第72回(2021年)NHK紅白歌合戦~その9~

白20(全体46):氷川きよし(22年連続22回目)

・2000年デビュー 第51回(2000年)初出場
・1977年9月6日生 福岡県福岡市出身
・楽曲:「歌は我が命」(1976/5/29 美空ひばり)
  詞:吉田 旺 曲:井上かつお 編曲:沢田 完
・歌前テロップ:「歌は我が命」美空ひばりの名曲を歌い継ぐ
・歌唱中テロップ:美空ひばりを歌い継ぐ
・演奏時間:3分31秒

 今回氷川さんが歌うのは、美空ひばりの知られざる名曲「歌は我が命」。VTRでは、芸能生活35周年記念リサイタル武道館ライヴでこの曲を歌うひばりさんが紹介されます。歌唱前に氷川さんとトーク、今年は「お仕事でも自分を出せるようになってきて」「充実した一年」と語ります。楽曲については「自分の歌手人生と重ね合わせながら歌わせて頂きたい」とコメント。

 曲紹介の後、少しの静寂を置いて演奏が始まります。正面から少しずつアップになってまた引くだけのカメラワークは、第63回~第66回に出場した美輪明宏と共通します。ラメ入りの黒マントを羽織っていますが、黒に統一した服装はここ2年の限界突破と全く違います。そもそもここ数年の中性的なキャラクターも含めて美輪さんに擬えた視聴者も、SNSを見る限り多そうでした。暗転など照明に全く変化をつけていない点を含めると、もしかしたら当時の美輪さん以上にシンプルだったかもしれません。目立つ装飾物といえば、マイクにある赤紫色の薔薇だけだと思います。

 語るように始まり、クライマックスで言葉に最大限の気持ちを込める歌唱は、やはり凄まじい物がありました。そもそもひばりさんは演歌だけでなく、ジャズやポップスなど全くジャンルに拘らない歌手というのが私の見方で、仮にご存命ならばR&Bやロックは当然として、ボカロなどのネット音楽まで積極的に歌うような人だと考えています。その意味で考えると、現在の歌手でひばりさんに一番近い位置にいるのは、歌唱力が高い上に演歌を中心にロックやアニソンも網羅する氷川さんなのかもしれません。そんなことをあらためて思わせる大熱唱でした。

解説

美空ひばりの誕生日は5月29日、1967年から1976年まで毎年この日にリリースされたアルバム(当時はLP)集が『歌は我が命』でした。楽曲は1976年、第10集の1曲目に収録されています。シングル化は没後の2007年が最初です。また1989年、生前最後の全国ツアータイトルも「歌は我が命」でした。

氷川さんのカバーはコンサートだと、2016年ディナーショーや2019年での歌唱が確認できます。後者はYouTubeで動画が配信されました。歌の方は翌年6月14日に、配信シングルとしてリリースされる形となっています。

・ワンカットのみのカメラワークは、第60回の絢香「みんな空の下」や第63回~第66回における美輪明宏のステージを彷彿とさせます。カメラ自体が少ない1960年代以前は分かりませんが、近年ではなかなかない演出のひとつです。

白21(全体47):布袋寅泰(初出場)

・1982年デビュー、1988年ソロデビュー
・1962年2月1日生 群馬県高崎市出身
・タイトル:「さらば青春の光<紅白SP>」
 楽曲1:「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」(2000/11/29 アルバム『新・仁義なき戦い。 そしてその映画音楽』)
 楽曲2:「さらば青春の光」(1993/7/28 シングル)
  詞・曲:TOMOYASU HOTEI
・歌唱中テロップ1:パラリンピック開会式でも響いた
・歌唱中テロップ2:駆け抜けて40周年 HOTEI
・演奏時間:4分3秒
・会場:渋谷・NHKスタジオ

 今年パラリンピック開会式で行ったパフォーマンスと、ライブ映像中心のアーティスト活動40年の足跡をVTRで振り返られます。その後すぐに渋谷NHKスタジオから中継、「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」、日本語でいう「新・仁義なき戦いのテーマ」の演奏が始まります。国際的には「キル・ビル」のテーマと言った方が、通りはいいかもしれません。

 スタジオのセットが中央から左右に動くと、布袋さんが右腕を伸ばして人差し指を指すポーズで登場。世界にも広く認められるギタープレイが炸裂します。映像の格好良さも、布袋さんの魅力をさらに増幅させます。そのままスクリーンのセットがカメラの外側に移動・バンドメンバーが登場して「さらば青春の光」の演奏開始。遠目から見る限りでも音を聴いていても抜群のキャリアを感じさせるメンバーで、一音一音の迫力が半端ないことになっています。

 「スリル」「POISON」「バンビーナ」「CIRCUS」「RUSSIAN ROULETTE」など数多くの名曲がある布袋さんですが、メロディーだけでなく自らが綴る歌詞も魅力的であることを忘れてはいけません。「CHANGE YOURSELF!」「サレンダー」、そして今井美樹に提供した「PRIDE」もその類だと思いますが、今回の紅白で選曲された「さらば青春の光」はまさにその真骨頂です。1993年発表でもう28年前の曲ですが、ラストサビの歌詞は人生の応援歌としていつの時代にも通じる内容だと思います。最高のステージでした。歌唱後司会者とやり取り、ラストの一言は「今年頑張った皆さんに、お疲れ様とありがとうを伝えられて本当に嬉しかったです、どうもありがとうございました!」

解説

布袋寅泰は第57回(2006年)に妻である今井美樹「PRIDE」、第69回(2018年)に石川さゆり「天城越え」にギター演奏で出演しています。したがって紅白歌合戦は3回目ですが、自ら歌うステージは言うまでもなく今回が初めてです。

「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」は映画『新・仁義なき戦い。』のテーマソングで、同作には自身も俳優として出演しています。その後クエンティン・タランティーノ監督の指名で『キル・ビル』のメイン・テーマにも使用。したがってサブスクではこの曲の再生数が他と比べても圧倒的に多いです。

・数あるヒット曲の中から紅白で選曲されたのは「さらば青春の光」、これは1993年に萩原健一主演のドラマ『課長サンの厄年』主題歌としてヒットした曲でした。この年から高崎駅下り新幹線ホームの発車メロディとして使用開始されています。

 

白22(全体48):福山雅治(13年連続14回目)

・1990年デビュー 第44回(1993年)初出場
・1969年2月6日生 長崎県長崎市出身
・タイトル:「道標 ~紅白2021ver.~」
 楽曲:「道標」(2009/5/20 シングル)…11年ぶり2回目
  詞・曲:福山雅治
  Key./Strings Arr.:井上 鑑 Dr.:山木秀夫 Ba.:髙水健司 Gt.:今 剛、小倉博和 Hr.:稲田枝里子 Strings:金原千恵子ストリングス
  合唱:道標スペシャル合唱団
・歌前テロップ:つながる”命”に感謝を込めて
・歌唱中テロップ:自身のルーツを知り 今届けたい歌
・演奏時間:5分18秒

 歌前トークあり。「この歌はですね、蜜柑畑をやっていた、亡くなった僕の祖母のことを歌った歌なんですけれども、今ここで立たせて頂いて歌わせていただけるということはですね、僕の両親・祖父母・そしてご先祖様皆さまから受け継いだ、命のリレーのバトンを渡してもらえたからだと思っています。生きている意味、生かされてる意味をですね、命の役割として音楽をやらせてもらえてることだとするならば、その感謝を込めて、命を繋いでくれた皆さまにですね、お届けしたいと思っていますよろしくお願いします」。やや長くなりましたが、福山さんのこのステージに臨むコメントはこの通りでした。白組ラストは前年同様、大泉さんが曲紹介を担当します。

 ギターを少し鳴らした後に、アカペラでサビをまず歌います。その後ツアーでいつも一緒のサポートメンバーの他に、今回は大人数のストリングスも入ります。切々と丁寧に一つひとつの言葉を歌う姿に、大変感銘を受けるステージでした。ラストの1コーラス前に入る間奏では合唱団が加わり、金色の紙吹雪演出も入ります。セットに多くの花が飾られているのも、楽曲に大きな説得力を持たせているような気がしました。いずれにしても紅白のトリらしいステージであることは間違いありません。大泉さんの「ブラボー!!」も涙混じりで、感じ入る部分が非常に多かったようです。

解説

・「道標」は2009年に「化身」のカップリング曲として初出、翌年に早くも『THE BEST BANG!!』でリテイクされました。歌い出しサビから始まるこの紅白2021ver.も、翌年2月に「道標 2022」で配信開始されています。

入れ替わりが比較的多い白組トリ、ソロ歌手で2年連続担当は第48回・第49回の五木ひろし以来23年ぶりでした。言うまでもなく、J-POPに限定すると初めての事例になります。

 

紅21(全体49):MISIA(4年連続6回目)

・1998年デビュー 第63回(2012年)初出場
・1978年7月7日生 長崎県対馬市出身
・タイトル:「明日へ 2021」

 楽曲1:「明日へ」(2011/4/27 配信)…9年ぶり2回目
  詞:MISIA 曲:Toshiaki Matsumoto
 楽曲2:「Higher Love」(2021/11/12 配信)
  詞・曲・ピアノ:藤井 風
・歌前テロップ:カラフルな明日へ向かって
・歌唱中テロップ1:輝ける未来へ歌う
・歌唱中テロップ2:カラフルな世界へ
・演奏時間:6分31秒

 今回も「誰もが輝ける世界」というタイトルでVTRが用意されます。開催に賛否のあった東京オリパラは「一人ひとりの選手の価値観が見えた大会」と総括。オリンピックスケートボード女子パークで大技に挑戦した岡本碧優選手は、失敗した結果残念ながら4位でしたが、そこではメダリストが彼女と抱き合う光景がありました。オリンピック体操女子団体に出場したシモーネ・バイルズ選手は、心の不調を訴えて演技を断念。パラリンピック馬術金メダリストのリー・ピアソン選手は、生まれながらに障害があるとともにゲイであることも公表。谷真海選手は「みんなちがって、みんないい」とTwitterで呟いています。それらのVTRは競技でメダルを勝ち取ること以上に、1人1人の価値観や個性を重視する大切さを強く伝えていました。

 舞台では直前まで音合わせが入念に行われています。和久田アナが川口さんや大泉さんにここまでの感想を聴いた所で、ラストの曲紹介。こちらも川口さんが一言話した後、大泉さんがメインを担当する台本でした。

 イントロ無しでサビ→Cメロ→サビの構成で「明日へ」を歌います。1曲だけだと通常あり得ない始まり方で、おそらくここでもう1曲歌うのだろうとすぐに想像つきました。個人的には曲目予想の時からあの曲で締めくくって欲しいと強く希望していたので、発表の際は納得しつつも若干ガッカリしましたが、その時に一緒にステージに立って欲しいと思っていた人は後に出場歌手として発表され、当日22時10分過ぎくらいにステージに登場しています。

 

 23秒にもわたる超ロングトーンで「明日へ」の演奏を終えた後、ピアノ演奏が始まります。弾いているのはまさしくお目当ての人・藤井風。思いっきりカメラ目線でアピールする所が、彼の大物っぷりと面白さをよく表しています。楽曲はもちろん「Higher Love」。さすがにこの紅白のために作った曲では当然ありませんが、この光景を見るとついついそう思わせてしまう部分もあります。

 日本最高峰の歌唱力を持つMISIAと、令和が生んだ天才・藤井風のデュエットは、もはや夢を見ているような感覚でした。紅組歌手のステージに白組歌手がゲストミュージシャンとして参加するケースは意外と少なくないですが、さすがに大トリとなると史上初です。紅組白組で対決するというフォーマットで考えると理論上有り得ない話ですが、目の前のステージを見るとそのコンセプト自体がちっぽけな話にしか思えません。先ほど風さんがサプライズ出演したのは3年前のユーミン以来と書きましたが、この共演もまた3年前、ユーミンと桑田さんが一緒に歌うシーンに限りなく近い面がありそうな気がしてなりません。

 結果的に選曲は予想通りでしたが、そのプロセスは長年紅白を見ている私の想像をはるかに超えた内容でした。ラスト1分の、歌詞の存在しない歌と音の共演は今後の紅白でもそうそう見られないパフォーマンスです。いや未来へ音楽がさらに発展することを考えると、案外すぐにこれより凄い内容のステージが見られるかもしれません。会場割れんばかりの大拍手、それは大泉さんの「ブラヴァー!!」をかき消すほどでした。いや正確にはあまりにステージが凄すぎて、そんな言葉など耳に入らないということだと思います。

解説

・東日本大震災から10年、震災が起きた年に発表された「明日へ」がここで選曲されるのは非常に自然な流れでした。シングル曲ではありませんが、2010年代以降の楽曲では非常に高い知名度を誇っています。

・「Higher Love」は藤井風が初めて他アーティストに提供した曲で、現在もこれが唯一の事例になっています。相手側の出場歌手が大トリで演奏するケースは、言うまでもなく紅白史上初めてのことです。

・トリで2曲歌う事例は2010年代以降だと珍しいケースでも無くなりました。ただ演奏時間は第69回特別出演のサザンオールスターズを除くと、これがトリ史上もっとも長いケースになりました。

 

エンディング

 先ほどのステージに感激しながら中央に司会者3人が登場、このタイミングで舞台袖から出場歌手も入場。集計を担当する麻布大学野鳥研究部のアナウンスがあった所でちょうど23時40分、最初から全編見た人がボール5個加算される時間帯に入ります。観客についてはペンライト審査、舞台からは紅白半々に見えるようですが、会場の明るさと紅色ペンライトの薄さが原因でテレビだと少し判別がし辛いです。

 例年通り今回もハイライトが流れます。前回司会者のみだったワイプは、今回出場歌手の表情も映りました。VTR明けに映る歌手はMISIA藤井風石川さゆり天童よしみ東京事変鈴木雅之など。坂本冬美NiziUは渋谷から移動済、特別出演の細川たかしも参加、郷ひろみと談笑しています。2年前までは舞台中央を境に紅組・白組とはっきり分かれていましたが、もう今回はソーシャルディスタンス無しでも紅組白組関係ない立ち位置になっているようです。

 結果が出るまで繋ぎのトーク、とりあえず大トリのMISIAさんに話を振ります。「来年こそ、2022年が皆さんにとって素晴らしい年になりますように、明日への想いを込めて歌いましたので、届いたらいいなと思います。本当にみんなで力合わせて歌わせて頂きました」とコメント。少し引きの絵になって福山雅治氷川きよし平井大DISH//の姿を確認。椎名林檎が真っ赤なジャージに大きなレンズのサングラスにスケボー装備で、どこぞのギャングみたいな風貌と化しています。歴代紅白を見渡すと何年かに1回は不思議な衣装になる出場歌手がいますが、今回の林檎さんはその中でもトップクラスのインパクトです。あとは牛柄のドレスという前科?があるさゆりさんも来年の干支に合わせて、黄色の着物に虎のぬいぐるみの髪飾りの衣装で結構目立ってます。

 最終投票はゲストが0 vs 6で白組ストレート勝ち、会場は1110 vs 1000で紅組僅かにリード。そして視聴者投票は2189150 vs 1956996で紅組。したがって2 vs 1で2年連続紅組優勝という結果になりました。紅組歌手が喜ぶ姿が映ります。そのまま都倉俊一指揮の「蛍の光」に移行、なんと優勝旗授与のシーンが紅白始まって以来史上初の無しという結果になりました。ちなみに都倉さんは今回上手側ではなく下手側の立ち位置、「蛍の光」指揮者がここから指揮するのも平成以降では初めてです。

 都倉さんの真後ろにはBiSHの姿が映ります。下手側一番端にいるのはGENERATIONSの7名。その後カメラに手を振る山内惠介上白石萌音millennium parade(常田大希・中村佳穂)MIYAVIKREVAが映ります。中村さんはメガネを外したドレス姿で、ステージとは随分装いを変えています。NiziUは高校生メンバーもいるので6名だけの参加。日向坂46佐々木久美・加藤史帆・金村美玖の3名だけ審査員席に近い客席エリアで、一番アップで目立ってます。けん玉企画のDJ KOOぺこぱも参加。

 YOASOBImiletに寅年Tシャツのあいみょん、彼女たち3人の後ろにまふまふもいます。平井大が紙吹雪で遊んでいるのを確認。星野源も参加、ギャング状態の林檎さんとツーショットでした。都倉さん指揮になってからやや「蛍の光」のラストが短くなりましたが、今回は久々に第九が入る編曲でした。他には渋谷から移動したPerfumeAwesome City Club乃木坂46生田絵梨花・齋藤飛鳥・秋元真夏・山下美月の4名、高橋洋子の参加も確認できました。櫻坂46森田ひかる・田村保乃・菅井友香が参加したようですが、菅井様は全く映っておりません。今回は上手側ショットが非常に少なく、その辺りにいたであろうゆずLiSAもワイプで確認できたのみでした。ラストは司会者のコメントで締めます。

「苦しい時でも、歌を聴くと元気が出ます。希望が感じられます」
「2022年はみんなが自分らしく、カラフルに活躍できる一年になりますように!それでは皆さま!」
(3人で)「良いお年を!」

解説

・この年はエンディング出演のために、渋谷のスタジオで歌った歌手がこの有楽町まで移動するケースが発生しました。さすがに2005年まで同日開催だった日本レコード大賞会場からの移動ほど慌ただしくなかったとは思われますが、規模的にはその次くらいの大きさではなかったかと想像できます。

・優勝旗授与無しは長年紅白歌合戦を見ていた視聴者からすると驚きの展開でした。これについてはNHK放送博物館のホームページによると、演出の都合ということのようです。

・エンディングで出場歌手の一部が客席エリアに登場するのは久々で、第33回以来39年ぶりでした。この時は「蛍の光」の途中でステージから客席通路に移動して握手・挨拶、号令とともにみんなで一緒に踊りだすという演出となっています。

 

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