2017.7.13 大森靖子2017 LIVE TOUR “kitixxxgaia” in BIG CAT

 メジャーデビュー前の現場を一度でも見ていると、自然にメジャー以降の活動にも注目したくなるものです。大森靖子はまさにその一人。2013年のTOKYO IDOL FESTIVALにおける弾き語りを偶然目にしなければ、今回みたいにワンマンライブに足を運ぶこともなかったかもしれません。と言いつつ、前回見たライブは『洗脳』ツアーで、もう2年経ってます。もっと言うと、今回の会場であるBIG CATは2014年12月のDo As Infinityワンマン以来でこちらも相当久々。メジャーデビュー3年目、今回はアルバム『kitixxxgaia』を引っ提げたライブハウスツアーでした。

 BIG CATはアメ村の中心に位置する比較的大きなライブハウス。時節柄、男性も女性も露出度の高い服装が目に入ります。若者が多いです。コンビニの前で目にしたのは、腰を動かしてセックスするフリをしたカップル。女性の方はアンアンと声も出しています。人通りが多いのでさすがにすぐやめましたが、なんだかこれから見に行くライブを予期しているかのような光景でした。

 今日の会場のBIG CATで並んでいる人は、どちらかと言うと女性が多め。男性もそれなりにいますが、ほとんどの人はカジュアル。他のアーティストTを着ている人もいます。目にした顔ぶれは銀杏BOYZ、マキシマム ザ ホルモン、クリトリック・リス…相変わらずクセのある面々です。公式グッズ装着率は女性の方が圧倒的に高い模様。その黒Tシャツはキュウソネコカミに近いイメージ。名前が大きく書かれたピンクのタオルは、この日28歳の誕生日を迎えたあの方をリスペクトしているかのようなデザインです。中に入ると、流れる音楽は℃-uteに提供した「夢幻クライマックス」。その後も自分が歌う楽曲あるいは提供曲がずっとSEとして流れています。目の前に組まれているステージ、背景の絵もそうですが、何より大きな十字架と銅鑼が目につきます。

 開演、バンドメンバーに続いて登場した大森さんは白いウエディングドレスのような衣装。冒頭のセリフを発した直後、何度も力強く銅鑼を鳴らします。1曲目はアルバム『kitixxxgaia』同様、「ドグマ・マグマ」からスタート。大きな十字架を背負いながら歌う姿、衣装も含めてPVの世界観を表現しています。もちろん迫力は音源およびYouTubeで聴くよりもはるかに上。この時点で2年前あるいはそれ以前に見たライブよりはるかに凄い内容になることを、間違いなく確信出来る内容でした。

 続けざまに演奏されるのは、これもアルバム同様「非国民的ヒーロー」。神聖かまってちゃんのの子と歌う曲、さすがに本人は登場しませんが、”No No No”などは代わりに?オーディエンスがコール。2曲目にして完全に場が温まった状況で、ドロップされる楽曲は「イミテーションガール」「地球最後のふたり」「きゅるきゅる」。ここまでは全てメジャーデビュー以降の楽曲、当たり前ではありますが2, 3年前とは定番曲の顔ぶれがガラリと入れ替わっているようです。

 5曲通した後MC。ですが挨拶と抱負を述べる程度ですぐ次の演奏に入ります。間奏におけるネコニャンニャンのフリが印象的な「ピンクメトセラ」を経て、「LADY BABY BLUE」は新しい曲。今年4月にミスiD2015の2人・The Idol Formerly Known As LADYBABYというユニットに提供した楽曲のようです。その次はメジャー2ndシングル「マジックミラー」。ギターを弾きながら、時には振り回しながら歌われる言葉には本当に胸を突き刺されます。力強い演奏もそうですが、歌声の説得力が本当に凄いです。出産を挟むと歌唱力が落ちたり声質が変わったりすることも多いのですが、大森さんの場合は完全に真逆。明らかに楽曲とともにパワーアップしています。ついでに言うと、ルックスまでかわいくなっています。どうなっているのでしょうか。末は椎名林檎かYUKIの領域に達するのかもしれません。

 1曲ごとに大きな拍手が巻き起こりますが、次に演奏される「M」でガラリと雰囲気が変わります。バンドメンバーはキーボード以外一旦抜けて、シンプルな演奏。『kitixxxgaia』収録曲ですが、レンタルでも流通しているマグマ盤には収録されていません。AV女優の半生を歌ったような歌詞は、哀しくも美しさを感じさせます。大森さんでないと表現できない世界でしたが、更に圧巻だったのが「オリオン座」。一旦バンドメンバーがステージに残りますが、演奏はしません。キーボードを残して全員がコーラス。そのうち大森さんも指揮者のように手を振って、オーディエンスも全員途中から最後まで合唱。

 気がつけば演奏が終わってからの静寂も音として成立している雰囲気。拍手が起きません。むしろこちらが音を出すことが雰囲気を壊すような状況、こちらとしても初めて味わうような感覚です。「君に届くな」「最終公演」「あまい」、この雰囲気が5曲ずっと続きます。至高の時間と言うべきでしょうか、神の領域に達しているとまで言って良いでしょうか。間違いなく他のライブでは見られない空間でした。

 「TOKYO BLACK HOLE」で手拍子を求めることで、通常の空間に戻ります。この曲自体も決してノーマルな楽曲ではないのですが…。そして”音楽は魔法ではない”という言葉を連呼して「音楽を捨てよ、そして音楽へ」


 今回のセットリストはメジャーデビュー以降の曲が圧倒的に多くなっていますが、それだけに大昔から演奏されているこの曲はやはり格別。むしろキャリアを経た今だからこそ、見える景色が広くなったからこそ余計に感じ入る部分も多いような気がしました。バンドメンバー紹介もこの曲の中で入ります。そのメンバーが作った「アナログシンコペーション」で本編は終了。アンコールの時間に入ります。

 2年前のアンコールはたったひとり、楽器もなしに「さようなら」を歌って去っていきましたが、今は全然構成が違うようです。まずはギターの畠山健嗣が登場。彼の進行のもと、バンドメンバーが一人ずつ登場します。ちなみに彼の司会は大森さんたっての希望なんだとか。次に登場したのはドラム・ピエール中野。ONE OK ROCKの、と勝手に称したりジャニーズWESTの新曲を歌ったりするなど(Twitterでも呟いてましたがあまり伝わらなかったようで)、相変わらずよく喋ります。その勢いに畠山さんが戸惑う場面もあったように見えました。

 次に登場するのはハイパー・サクライケンタ。大阪出身ですが大阪には嫌な思い出があるそうで、でもライブで大阪に戻るたびに好きになっているようで。物静かに喋るその姿は、関西出身には全く見えませんでした。16日に東京で行われるピエールフェスを宣伝します。

 サクライさんは、最近とみに注目されているアイドル・Maison book girlのプロデューサーでもあります。そういえば大森さんとコショージメグミの共演も昔から多いです。このフェスにはピエールと大森靖子がDJ、出演者の顔ぶれにはメゾガの他にsora tob sakanaもいます。というよりメゾガのバンドはピエールさんも、直後に紹介される方も参加しているようです。というわけで次に呼ばれるのはキーボード&バンドマスター・sugarbeansでした。

 男性陣が揃った後で、次に呼ばれるのは女性。ギター・あーちゃんは、普段きのこ帝国というバンドで活動している方で、ショートカットがとても似合っています。それぞれ宣伝する流れがあるようですが、きのこ帝国としては特に新しいトピックスもないので”CD買ってください”とのことでした。ベースは股下89に所属しているえらめぐみ。先ほどピエールがワンオクと言っていたので、”私はサイサイの…”と呟いていました。

 全員揃ったところで登場した大森さんは、アイドルのようなピンクのドレス。ものすごい勢いでバンドメンバーと喋ります。サイサイのくだりで、”私だったらSHISHAMOかな” ”売れてるよね、曲いいよね(ピエール)” ”地元の友だち感がいい”と話す辺りに、SHISHAMOもいよいよ売れ始めたなぁとそちらの現場にも行く立場として感じます。ピエールさんは本来どんどん喋って話を広げる役割で先に出ているようですが、その仕事をあまりしていないことに舞台袖で憤慨したようで、ちょっとした説教もあったり(もちろん笑えるレベルで)。

 色々喋った後、オーディエンスに今日起こった不幸自慢を挙手で言ってもらいます。一番不幸だった人がアンコールで演奏される「絶対彼女」サビのソロパートが与えられるということ。病院に行った帰りに車に轢かれて戻った病院の看護婦にうつ病と言われた、ヒモの彼氏が自殺未遂したなどのエピソードが挙がる中で、優勝したのは今日彼女にフラれた、つき合うメリットがないというメールを送り付けられた19歳の少年でした。後ろの方にも喋ってもらうために、ステージのマイクを観客を伝って渡します。コードの長さは20mくらいあるようでした。

 アンコールの演奏を前に、7月13日と言えば大森さんが敬愛する道重さゆみの28歳の誕生日。”知らない人もいるかもしれませんが”と話してはいますが、おそらく会場にいる人なら全員知っているはず。というわけで当然演奏されたのは「ミッドナイト異性清純交遊」。これまた本人たっての希望で写真撮影OK、そして”#道重さゆみ生誕祭”をつけてSNSに流して欲しいとのことでした。

 

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 この次に演奏されるのが「IDOL SONG」なのもまた格別。アイドル自己紹介をひたすら並べた歌詞もそうですが、何より歌っている本人が持つマイク。ちゃっかり小指を立てているところが、たまらなく愛おしかったです。ラストは「絶対彼女」。もうこの曲はアンコール恒例なのでしょうか。サビをみんなで歌ってもらうシーンの呼びかけ、女の子・男の子はよくありますが”ハゲかかっている人!” ”童貞!” ”ヤリマン!”なんて振る女性歌手はおそらくこの人しかいないと思われます。なお童貞と振られて歌っている人は一人も無し、ヤリマンに関しては数人、あと本人が高らかに歌っていました。

 後半は先程の、メリットがないから彼女にフラれた人にマイクを向けてソロでサビを歌ってもらう展開もあります。更に途中「デートはやめよう」を挟んで”エロいことをしよう”を大合唱する場面もありました。本編の芸術性も凄まじかったですが、アンコールはあくまでエンターテインメントとして楽しい空間を作り上げていました。

 というわけで、数ヶ月に1回というペースで見ていた2~3年前と比べてもかなり変化を感じさせたライブでした。BIG CATは後方までしっかり埋まっていて、力強い演奏も含めてオーラは完全にメジャーレーベルのアーティストそのもの。ただ昔から残るアングラ的な雰囲気も変わりありません。

 BIG CATに30人しか集まっていない、でも5年くらい10人~20人の現場があったからそれでも嬉しいし多いかもしれない、ただこのバンドメンバーとして考えるとやっぱり少ない、そんな夢を見たという話をアンコールMCでしていましたが、会場が大きくなっても本質としてはそこまで変わっていない様子でした。ただ楽曲の世界がディープなままより広がりを見せ引き出しが多くなり、バンドの迫力が増して歌が更に上手くなって見た目がかわいくなって…。少なくとも、完全にオンリーワンの領域に入っていることは間違いありません。

 あとはもっと、彼女の凄さをより多くの人に知って欲しいです。YouTubeで少し聴いただけだとメンヘラとしか思えないかもしれませんが(本人も自嘲気味にそう言われると語ってます)、アルバムをしっかり聴けば・ライブを見ればもっと深くもっと広くもっと大きく。非常に考えられている上に、類稀な頭の良さを感じさせるアーティストであることが本当によく分かると思います。

 今回公式でアップされているライブ動画もレビューに入れています。もし良ければ、見て凄さを感じて欲しいと思っている次第です。

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