあるから予算が増えて生演奏が実現出来る、ということです。本当はジャニーズのグループでもこういった生演奏ステージを見たい、と考えるのは自然だと思いますが…。そうはいかない事情があるということは、視聴者という立場から見ても十分感じられます。

大賞受賞者の知名度とメディアの関係

 今回日本レコード大賞はDa-iCE「CITRUS」が受賞しました。ビルボードでは年間順位36位・ストリーミング1億再生という点で考えるとデータ的には十分妥当です。Awesome City ClubやNiziUの方がデータ的に強いからそっちだろうという意見もありますが、個人的には1億再生くらいの基準以上であればそこから協議して選ぶ形で問題ないと考えています。過去にもノミネート曲で一番のヒットでない楽曲が大賞に選ばれた事例は、山のようにあります。

 自分の主観で言うと、実際ノミネートされた10組のパフォーマンスをテレビで見て、データ抜きのパフォーマンスのみで投票するならDa-iCEに入れていたと思います。それだけボーカル・花村想太と大野雄大の歌声は魅力で、それを最大限に活かす曲作りをしていたように感じました。もちろん他の9組も十分魅力的でしたが、受賞発表前の時点では「もしかするとDa-iCEかもしれないな」と考えていたのは事実です。とは言えそれが的中するとも思っていなかったですが…。

 受賞に関しては、やはり「知らない」という意見が非常に多かったです。それもそのはずで、地上波でのテレビ披露は実際のヒットと比べてやや少なめでした。年末こそ『ベストヒット歌謡祭』『FNS歌謡祭』に出演していましたが、楽曲発表時点あるいは4月にTHE FIRST TAKE出演で順位上昇した時点でもメディアの扱いは決して大きくなかった印象もあります。

 ミュージックステーションに出演していないのはよく語られる部分ですが、個人的には『スッキリ』『ヒルナンデス』出演があったにも関わらず『ベストアーティスト』に呼ばれていないというのが大きなポイントだと考えています(オフィシャルで過去のスケジュールを参照)。日本テレビでは今年2月から冠番組が放送開始、それ以前からもいくつか番組出演があって繋がりは強いのですが…。

 そもそも男性ボーカルグループをジャニーズとそれ以外であまり共演させないことが問題で、ジャニーズへの忖度はよく語られますが、かつてDA PUMPやw-inds.がヒットしていた頃にジャニーズを出さない『HEY! HEY! HEY!』の例もあります(ジャニーズ解禁後は逆の現象が起こります)。Da-iCEにはもっとMステはじめ各音楽番組にブッキングして欲しいとは強く願いますが、それによって仮にジャニーズが出ないとなると意味がありません。あくまで「対抗」ではなく、「共存共栄」でやっていくのが本来の形だと考えます(ライバル関係を作るのは良いと思いますが)。もっともDa-iCEはツインボーカル+ダンサーでEXILEの編成に近く、ジャニーズのどのグループとも共通していないので本来はその議論が起こること自体がおかしいのですが…。

 紅白歌合戦に選出されていないのも一部議論にあがりましたが、そもそも2021年はNHK出演が非常に少ないです。『うたコン』『シブヤノオト』ともに未出演(『うたコン』は2020年出演)、ここは個人的に大変気になる部分でした。おそらく2022年は紅白歌合戦出場も視野に入れていると思われるので、ここの繋がりはもう少し強くした方がいいのではないでしょうか。正直、背景にある事情を加味したとしても出演が少なすぎるという印象でした。

 なお人気という点では全く申し分なく、2021年には全国アリーナツアーが開催されています。アリーナツアーの開催は本当に人気があるアーティストでないと難しいので、そう考えるとレコ大受賞はやはり全くおかしな話ではありません。ただ外部要因が色々あるとしても今は配信環境も充実、実際そちら方面の進出は多いので、彼らの実力を知らしめる広報という部分では現状を考えるとまだまだ課題があるのだろうと思います。

おわりに

 日本レコード大賞は1959年制定、形を変えて現在まで継続しています。ただ紅白歌合戦と比べると、番組はともかく賞レースの根幹的な部分に時代とのズレを感じざるを得ませんでした。これが作られる契機となったグラミー賞について個人的に知識がほとんど無いので、それについて語ることは出来ないですが、少なくとも日本のレコード大賞ほどレーベルごとに考え方が偏っている印象はありません。

 個人的には一時期完全に匙を投げていたレコード大賞ですが、近年の番組内容の良さや日本で古くから残る唯一の音楽賞である現状を考えると、やはりもっと良い内容であって欲しいという気持ちになっています。難しいとは思いますが、まずは各レーベルに対する扱いの偏りを無くすこと・消極的なレーベルを呼び戻すこと。個人的にはこれを目標にすることで、視聴者の不満も少しずつ減っていくのではないかと考えています。さらなる改善を、あらためて期待します。

コメント

  1. ジャニーズが全然注力してないのがねぇ。
    紅白とカウントダウンライブの影響なのかもしれないけど。
    あとは一時期のレーベル贔屓事務所贔屓の影響は深いでしょう。
    あれで視聴率が下がったとも言われてますし。

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