第72回(2021年)NHK紅白歌合戦~その8~

白19(全体41):BUMP OF CHICKEN(6年ぶり2回目)

・1996年結成、1999年デビュー 第66回(2015年)初出場
・全員42歳・4人組 千葉県佐倉市出身
 楽曲1:「天体観測」(2001/3/14 シングル)
 楽曲2:「なないろ」(2021/5/18 配信)
  詞・曲:藤原基央
・歌前テロップ:結成25周年 時をこえるスペシャルメドレー
・歌唱中テロップ1:発売から20年の代表曲
・歌唱中テロップ2:気仙沼から「おかえりモネ」の感動再び
・演奏時間:7分6秒(曲間の映像含)
・会場:東京スタジオ、気仙沼市大島田中浜

 ゲスト審査員の清原果耶坂口健太郎が舞台袖に登場。清原さんの語りで構成される『おかえりモネ』のVTRが流れます。ドラマの舞台は10年前の大震災で被害を受けた気仙沼市ですが、そのドキュメンタリー映像です。百音と同様、中学3年生の時に震災を経験した気仙沼市役所観光課職員の小松萌さんにインタビュー。震災当時のことや、10年間で感じたことなどを、地元の日々の映像込みで話してもらいます。こちらも3分近い時間でやや長めですが、視聴者的にはクライマックスがずっと続いてた状況なので、ちょうど落ち着く時間でもありました。

 VTR明けには清原さんにもドラマに出演した感想を話してもらいます。「このドラマが東北だったり、宮城県の皆さまの力とか勇気に少しでもなれたらいいなと思いながら作っていたので、こうやって紅白の舞台に立たせて頂けることが、ひとえに皆さんの応援のおかげだなと、すごく思っています」。その後曲紹介も担当。最後に「東北の皆さんに届けますように」のメッセージも添えました。

 冒頭宇宙から地球に、そして演奏を披露する場所にフォーカスする映像は、20年前のMVをオマージュしています。スタジオに組まれたセットも当時のMVに近い雰囲気です。国民的名曲と言って差し支えのない「天体観測」ですが、テレビではSONGSに出演した2015年以来2回目です。直井由文のベースの音で、普段のトラックとは違う生演奏であることが非常によく分かります。長年のファンだけでなく、この曲を当たり前のように聴いてきたアラサー~アラフィフ世代には特にグッとくるステージだったのではないでしょうか。なお、テレビでフルサイズVer.以外の演奏は今回が初めてということらしいです。

 

 「天体観測」が終わると、『おかえりモネ』の映像に切り替わります。中学を卒業してから10年後、吹奏楽部の部員が体育館に再集結して演奏。永浦百音(清原果耶の他に、及川亮(永瀬廉永浦未知(蒔田彩珠)野村明日美(恒松祐里)後藤三生(前田航基)早坂悠人(髙田彪我)も一緒です。リモートで応援するのは、米麻町森林組合の新田サヤカ(夏木マリ)佐々木翔洋(浜野謙太)川久保博史(でんでん)と、よねま診療所の菅波光太朗(坂口健太郎。ちょっとした同窓会といった雰囲気で時間は短いですが、ドラマ視聴者にとっては非常に嬉しい場面です。なお出演俳優以外はプロの演奏の方々で、Twitterで出演しましたという情報がアップされています。

 「なないろ」は気仙沼大島・田中浜の海岸からの演奏です。最初はスタジオの合成映像かと思いましたが、実際にスピーカーなども設置してしっかり演奏しています(たださすがに生ではなかったようですが)。砂浜にこういった機材を持ち込むのは、相当気を遣う部分が多かったのではないかと推測します。ここは『おかえりモネ』のラストシーンが撮影された場所で、ドラマ視聴者にとってはこの上なく粋な演出でした。間奏では先ほど体育館で行われた演奏後のシーンも挿入、テレビの視聴者の皆さんに「ありがとうございました」と挨拶。砂漠からの中継は第63回のMISIAがありますが、海岸は今回が初めてです。ちなみにTwitterでは前日に目撃情報もありました。

 演奏後ボーカルの藤原さんが「ありがとうございましたBUMP OF CHICKENでした」と挨拶。ただこのタイミングで川口さんが声を被せてしまうミス。もっとも約4時間の放送で、目立ったミスをしたのはこの場面のみでした。またバンプがパフォーマンスする7分間で、司会者3人が衣替えしています。今回は全体的に和久田アナが一番派手な衣装のように見えますが、気のせいでしょうか。

 ゲスト審査員の谷真海も気仙沼出身なので、このタイミングでコメント。「なないろ」を聴くと故郷のことを思い出すので嬉しい気持ちです、と話します。

解説

・この年放送された連続テレビ小説『おかえりモネ』は、宮城県気仙沼市・登米市が舞台です。放送60周年・NHK東日本大震災プロジェクトの一環として非常に力を入れた作品でした。

夏木マリは1970年代に歌手として「絹の靴下」などヒット・『カーネーション』主演もあるのでかなり意外な紅白初出演でした。一方でんでんは『あまちゃん』企画で登場しているので、紅白出演は8年ぶり2回目。浜野謙太は第70回・椎名林檎のステージで本職のミュージシャンとして出演しています。

BUMP OF CHICKENは当初「なないろ」のみの発表でしたが、後になって「天体観測」のパフォーマンスが追加となりました。この年は松田聖子が娘の急逝によって出場辞退、それに伴う空き時間確保という意味合いもあったのではないかと思われます。

企画6(全体42):さだまさし(2年連続21回目)

・1974年デビュー、1976年ソロデビュー 第30回(1979年)初出場
・1952年4月10日生 長崎県長崎市出身
・楽曲:「道化師のソネット」(1980/2/25 レコード)
  詞・曲:さだまさし
  演奏:さだ工務店 Apf.:倉田信雄 Ag.:田代耕一郎 Per.:木村 誠 Bass:平石カツミ Vlc.:徳澤青弦 Vl.:藤堂昌彦 Obe.:庄司さとし Dr.:島村英二
・歌前テロップ:名曲「道化師のソネット」を紅白初披露
・歌唱中テロップ:今こそ 笑顔を忘れずに!
・演奏時間:4分39秒
・会場:両国国技館

 両国国技館から中継が入ります。前回の特別出演も本来はここからの予定だったと思われるので、1年越しで実現する形になりました。NHKでは1985年以降、1年のうち45日間ここから大相撲中継が毎年放送されていますが(1984年以前は蔵前国技館から)、同じ場所でのコンサートが紅白で放送されるのは史上初です。演奏前の司会者のやり取り、先ほど細川さんが大泉さんと北海道弁でやり取りした場面がありましたが、さださんは「春奈ちゃん、長崎にはよ帰ってこんねぇ~」とメッセージ。思わぬ故郷言葉に感動する川口さんの顔が、ワイプでもしっかり映ります。

 会場は本来土俵のある場所がステージになっていて、360度客席モードになっています。楽曲は40年近く愛されているスタンダードナンバーですが、意外にも紅白では初披露。笑顔をテーマにした歌詞が、いつ聴いても素晴らしいです。一つだけ気になったのは、国技館の観客が持つペンライトの振り方。それぞれ好みはあると思いますが、個人的には1拍ごとではなく2拍ごとに振りたいと感じてしまいました。

 この日は21時開演、このステージの直後にはももいろ歌合戦の中継もありました。年が明けて0時20分からはお馴染み『年の初めはさだまさし』もここから生中継、両国国技館の観客にとってはこの上なく贅沢な空間だったのではないでしょうか。

解説

・年に3回45日は大相撲中継でNHKと大きく関わる両国国技館ですが、紅白歌合戦の中継場所として使用されるのは初めてです。予定では前回第71回が初になるはずでしたが、あいにくのコロナ禍でコンサートが中止になったという背景がありました。

・数字的にも大ヒット・内容的にも後世に伝わる名曲「道化師のソネット」も、意外なことに紅白では初歌唱となります。自身が主演・音楽監督を担当した映画『翔べイカロスの翼』主題歌でした。なおこの曲が発表された1980年の紅白では、『二百三高地』の主題歌「防人の詩」を歌っています。

紅18(全体43):東京事変(2年連続2回目)

2003年結成、2004年デビュー 第71回(2020年)初出場
・43歳~57歳・5人組
・楽曲:「緑酒」(2021/3/
30 配信)
  詞:椎名林檎 曲:伊澤一葉
・歌前テロップ:このあと歌う「緑酒」とは…美味い酒のことです
・歌唱中テロップ:希望あふれる明日を願って
・演奏時間:4分5秒

 東京事変は今回会場からの登場椎名林檎の和服姿も、紅白ではお馴染みです。歌前トーク、コロナが落ち着いたらやりたいことは「豪遊」。温泉に行ってしっぽりと、何もしない贅沢を楽しみたいようです。ちなみに大泉さんにとっての豪遊は「アカプルコに行くことです!」「…行けると、いいですね~」と返す川口さんが、某水曜のアレを知っているかどうかは不明です。

 林檎さんが拡声器型マイクを使うシーンはそれほど珍しくありませんが、紅白では9回目の出場にして初採用。全体を通しても初めての演出ですが、意外とこれまで無かったのだなという印象もあります。MVと同じ衣装でもあるので違和感は全く無いですが、よく考えると紅白で全員が和服で演奏する場面も林檎さん以外で見た記憶がありません。途中スクリーンに登場する美しい桜も、MVと同様です。

 今回はクライマックスのラストサビで、突然大量に桜の紙吹雪演出が入りました。画面を埋め尽くすほどの量は、歌う林檎さんよりも演奏する方が大変だったのではないかと思われます。ちなみにこれは、林檎さん直々のリクエストだったとか…。一応前回純烈もこの演出をやっていますが、やはりすぐに思い浮かぶのは「風雪ながれ旅」を歌う時の北島三郎で間違いなく、事実前回白組司会だったはずの大泉さんもサブちゃんの名前を真っ先に挙げていました。

解説

・前回は縦書きの歌詞テロップ、今回はトラメガ型のマイクが紅白初登場となりました。なお終盤のドカ紙吹雪は北島三郎「風雪ながれ旅」や森進一「北の螢」などで採用済です。

・「緑酒」も「夜明けのうた」同様テレビ東京報道番組タイアップ、こちらは『WBSワールドビジネスサテライト』のエンディングテーマ曲です。この年は他に「闇なる白」も発表、6月には再始動後初のアルバム『音楽』がリリースされました。

・アカプルコはメキシコ南部にあるリゾート都市で、多数の映画のロケ地としてお馴染みの場所です。『水曜どうでしょう』で大泉さんがしきりに挙げるかの地ですが、おそらくはまだ番組は当然としてプライベートでも足を運んでいないものと思われます。

紅19(全体44):薬師丸ひろ子(7年ぶり2回目)

・1981年デビュー 第65回(2014年)初出場
・1964年6月9日生 東京都港区出身
・楽曲:「Woman “Wの悲劇”より」(1984/10/
24 シングル)…7年ぶり2回目
  詞:松本 隆 曲:呉田軽穂
  指揮:下野竜也 演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
  ピアノ:松任谷正隆
・歌前テロップ:松任谷正隆アレンジでオーケストラと共演!
・歌唱中テロップ:歌手デビュー40周年 色褪せない名曲
・演奏時間:4分1秒
・会場:渋谷・NHK

 渋谷のNHKから中継。歌前やり取りの中で、歌手生活40周年に際してのコメントを、感謝を込めながら丁寧に話します。大量の花で埋め尽くされている後ろの背景が印象的です。

 スタジオはSONGSで多い360度囲むタイプのステージです。東京フィルハーモニー交響楽団は先ほどYOASOBIのステージに生出演していたので、この時点で事前収録であることが分かります。ピアノ演奏・サウンドプロデューサーは前回出演時、そして1984年に発表された時と同様松任谷正隆が担当。イントロからクラシックのアレンジが入り、さらにスタジオならではの宇宙をイメージしたCGグラフィックも美しい壮大なステージでした。薬師丸さんの歌声も緊張を感じた7年前と比べて、多少やわらかく落ち着いた内容に仕上がっています。

解説

・「セーラー服と機関銃」「探偵物語」などヒット曲は他にもありますが、結果として2回連続「Woman “Wの悲劇”より」に落ち着きました。この年は松本隆作詞生活50周年を記念したトリビュートアルバムがリリース、女優の池田エライザがこの曲をカバーしています。

・歌詞検索サイトに掲載されている呉田軽穂(松任谷由実)の楽曲は27曲。その多くが松本隆の作詞です。これについては薬師丸さんよりも松田聖子の方が著名で、「赤いスイートピー」「渚のバルコニー」「制服」「時間の国のアリス」などアルバム曲に至るまで多数存在しています。

・タイトルが示す通りこの曲は映画『Wの悲劇』主題歌で、歌だけでなく主演の演技も非常に高く評価されました。「セーラー服と機関銃」「探偵物語」「メイン・テーマ」と角川映画メインの活動が彼女の10代でしたが、1985年以降は独立。同年にヒットした「あなたを・もっと・知りたくて」は映画でなくNTTのCMソングでした。

紅20(全体45):石川さゆり(38年連続44回目)

・1973年デビュー 第28回(1977年)初出場
・1958年1月30日生 熊本県熊本市出身
 楽曲1:「火事と喧嘩は江戸の華」(2020/2/19 アルバム『粋~iki~』)
  詞・曲:石川さゆり / KREVA / 亀田誠治
  ゲストミュージシャン:KREVA, MIYAVI
 楽曲2:「津軽海峡・冬景色」(1976/11/25 アルバム『365日恋もよう』)…2年ぶり12回目
  詞:阿久 悠 曲:三木たかし 墨絵:西元祐貴

・歌前テロップ:KREVA × MIYAVIで届ける”日本の粋”
・歌唱中テロップ1:KREVA × MIYAVI 日本の粋を歌う
・歌唱中テロップ2:時代を超えて愛され続ける曲
・演奏時間:4分0

 スペシャルな共演が見どころですが、曲紹介はやや短め。少し時間が押している雰囲気です。ステージはMIYAVIのギター演奏から開始、そこからさゆりさんとKREVAさんのラップバトルに展開。今回のさゆりさんの初記録は1歌手による6年代歌唱だけでなく、ラップ披露やメドレー披露、本人の作詞作曲クレジットも含まれます。1分8秒でやや短めのパフォーマンスでしたが、内容は「津軽海峡・冬景色」「天城越え」ばかりで不満を持つ方々にも十分満足いく物だったと思います。さゆりさんは2曲しか紅白で歌っていない裏で相当ジャンルを超えた試みを展開しているので、次回「天城越え」を歌う際もこういった形で別の曲を入れるのもアリかもしれません。

 本編の「津軽海峡・冬景色」は第70回のオーケストラアレンジに近いか、もしくは同様の編曲でした。演出は白い紙吹雪とドライアイスで、ここ最近では王道に近い部類です。間奏からはスクリーンに、荒波や雪山をイメージしたような墨絵の演出も加わりました。1コーラス半の可能性も考えられましたが、じっくり2コーラス歌唱。2年後の紅白も楽しみです。なお大泉洋さんの「ブラヴァーは、今回の紅白で唯一となる2年連続でした。

解説

・KREVAはKICK THE CAN CREWの第53回以来19年ぶりの紅白出演ですが、その間もソロミュージシャンとして多数ヒット曲を飛ばしています。ユニットは2004年に一旦活動休止しますが、2017年に再始動。その後はソロ・ユニット双方で積極的な活動を展開しています。

・MIYAVIは第65回、SMAPのゲストミュージシャンとして出演して以来7年ぶりの登場です。この年はメジャー14枚目のオリジナルアルバム『Imaginary』をリリースしています。

・さゆりさんが「津軽海峡・冬景色」「天城越え」以外を紅白で歌うのは、第57回の「夫婦善哉」以来15年ぶり。ジャンルを問わない活動を毎年展開していますが、企画コーナーを除くと演歌以外を紅白で歌うのも今回が初めてとなっています。

コメント

  1. BUMP OF CHICKENは全部別日に撮ったVTRだったようですね。本人達の意向もあるんでしょうが、個人的にはせっかくの紅白、生放送の音楽番組なんだから普通はちゃんと生出演してホールかスタジオで歌うのが常識じゃないかと思うんですが。前回今回のようなコロナ対策は別としても、かつてある方が言っていた「ホールに穴が開く」という言葉がよく分かります。

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