作詞家・秋元康について振り返ります(後編・紅白全歌唱曲リストつき)

 「川の流れのように」以前については前編をご参照ください。

90年代ドラマブームにも一役買う

 1990年代前半は、連続ドラマ主題歌のヒットが昭和期と比べて激増した時期でした。その中には秋元氏が手掛けてヒットさせた作品もいくつかあります。

 1992年秋ドラマ『ホームワーク』は企画協力の1人として参加。主題歌の稲垣潤一「クリスマスキャロルの頃には」の作詞も担当します。楽曲はミリオンセラーを記録、稲垣さんの歴代シングルでは圧倒的な売上となりました。

 『ホームワーク』では挿入歌として、新人歌手・国武万里が歌う「もう離れられない」を起用。彼女は翌年、秋元氏が企画原案を担当したドラマ『ポケベルが鳴らなくて』の主題歌に抜擢されます。作品は大きな話題となり、楽曲もヒットしました。なお国武さんのシングル曲は、1995年まで全て秋元氏が作詞を担当しています。

 1990年代前半は、自身が企画発案したドラマの主題歌で作詞も担当、作品・楽曲双方をヒットさせる事例が多かったようです。『そのうち結婚する君へ』では池田聡「思い出さない夜はないだろう」藤谷美和子・大内義昭「愛が生まれた日」で主題歌・挿入歌ともに大ヒット。『アリよさらば』は矢沢永吉をドラマ主演に呼び込んだことで話題になりますが、「アリよさらば」「いつの日か」の作詞もまた秋元氏でした。

2000年前後も意外にヒット曲あり

 1990年代後半は、とんねるずの番組スタッフで結成された野猿のプロデュースを担当。紅白歌合戦2年連続出場など一定以上の人気・成果は挙げました。ただCD売上はとんねるずのミリオンセラー「情けねえ」「ガラガラヘビがやってくる」ほどの数字ではなく、活動期間も1998年~2001年でやや短めです。

 またおニャン子クラブ以降もねずみっ子クラブ推定少女といったアイドルグループを手掛けますが、そちらはあまり上手くいかなかったようです。なおチェキッ娘は企画立ち上げに協力した程度で、関わりはあまりありません。セガのゲーム機・ドリームキャストの宣伝戦略プロデューサーや『着信アリ』シリーズの原作担当、という仕事もありました。変わった所だと、島崎和歌子を連行して『オールスター感謝祭』の主題歌を放送時間内にCD化するという企画にも作詞で担当しています(Risky「My Life is…」)。


 2000年代前半は中島美嘉「STARS」「WILL」CHEMISTRY「最期の川」EXILE「EXIT」といったヒット曲を作詞しています。ジャニーズも数は多くないですが、少年隊「湾岸スキーヤー」V6「MUSIC FOR THE PEOPLE」KinKi Kids「SNOW! SNOW! SNOW!」などを手掛けています。ただ意外と本当のトップクラスには関わっていないようで、松田聖子やSMAPの曲は1曲も手掛けていません(中森明菜はB面曲を1回だけ担当)。

AKB48以降~現在


 2005年12月にAKB48プロジェクトを開始。過去に例のないほど大人数のグループでしたが、2009年以降はアイドルファン以外にも広く知られる国民的グループに成長。その後も海外含む多くの派生グループ、さらに少しコンセプトを変えた乃木坂46などのグループも成功させて現在に至ります。作詞を手掛けた曲数は歌詞検索だけで3000以上、全て合わせると4000とも5000とも言われていますが、2010年以降だけでも1000は超えている物と推定されます。

 そういった女性アイドルグループ以外にもいまだに多く提供しているのが、秋元氏の凄いところです。2008年に大ヒットしたジェロ「海雪」の作詞も担当。以降も2000年代までと比べて数は減りましたが、アイドルグループと並行して引き続き多くのアーティストに歌詞提供を続けています。

秋元康作詞・個人的ベスト20選(4846以外)

 せっかくなので個人的な作品ベストも、1アーティスト1曲というルールで20作選んでみました。なお48グループや坂道系を入れるとそれだけでほぼ埋まってしまうので、それらは対象から外してます。またとんねるずと野猿、おニャン子クラブとメンバーソロも同一とみなして1曲のみのピックアップとします。

 このラインナップだけを見ても、秋元氏の異常なまでの幅広さが十二分に理解できるのではないかと思っています。

タイトル 歌手 発売日 作曲 備考
1. 情けねえ とんねるず 1991/5/29 後藤次利
2. アリよさらば 矢沢永吉 1994/4/27 矢沢永吉 秋元氏企画原案の同名ドラマ主題歌
3. ドラマティック・レイン 稲垣潤一 1982/10/21 筒美京平
4. 1986年のマリリン 本田美奈子 1986/2/5 筒美京平
5. 海雪 ジェロ 2008/2/20 宇崎竜童
6. 川の流れのように 美空ひばり 1988/12/1 見岳 章 発売日はアルバム『川の流れのように~不死鳥パートII』を掲載
シングルリリースは1989/1/11
7. 愛が生まれた日 藤谷美和子
大内義昭
1994/2/21 羽場仁志 秋元氏企画・原作のドラマ『そのうち結婚する君へ』挿入歌
8. デカメロン伝説 少年隊 1986/3/24 筒美京平
9. SNOW! SNOW! SNOW! KinKi Kids 2005/12/21 伊秩弘将
10. 夜明けのMEW 小泉今日子 1986/7/10 筒美京平
11. 卒業 -GRADUATION- 菊池桃子 1985/2/27 林 哲司 同タイトルのドラマ企画も担当
12. STARS 中島美嘉 2001/11/7 川口大輔 中島美嘉出演のドラマ『傷だらけのラブソング』主題歌
13. 正調おそ松節 細川たかし 1988/3/21 見岳 章
14. じゃあね おニャン子クラブ 1986/2/21 高橋 研
15. 彼女とTIP ON DUO 今井美樹 1988/8/17 上田知華
16. ポケベルが鳴らなくて 国武万里 1993/7/21 後藤次利 秋元氏企画・原作の同名ドラマ主題歌
17. Wブッキング
~LA CHICA DE CUBA~
郷ひろみ 1990/5/21 Ph. Lavil他
18. MUSIC FOR THE PEOPLE V6 1995/11/1 Giancarlo Pasquini他
19. 冷たいキス ICE BOX 1994/4/21 ICE BOX
20. 約束 島田歌穂 1995/4/21 義野裕明 ドラマ『HOTEL』主題歌

紅白歌合戦・秋元康作詞リスト

 ラストは紅白歌合戦から取り上げます。既に作詞家ランキングという形で記事にしましたが、歌唱曲数は第72回(2021年)時点で60曲・歴代2位にまで登り詰めました。AKB48時代はメドレーが多かったのでステージ数は6位ですが、それでも既に屈指の記録となっています。さすがに95曲・127ステージの阿久悠超えは厳しいと思われますが、最終的には後進の作詞家が容易に近づけない数字に到達することは間違いありません。

 全曲リストは以下の通りです。歌手はオリジナル歌唱の表記としました。また、2回以上紅白で披露された曲は太字としています。

初歌唱回 タイトル 歌手 発売日 作曲 備考
第35回
(1984年)
涙雪 森 昌子 1984/10/5 芹澤廣明 シングル「ほほ紅」B面
第36回
(1985年)
なんてったってアイドル 小泉今日子 1985/11/21 筒美京平 第58回(2007年)ではメドレーの1曲として、
中川翔子、リア・ディゾン、AKB48が歌唱
第37回
(1986年)
夜明けのMEW 小泉今日子 1986/7/10 筒美京平
第40回
(1989年)
北国へ 細川たかし 1989/8/10 高橋 研
第41回
(1990年)
Wブッキング
~LA CHICA DE CUBA~
郷ひろみ 1990/5/21 Ph. Lavil他
第42回
(1991年)
情けねえ とんねるず 1991/5/29 後藤次利
第43回
(1992年)
火の鳥 美川憲一 1992/4/23 三木たかし
第45回
(1994年)
愛が生まれた日 藤谷美和子・
大内義昭
1994/2/21 羽場仁志
第45回
(1994年)
HELLO 沢田研二 1994/11/16 後藤次利
第45回
(1994年)
川の流れのように 美空ひばり 1988/12/1 見岳 章 第45回(1994年)はキム・ヨンジャが歌唱
第50回(1999年)・第56回(2005年)は天童よしみが歌唱、第56回は紅組トリ
第67回(2016年)は島津亜矢が歌唱
第46回
(1995年)
ごむたいな 香西かおり 1995/8/23 後藤次利
第47回
(1996年)
Mother 和田アキ子 1996/6/25 鈴木キサブロー 第57回(2006年)でも歌唱
第50回
(1999年)
Be cool! 野猿 1999/2/24 後藤次利
第51回
(2000年)
Chicken guys 野猿 2000/5/31 後藤次利
第52回
(2001年)
ア・カペラ 布施 明 2001/7/25 小池雄治
第53回
(2002年)
WILL 中島美嘉 2002/8/7 川口大輔
第56回
(2005年)
セーラー服を脱がさないで おニャン子クラブ 1985/7/5 佐藤 準 企画コーナーのうちの1曲として、モーニング娘。メンバー他5人が歌唱(記事あり
第58回
(2007年)
会いたかった AKB48 2006/10/25 BOUNCEBACK 中川翔子、リア・ディゾンとの合同ステージ
第66回(2015年)でもメドレーで歌唱
第59回
(2008年)
海雪 ジェロ 2008/2/20 宇崎竜童 2年連続で歌唱
第60回
(2009年)
RIVER AKB48 2009/10/21 井上ヨシマサ メドレーの1曲として披露
第67回(2016年)でもメドレーで歌唱
第60回
(2009年)
涙サプライズ! AKB48 2009/6/24 井上ヨシマサ メドレーの1曲として披露
初歌唱回 タイトル 歌手 発売日 作曲 備考
第61回
(2010年)
Beginner AKB48 2010/10/27 井上ヨシマサ メドレーの1曲として披露
第61回
(2010年)
ヘビーローテーション AKB48 2010/8/18 山崎 燿 メドレーの1曲として披露
第64回(2013年)・第66回(2015年)でもメドレーで歌唱
第61回
(2010年)
ポニーテールとシュシュ AKB48 2010/5/26 多田慎也 メドレーの1曲として披露
第62回
(2011年)
風は吹いている AKB48 2011/10/26 河原嶺旭 メドレーの1曲として披露
第62回
(2011年)
フライングゲット AKB48 2011/8/24 すみだしんや メドレーの1曲として披露
第66回(2015年)でもメドレーで歌唱
第62回
(2011年)
Everyday、カチューシャ AKB48 2011/5/25 井上ヨシマサ メドレーの1曲として披露
第62回
(2011年)
あの街に生まれて 西田敏行 2011/6/22 藤井一徳
第63回
(2012年)
パレオはエメラルド SKE48 2011/7/27 五戸 力
第63回
(2012年)
UZA AKB48 2012/10/31 井上ヨシマサ メドレーの1曲として披露
第63回
(2012年)
ギンガムチェック AKB48 2012/8/29 板垣祐介 メドレーの1曲として披露
第63回
(2012年)
真夏のSounds good! AKB48 2012/5/23 井上ヨシマサ メドレーの1曲として披露
第64回
(2013年)
カモネギックス NMB48 2013/10/2 井上ヨシマサ
第64回
(2013年)
賛成カワイイ! SKE48 2013/11/20 Sungho
第64回
(2013年)
今でもあなた 和田アキ子 2013/7/3 横 健介
第64回
(2013年)
恋するフォーチュンクッキー AKB48 2013/8/21 伊藤心太郎 メドレーの1曲として披露
第66回(2015年)でもメドレーで歌唱
第69回(2018年)・第70回(2019年)でも歌唱
第65回
(2014年)
メロンジュース AKB48 2013/9/4 井上ヨシマサ トップバッターで歌唱
第65回
(2014年)
不器用太陽 SKE48 2014/7/30 章夫
第65回
(2014年)
イビサガール NMB48 2014/6/21 フジノタカフミ 配信リリース
第65回
(2014年)
心のプラカード AKB48 2014/8/27 板垣祐介
初歌唱回 タイトル 歌手 発売日 作曲 備考
第66回
(2015年)
君の名は希望 乃木坂46 2013/3/13 杉山勝彦
第66回
(2015年)
365日の紙飛行機 NMB48 2015/12/9 角野寿和、
青葉紘季
AKB48「唇にBe My Baby」のカップリング曲
第68回(2017年)でもAKB48のメドレーで歌唱
第66回
(2015年)
MUSIC FOR THE PEOPLE V6 1995/11/1 Giancarlo Pasquini他 メドレーの1曲として披露
第67回
(2016年)
サイレントマジョリティー 欅坂46 2016/4/6 バグベア
第67回
(2016年)
サヨナラの意味 乃木坂46 2016/11/9 杉山勝彦
第67回
(2016年)
君はメロディー AKB48 2016/3/9 you-me
第68回
(2017年)
不協和音 欅坂46 2017/4/5 バグベア 第70回(2019年)でも歌唱
第68回
(2017年)
インフルエンサー 乃木坂46 2017/3/22 すみだしんや
第68回
(2017年)
大声ダイヤモンド AKB48 2008/10/22 井上ヨシマサ メドレーの1曲として披露
第68回
(2017年)
11月のアンクレット AKB48 2017/11/22 丸谷マナブ メドレーの1曲として披露
第69回
(2018年)
ガラスを割れ! 欅坂46 2018/3/7 前迫潤哉、
Yasutaka.Ishio
第69回
(2018年)
帰り道は遠回りしたくなる 乃木坂46 2012/5/23 渡邉俊彦
第70回
(2019年)
キュン 日向坂46 2019/3/27 野村陽一郎
第70回
(2019年)
シンクロニシティ 乃木坂46 2018/4/25 シライシ紗トリ
第70回
(2019年)
あれから AI美空ひばり 2019/12/18 佐藤嘉風
第71回
(2020年)
アザトカワイイ 日向坂46 2020/9/23 浦島健太、
NIYA, TETTA
アルバム『ひなたざか』収録曲
第71回
(2020年)
Nobody’s fault 櫻坂46 2020/12/9 デレク・ターナー
第71回
(2020年)
Route 246 乃木坂46 2020/7/24 小室哲哉 配信リリース
第72回
(2021年)
流れ弾 櫻坂46 2021/10/13 デレク・ターナー
第72回
(2021年)
君しか勝たん 日向坂46 2021/5/26 デレク・ターナー
第72回
(2021年)
きっかけ 乃木坂46 2016/5/25 杉山勝彦 アルバム『それぞれの椅子』収録曲

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