紅白歌合戦と加山雄三で思い浮かべるフレーズは、多くの人が「仮面ライダー!」だと思います。実に35年前の話ですが、いまだに度々この発言は蒸し返されています。ただ紅白における若大将の迷場面は、他にも色々あります。そこで今回紹介するのは、1978年のこの一幕。私的にはものすごくインパクト強い場面ですが、ネタにされている機会は今まで見たことがありません。

 

・全力で郷ひろみを応援する若大将

 場面は白組トップバッター、郷ひろみさんが「バイブレーション(胸から胸へ)」を歌おうとする場面。当時は舞台両サイドに歌手席が存在していて、それぞれステージに立つ自軍の歌手を応援するのが恒例でした。山川アナの紹介後に”イェーイ、ヒロミ、フィーバー!”と全力で応援するのは、この年白組応援団長を務めた西田敏行さん。

 舞台中央後方から颯爽と郷さんが登場します。西田さんが自らステージに向かい、郷さんにマイクを渡します。原曲よりもかなり速いテンポ、衣装は紫の羽根を全身にまとった衣装で、手を広げると白いマントが開きます。8年前に「愛は不死鳥」を歌った布施明さんに近いイメージ、もう少し分かりやすくいうと翌年のジュディ・オングさんの進化前といったところでしょうか。とにかくインパクトは大きく、この後に連続テレビ小説『わたしは海』絡みで応援に登場したかしまし娘の正司照江師匠が思わず”郷さんの衣装おもろかったなぁー”とネタにするほどでした。

 さて、イントロで映像には郷さんの全身が映るわけですが、そこになぜかマイクオンで入る若大将の応援。

H・I・R・O・M・I、ヒロミ!GO! GO! GO! GO! GO! GO! ヒロミ!

 体感的には、これくらいの大声だったように思います。近年の紅白で言えば、ウラトーク席で西川貴教さんが大声で「女々しくて」他を歌っていたくらいの。それくらいに全力で応援していました。

 おそらく若大将は歌手席のひな壇の最前列くらいにいたはずで、マイクも本来なら渡されていないはずです。マイクのオンオフに関するハプニング、だろうとは思いますが…。ただ他の白組常連歌手でもここまで全力で応援する人はあまりいないような気もします。1980年以前全ての紅白歌合戦を見渡しても、こんな場面は全くありません。ちなみにこの曲の応援で常にこういったコールが入るかどうかは、実際のライブを見ているわけではないので不明です。

 

・これだけ紅白に協力的な映画俳優は異例のこと

 俳優、特に男性に関して言うと、歌謡番組の出演とりわけ紅白歌合戦にはあまり協力的ではありません。石原裕次郎さんや鶴田浩二さん、高倉健さんなどは多数ヒット曲があるにも関わらず歌手としての紅白出場は一度も無し。小林旭さんはまだ協力的な方でしたが、それでも昭和期は「昔の名前で出ています」「熱き心に」の2回のみで1960年代は出場無し。仮に出場したとしても、渡哲也さんや寺尾聰さんは自らのステージ以外の余興にはほぼ出てこない形。

 そういう意味では自らのステージ以外でも率先して応援に出てくる若大将は例外中の例外です。もっとも彼の場合自らギターを弾いて曲を作る歌手という側面も他の俳優より明らかに強かったので、紅白には自ら俳優でなく歌手という意識で貢献していたのかな…とも感じます。ですのでそもそも映画俳優の中でも1人だけ位置づけが全く違っていた、とも言えます。

 この年は若大将以外にももう1人例外がいます。白組応援団長を務めた西田敏行さん。とにかく番組と白組を盛り上げる為に出来ることは全てやったという印象で、自分の出番後すぐに着替えて歌手席で白組歌手をオーバーアクションで応援する、という場面が多々ありました。ステージによっては、メインの歌手より西田さんの動きの方が目に入るという状態でもあったほど。この3年後に大河ドラマ『おんな太閤記』で準主役の豊臣秀吉役と、『池中玄太80キロ』から主題歌がヒットして白組歌手として初出場となり、最終的には現在まで日本の俳優代表という存在になります。

 この2人に共通しているのは、おそらく紅白に限らず目の前の仕事に全力で取り組んだこと良い意味でプライドが高くなく仕事をあまり選んでいないこと。もちろん仕事にはそれぞれの美学があるはずで、どれが良くてどれが悪いというのはありません。ただ若い時の様子をこうやってあらためて見ると、70歳を超えても第一線で絶えず仕事が続くのは実に自然なことと思うわけです。あとやっぱり性格的に大変明るくておおらかなのだろうとも感じますね。若大将はあれだけ仮面ライダーのことがネタにされているのに関わらず、全く不機嫌になる様子もないですし、西田さんも出演作品で怒っている場面を見たことがないので…。

 というわけで、締めとしては若大将のおおらかさが非常によく表れたエピソードの一つ、ということでよろしくお願いします。