紅白歌合戦名言集は基本的に1ツイート1記事で考えているのですが、この3つはほぼ同じ時系列で起こった出来事なので一つにまとめました。今回は2001年・第52回NHK紅白歌合戦で、堀内孝雄さんがこの年亡くなった盟友・河島英五さんを偲んだステージです。曲紹介を担当した白組司会・阿部渉アナは、あまりの内容にこの後の段取りで完全に感極まり、一瞬進行に支障をきたすほどでした。それくらいに、日本中が涙した紅白史上の名ステージを紹介します。

 

・河島英五さんと紅白

 河島さんの業績は他のHPを見て頂いた方がより詳しいので、そちらに任せるとしまして。

 生前の河島さんは第42回(1991年)の紅白歌合戦に出場しています。楽曲は「時代おくれ」。白鶴のCMソングとして広く親しまれ、その歌詞は当時働き盛りの40代を迎えた団塊の世代中心に支持を集めました。もっとも、楽曲を作ったのは「あの鐘を鳴らすのはあなた」コンビの阿久悠氏(作詞)と森田公一氏(作曲)でしたが。1986年発売、その5年後になって紅白出場に至った理由としては、1991年6月に放送された特別番組『阿久悠 歌は時代を語り続けた』で歌った際に反響が大きかったためのようです。

 本番はピアノの弾き語り。前半戦白組トリの曲順で、河島さんらしく歌い上げました。ただ2番の歌詞の歌い出しを間違え、そのままBメロとAメロをテレコにして歌う形にしたため途中から歌詞テロップが完全に消えてしまいます。「時代おくれ」の映像がNHKで振り返られる時にあまり紅白の映像が出てこないのは、そのためです。とは言え聴く人の胸を打つステージであったことは、疑いようもありません。

 

・紅白史上初、映像とのデュエットステージ

 河島さんが亡くなった時の年齢は、48歳という若さでした。個人的に特別ファンでない私からしても、彼の訃報は大変衝撃を受けました。それは関西中心に親交のあった芸能人、特にフォークを主体としていたミュージシャンにとって全く想像できない出来事だったと思います。確かに、生涯酒とともに生きた人生とは言われていますが…。

 当時10年以上紅白に連続出場していた親友の堀内孝雄さんが、自らの新曲も差し置いて彼の持ち歌を選んだのも自然なこと。ただ故人の映像をモニターに流してデュエットで歌う演出は当時紅白史上初の試み。スクリーンやモニターを使う演出は、中継が取り入れた第41回(1990年)や第42回(1991年)で採用されましたがその後は原則なく、ようやく前年第51回(2000年)でVTR演出が解禁したばかり。今では舞台転換よりも多いステージの大画面LED使用でさえも、2年前の第50回(1999年)で取り入れられたばかりでした。

 そんな発展途上の映像技術において過去の映像とのデュエット演出なので、技術的にもただの追悼ステージ以上の意味を持つ内容になります。もっともそこに至って当時の最新技術を駆使するということは、それだけ生前の河島さんが多くの人に愛されていたかという証。迎えた本番、司会者という役割以上の情が入る阿部さんの曲紹介から入ります。映像に切り替わると、ステージ上の堀内さんは既に泣いています。それとほぼ同時にテレビの音声にも乗った観客席からの声援は、後日河島さんのご子息によるものと伝えられました。

 「酒と泪と男と女」をギター弾き語りで堀内さんが1コーラス歌った後に、生前の河島さんが映像で2番を歌います。その声に乗せて、堀内さんがサビをハモる姿が余計に涙を誘います。視線だけでなく首の動きも、明らかに河島さんの映像に向けられています。おそらく会場やテレビの視聴者も、ほぼ全員そうだったものと思われます。

 最後のサビを2人で歌い、ラストは「サンキュー」ではなく、「英五ありがとう!」と高らかに叫びます。堀内さんの表情、河島さんのビジョン、その横で観客に3度会釈する堀内さんの姿。ビジョンの映像が消えるまで、拍手は全く鳴り止むことがありませんでした。その後に阿部さんが泣く姿も含めて、紅白歌合戦でここまで大きな余韻を残したシーンは、過去・その後も通してもほとんど例がありません。

 

・その後

 故人との映像デュエットはその後も、第54回(2003年)の平井堅×坂本九、第58回(2007年)の小椋佳×美空ひばりで実現しています。また同じ第58回では、NHK大阪ホールからZARD・坂井泉水さんの映像と歌声に乗せて会場でバンド演奏するという演出も見られました。LEDビジョンの画質が上がり大型化した2010年以降は、デュエットという形で無いにしても生前の映像がステージで同時に流れる場面も登場。最終的には、今のところ第70回(2019年)のAI美空ひばりまでの発展に繋がっています。というわけで、技術はこの20年もの間にも大きく進歩しています。ですが映像技術の進歩とアナログなヒューマンパワーがここまで融合して感動を産むステージは、今後もなかなか生まれないように思います。技術のデジタル化・バーチャル化がより進んだからこそ、余計にそう感じる部分もありますね…。