第72回(2021年)NHK紅白歌合戦~その7~

紅15(全体34):坂本冬美(19年連続33回目)

・1987年デビュー、第39回(1988年)初出場
・1967年3月30日生 和歌山県西牟婁郡上富田町出身
・楽曲:「夜桜お七」(1994/9/
7 CD)…3年ぶり8回目
・詞:林あまり 曲:三木たかし
・歌唱中テロップ:今夜名曲が最新技術と融合
・演奏時間:3分10秒
・会場:渋谷・NHKスタジオ

 デビュー35周年を迎えたという内容のVTRでは、前回歌った「ブッダのように私は死んだ」MV、第60回「また君に恋してる」や第69回「夜桜お七」の映像を用いてジャンルに囚われない活動を紹介。今回は最新技術とコラボレーションを行うということで、そのままスタジオからの中継ステージに入ります。

 和のテイストが強い編曲で、いつもと違う雰囲気です。扇子や傘を用いて、広げてアップにすると映像が切り替わるという演出を2回用いていました。33回目の出場ですが、メイン会場以外からの中継・アイテムを持ちながら歌うのは今回が初めてです。「津軽海峡・冬景色」「2億4千万の瞳」同様、冬美さんが歌う「夜桜お七」も紅白でハズレはありません。痺れるステージでした。

 バックの映像は襖→雪景色×桜→金閣寺の夜桜(吹雪つき)に切り替わる内容でした。歌唱後に司会者とのやり取りあり、スタジオの遠景が映ります。大勢のスタッフが大拍手、冬美さんも彼らに深々と挨拶。次回の「夜桜お七」も楽しみです。

白15(全体35):藤井 風(初出場)

・2010年活動開始・2019年メジャーデビュー
・1997年6月14日生 岡山県浅口郡里庄町出身
・楽曲1:「きらり」(2021/5/3 配信)
・楽曲2:「燃えよ」(2021/9/4 配信)
・詞・曲:藤井 風
・歌前テロップ:紅白史上初!岡山の実家からパフォーマンス
・歌唱中テロップ1:原点・岡山からの実家から歌う
・演奏時間:4分31秒

 こちらもまずはVTR。「何なんw」を歌うライブ映像、日産スタジアム無観客配信ライブで「旅路」をピアノ弾き語りする姿に12歳で初投稿した時のYoutube映像が紹介されました。今回は里庄町の実家からパフォーマンス、ラストは「帰ろう」を歌うライブ映像で締めます。その後のやり取りで、大泉さんは彼の出場発表で妻と娘が喜んでいましたと私的な報告。岡山からの実家からパフォーマンスするという再度のアナウンスを含めて、ラストの曲紹介は川口さんが担当します。

 太ももの上にキーボードを置いて「きらり」の弾き語り。言うまでもなく紅白で実家からパフォーマンスするアーティストは初めてです。グランドピアノがバックにある中でキーボードを弾くという構図が面白いです。ほぼYoutube、あるいはツイキャス辺りの配信に近い状況と考えても良さそうですが、右上にLIVEの文字がないので生中継ではない様子。そんなことを考えている間にパフォーマンス終了。1分40秒ほどで随分短いです。何かありそうです。

 キーボードを所定の位置に片付けて、グレーの衣装がアップで映ります。おそらく別の部屋に切り替わるのだろうと想像しましたが、暗転した後に映った先はどこかのステージの舞台裏。思わず川口さんの「えっ?」という声が入ります。大勢のスタッフが周りにいます。カメラを誘いながら向かった先は、なんと東京国際フォーラム・ホールAのメイン会場。このサプライズは第69回の松任谷由実でもありましたが、今回の藤井さんはこれまでに生の音楽番組出演が全くありません。したがってサプライズと言っても桁が違います。台本にも書いてない演出のようで、ホールの観客やゲスト審査員はおろか司会の3人も素で驚いてます。ステージでは、こちらも全く用意されていない「燃えよ」のパフォーマンスが始まります。曲名テロップがあるので一部スタッフには共有されていますが、画面左上のテロップには紹介文がありません。

 グランドピアノ弾き語りのパフォーマンスは演奏・歌声ともに圧巻以外の一言で語りようがなく、「天才」という言葉がこれほど似合うアーティストもまずいないと思うほどの凄まじさです。24歳にして全身が音楽に包まれていると言いますか、もう物心がついた時からミュージシャンになることが決まっていたのかと思えるくらい運命的なオーラがあります。今までならばこういった方はおそらくクラシックの世界に行っていたのではないかと思うのですが、結果として現在の彼はポピュラー音楽での活動になっています。もしかすると数十年前と現在の違いは、風さんのような方がこちらを選んだことにあるのかもしれません。そしてこんな壮大なことまで考えさせるようなステージは、間違いなく今回の風さんが初めてです。

 場内が大きな拍手に包まれます。台本にも全く無かった場面なので、「ここからはリハしてないんで分からないんですけどと大泉さん。以下全やり取りを掲載。

「あーた、岡山の実家からやったんじゃないの?」
「すんません、来ちゃいました」
「わー!嬉しい!」「初めて会った!」「すんません、来ちゃいました、来させて頂きました」
「川口さん、藤井さんと目が合いましたよね?」「メチャメチャ合ってました!」「いやいやいや…」
「凄い!本当にいるんだね?」「来させて頂きました」
「カッコ良い!」「(顔を隠しながら)よう言いますわ…」「あっ、凄い!やっぱり、岡山訛りだ!」「すんません、もう…」
「えっ、つまり、あの…」「会いたくて」「僕たちへのサプライズで、本当はここにいらっしゃってたの?」「(小声で)そうなんですー」「あらー、これは皆さん!お得でございました!」
「大泉さん、生で聴けちゃいましたね」「生で聴いた、凄かった!」「次どうしたらいいのか分からなくなってしまいました」
「カンペ出てる、藤井風さん、」「(3人で)ありがとうございました!」
「こちらこそありがとうございました、ほんまに。」
「これからも頑張ってください!」
「頑張ります会いたかったです。よろしく、じゃねぇわもうありがとう」

 飾らない朴訥な風さんの人柄もまた、ファンになる要素が満載でした。なお風さんは本番2日後に「ねそべり紅白」として本人のYoutubeから生配信、全く気取ることなく新旧の持ち歌・カバー曲を多数キーボードで生演奏。紅白の裏話も序盤で語っています。ちなみに個性的過ぎるスリッパも含め、配信中は紅白本番と全く同じ服装でした。

紅16(全体36):YOASOBI(2年連続2回目)

・2019年デビュー、第71回(2020年)初出場
・21歳~27歳・2人組 東京都、山口県宇部市出身
・楽曲:「群青」(2020/9/
1 配信)
・詞・曲:Ayase
・指揮:斎藤ネコ 演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
・振付:Sota
・踊り:GANMI & Friends、滋慶COMダンサーズ
・歌前テロップ:YOASOBIが表現する「カラフル」に注目!
・歌唱中テロップ:YOASOBIが表現する青春の「色」
・演奏時間:4分10秒

 ガラス棟からパフォーマンス、ikuraは冒頭エスカレーターに乗りながら歌います。エスカレーターに乗りながらの歌唱も紅白史上初ではないかと思われますが、向かった先では170名のコーラス隊と57名のオーケストラが待機。東京フィルハーモニー交響楽団は前回オーケストラスタジオの演奏担当で2年連続、斎藤ネコは第68回椎名林檎トータス松本「目抜き通り」の指揮で登場して以来4年ぶりの出演です。縦長にステージを使う形状で中央にAyaseを始めとするバンドメンバーを配置するフォーメーション、これは今回の紅白ならではと言える舞台の使い方です。

 これだけ大規模な演出を使えるのは、ひとえにikuraさんのボーカリストの能力が高いからだと思います。前回の紅白以来、歌番組でパフォーマンスを見るたびに彼女の歌唱力には驚嘆させられました。ピッチの正確さ・発声の確かさは、気持ち良い高音だけでなく平歌の部分でもよく伝わってきます。いわゆる歌唱力の高い女性ボーカルは声に厚味がある人が多数でしたが、彼女の場合やや細いソプラノの声質であることも特筆すべきことだと思います。また今回歌う「群青」はAyaseさんの作曲能力も特に優れていて、歌手の魅力を更に増幅させるようなメロディーの作り方をしています。歌詞も素晴らしく、まさに人気が出るべくして人気が出た曲という表現がしっくり来ます。

 年齢による音楽の細分化は平成以降ずっと言われていますが、ヒットチャートの上位が若い人中心である構図は実を言うと昭和以降ほぼずっと変わりありません。紅白は高齢者の視聴率が高い歌番組でもありますが、この年を代表する楽曲のパフォーマンスはやはり若い人がメインになります。「青春」という言葉が非常に似合う170人のダンサーは、彼らの時代であることを良い意味ですごくよく表している内容でした。かけがえのない”僕だ”を”みんなだ”と笑顔で叫ぶシーンは、まさに歴代紅白でも屈指となる名場面です。パフォーマンス終了後の表情も、この上なく爽やかでした。

 風さんからYOASOBIの曲順は今回一番の見どころになると予測していましたが、内容は事前の想像をはるかに超える素晴らしさでした。おそらくこの2組は20年後も30年後も第一線で活動していることでしょう。それと同時に今回の2ステージは、他と比べても特にほぼ毎年振り返られることになるのではないかと思われます。

白16(全体37):鈴木雅之(2年連続4回目)

・1986年ソロデビュー、第42回(1991年)初出場
・1956年9月22日生 東京都大田区出身
・タイトル:「め組のひと 2021紅白ver.」
・楽曲1:「ランナウェイ」(1980年2月25日 シャネルズ)
・楽曲2:「め組のひと」(1983年4月1日 ラッツ&スター)
・詞:湯川れい子、麻生麗二 曲:井上大輔
・トランペット:桑野信義 コーラス:佐藤善雄
・歌前テロップ:悲しかった出来事 阿佐ヶ谷姉妹のドラマが終了したこと
・歌唱中テロップ:皆さんもご一緒に「めッ」ポーズを!
・演奏時間:2分44秒

 司会者3人「めッ!」のポーズで曲紹介しますが、アカペラの歌い出しは「ランナウェイ」でした。1980年シャネルズとしてデビューしてすぐの大ヒット曲、ただその年の紅白は色々あって出られませんでした。これも事前発表無しのノンクレジットなので、視聴者にとって非常に嬉しい計らいです。

 都会的な雰囲気のセット、赤を基調とした衣装は昔懐かしいキャバレーの雰囲気もあります。桑野さんを筆頭とする管楽器隊は6名、佐藤さん率いるコーラス隊は4名。本当は鈴木さんの周りにあと2人欲しい所ですが、1人は諸般の事情で難しいとしても久保木博之を呼ぶのは難しかったのかなと少し思います。

 作詞の麻生麗二は大ヒット作詞家・売野雅勇のペンネームで、1980年代トップクラスのヒットメーカーです。作曲の井上大輔はジャッキー吉川とブルー・コメッツでギターやフルートを担当、既に逝去されて久しいですが、若い時はサックスプレイヤーとしても活躍していました。1983年当時でも大ヒットしましたが、いまやTikTokで完全に世代を超えた曲です。そもそも”いなせだね”で始まる歌詞を書くこと自体が天才的で、「めッ」の決めポーズも最高ですが、個人的には”Baby baby, be my girl”以降のリズム・メロディーがこの曲最大の肝だと思っています。倖田來未のカバーも良いですが、ここはやはり鈴木さんの歌唱表現の凄さに軍配を挙げざるを得ません。サングラスがトレードマークのルックスも歌声も37年前と良さが全く同じで、まさに化け物級です。何よりここに来てラッツのパフォーマンスを見られたことが嬉しいです。今回の紅白は「初」が多いと冒頭に書きましたが、「粋」と感じる場面も例年の紅白よりはるかに多いです。

 大泉さんの「ブラボー!も当然のようにまた入りました。ゲスト審査員としてコメントを求められた坂口健太郎も笑顔で「最高です!」とコメント。ここでは「歌謡曲が好き」というテロップが入りました。

白17(全体38):ゆず(7年連続12回目)

・1997年デビュー、第54回(2003年)初出場
・44歳~45歳・2人組 神奈川県横浜市出身
・楽曲:「虹」(2009年9月2日 CD)
・詞・曲:北川悠仁
・歌前テロップ:フラワーアーティスト東信の演出に注目!
・歌唱中テロップ:ゆずが贈る花のパフォーマンス
・演奏時間:3分17秒

 フラワーアーティスト・東信とのコラボが事前に発表されていましたが、セットの花も彼がプロデュースしていたようです。このステージでは先ほどの「め組のひと」から登場したセットに花が施され、2人の衣装にも花が施される内容になっています。若干ギターを弾きにくそうにも見えましたが…。

 ラストサビでセットが完全に花に囲まれ、様々な色の紙吹雪が降り注ぎます。最後のアカペラでは映像に虹が架かりました。ペンライトのカラーも7色様々に彩られています。2人の声量は今回も抜群で、聴く人の心に響くステージを展開していました。前3組が凄すぎたのでインパクトはその分大きくないですが、素晴らしいステージであることには変わりありません。

白18(全体39):星野 源(7年連続7回目)

・2010年ソロデビュー、第66回(2015年)初出場
・1981年1月28日生 埼玉県川口市出身
・楽曲:「不思議」(2021年4月27日 配信)
・詞・曲:星野 源
・Dr.:河村”カースケ”智康 Ba.:三浦淳悟 Gt.:長岡亮介
・Key.:櫻田泰啓、石橋英子 Sax.:武嶋 聡
・歌前テロップ:川口春奈主演ドラマの主題歌
・歌唱中テロップ:初めて手がけたピュアなラブソング
・演奏時間:4分48秒

 パフォーマンス前にガラス棟から中継が入ります。「私事ではありますが、今年結婚をしまして」という言葉で会場から拍手、この音は源さんにも伝わったようです。今回歌う曲は川口さんが主演したドラマ主題歌、本人も大好きな曲ですと話します。

 「準備よろしくお願いします」とアナウンスされましたが、終始右上にLIVE表示が出ない事前収録でした。これは第70回以降ずっと続いていて3年連続です。代わりに確実な生演奏が保証されていて、バンドメンバーの名前も全員クレジットされます。河村さんや長岡さんを筆頭とする彼らのショットが映るカメラワークも秀逸です。ベースが前回のハマ・オカモトから三浦淳悟に交代しています。ほぼカットのないフルコーラス構成は、第67回の「恋」からずっと変わりありません。

 やや暗転に近い状況から、2番以降は温かい光が電球とセットから照らされます。先ほどの「群青」と場所は同じですが、演出や曲調は全く異なる内容。こういった対照性も、長時間放送される歌番組の醍醐味のような気がします。今回は落ち着いた曲調と演奏でじっくり聴かせる内容、これもまた過去6回の源さんとは違う新鮮な味です。

紅17(全体40):あいみょん(2年連続3回目)

・2015年デビュー、第69回(2018年)初出場
・1995年3月6日生 兵庫県西宮市出身
・楽曲:「愛を知るまでは」(2021/5/
7 配信)
・詞・曲:あいみょん
・歌前テロップ:ブレイク前の自身の葛藤をつづった曲
・歌唱中テロップ:ブレイク前の葛藤をつづった曲
・演奏時間:3分18秒

 今回あいみょんのステージを最も楽しみなステージに挙げている石川佳純にコメントを求めます。「生で聴けるのですごく嬉しい」と話しています。なお第63回でゲスト出演時に曲紹介した倖田來未とはその後ファン以上の関係となり、応援歌も作られるくらいの仲になっています。

 平成以降はバンドセットがあってもアテブリというステージが非常に多くなりましたが、このステージは完全生演奏でした。一つひとつの楽曲が直に伝わる音響が非常に素晴らしいです。東京国際フォーラムはNHKホールと同等もしくはそれ以上に音響の良い会場なので、観客も特に感じ入る部分が多いステージだったのではないかと思われます。

 ギターを弾きながら歌う彼女は少しウェーブをかけた髪型で、Gパンに黒シャツというリハーサルみたいな衣装です。首にかけたネックレスがとても良いアクセントになっていました。アクセサリーがどれくらいするのか分からないですが、見た目だけでいうと歴代の紅組歌手でもトップクラスに衣装代が安そうです。ヘタしたらリハーサルの方が衣装代高いかもしれません(参考)。そこには自身の音楽・普段のライブの雰囲気を前面に出そうという意図も感じました。ステージは全く文句無し、こちらも本当に素晴らしい内容です。

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