紅白名言集解説・82~世界に一つだけの花~

木村拓哉「皆さん、目を閉じて2003年を思い出してください」

中居正広「今年世界中で沢山の尊い命が失われました」

稲垣吾郎「また目を覆いたくなるようなことも沢山ありました」

草彅剛「僕達に今何ができるでしょうか」

香取慎吾「みんながみんな全ての人に優しくなれたらきっと幸せな未来がやってくると信じています」

「世界に一つだけの花」について

 2003年の紅白歌合戦における伝説のステージとなったSMAP「世界に一つだけの花」。それはSMAPが解散した現在も彼らを象徴する楽曲となっていて、今なお事あるごとに再評価される作品となっています。

 3月5日は、この曲がシングルとして発売された日になっています。300万枚以上の売上は、平成のCDシングル唯一の記録です。最初の収録は2002年7月24日リリースのアルバム『SMAP 015/Drink! Smap!』。その後に草彅さん主演のドラマ『僕の生きる道』主題歌起用に際してシングルカットされた、という経緯があります。

 紅白歌合戦では第54回大トリ、翌年は出場辞退しますが第56回復帰の際に後半最初のステージで全員合唱。さらに第58回も全歌手終了後に全員合唱、メドレーで第60回・第65回でも歌唱。したがって合計5回紅白歌合戦で歌われた形になっています。SMAPのステージとしては3回ですが、2回の全員合唱はメンバー5人が全歌手を率いるようなフォーメーションだったので、実質的には5回と考えるのが適当かと思われます。

大トリ決定までの経緯

 今の紅白歌合戦ならば迷わずこの曲で大トリといったところですが、当時はこれが実現するかどうか半信半疑な面もありました。

 まずこの年は、最多出場回数記録を持っていた北島三郎が史上初の40回出場を達成。さらに第32回(1981年)・第47回(1996年)の大トリで歌った「風雪ながれ旅」という選曲でした。紙吹雪が舞う前の第31回(1980年)はともかく、この時点ではほぼ大トリでしかあり得ないというイメージで、曲目発表の時にやや驚いたものです。

 加えて、当時はグループでのトリが全くありません。一度第43回(1992年)に由紀さおり・安田祥子「赤とんぼ」でトリという話もありましたが、トリ=ソロ歌手のみという前例を楯に由紀さんだけのステージになったことがあります(姉の安田さんは事前録音のコーラス)。これもまた悩ましい部分でした。この年解散のチェッカーズの起用案もあったらしいですが、同様の理由で流れています。

 当時自分は既に紅白歌合戦ファン同士でメール・掲示板でのやり取りをしていましたが、トリ議論は大変盛り上がりました。私は「世界に一つだけの花」で締めるのが一番理想的で、新しい時代の象徴にもなると考えていましたが、必ずしもその意見一辺倒ではない雰囲気があったのも確かです。

当日のステージ

 例年SMAPのステージは女性ファンの声援が非常に多いです。もちろん第54回についても同様、いや初の大トリなので今までのどの年よりも多かったです。白組司会の阿部渉アナウンサーが丁寧に曲紹介しますが、その間も声援は鳴り止みません。視聴者である自分も、放送当時は緊張しながら見ていました。

 5人のメンバーが映ります。舞台は暗転。その声援は、木村さんが「皆さん、」と喋り始めてすぐに鳴り止みました。普段は彼が喋ると声援が湧き上がる場面ですが、ここでは真逆の現象が起こります。ファンも含めた会場全員が彼らの言葉に耳を傾ける、そういう場面だと瞬時に理解した瞬間です。

 なおこの年はイラク戦争開戦、2年前のアメリカ同時多発テロ事件以降世界的な平和が特に脅かされた時期でした。「世界に一つだけの花」に反戦的な意味は無いですが、これ以降テーマの大きい楽曲がシングルで発表される機会は増加します。

 香取さんが話し終えると同時に演奏開始、その音で再び大歓声が起こります。5人のユニゾンで始まるオープニング、円盤状のセットには中央に地球を模した丸い物体が設置されています。

 SMAPの5人は、木村さんを除くと歌唱力は決して高くありません。このステージも音程は、決して全てが正確というわけでもありません。ただその歌声と表情は、他の各歌番組もしくは過去11回出場した紅白歌合戦でも見られないような姿でした。カッコ良く・うまく歌おうとするのではなく、それぞれのありのままを全てぶつけたようなステージは、一視聴者である自分も非常に胸を打たれました。

 舞台両端では白組歌手だけでなく、紅組歌手も手を動かしながらノリノリでステージを見守っています。最後の”ラララ…”では5人とも舞台前方に移動。香取さんは手を左右に動かし、木村さんは客席にマイクを向けます。間違いなくSMAP5人を中心に、NHKホールにいる人全員が一体となっている場面です。紙吹雪が舞う中、5人が後ろに下がって一箇所に集まってフィナーレ。演歌のトリで見られる長アウトロも良いですが、スタイリッシュな終わり方という点で考えるとやはりこれがベストだったような気がします。

 演奏終了後すぐに始まる、いつもの結果発表のファンファーレも「世界に一つだけの花」をアレンジ。ラストで決めた後に、その音が鳴るとすぐに曲フリのポーズをする中居さんの動きも流石です。

 間奏の繰り返し部分以外完全フルコーラス、冒頭のメッセージとラストに追加された特別なファンファーレを含めると原曲よりも長い演奏時間です。ただステージの充実度は間違いなく、見る前の予想をはるかに超えた内容でした。

歌唱後の反響

 まず直後としては、白組完全ストレート勝利が挙げられます。オンエアバトル方式での客席審査は白いボールばかりがカゴに流れ、11人いたゲスト審査員はNHK番組制作局長も含めて全員白組への投票でした。客席にボールを投げる最終審査で完全ストレート勝ちは、この年が唯一です。

 全体の視聴率は関東地区で45.9%、強力な裏番組の影響もあって前年より下回りましたが、SMAPのこのステージは57.1%を記録しています。これは21世紀の歌手別視聴率で最高の数字で、2位の中島みゆき「地上の星」と比較しても約4%近く上回っています。

 放送後のオリコン週間チャートでは週間1位を獲得、こちらも前年の「地上の星」に続く紅白効果の事例となりました。紅白をきっかけにチャート急上昇する楽曲はそれ以前にもいくつかありましたが、この時期以降は毎年のように見られる現象になります。

 冒頭にも書いた通り、紅白歌合戦にはSMAPとして3回・全員合唱で2回、合わせて計5回歌われる形になります。2009年までは2年に1回歌われる状況でした。本人が出場歌手として登場しながら全員合唱で披露されるのは、現在でも「世界に一つだけの花」のみです。特に第58回は「GREEN DAYS」をヒットさせた槇原敬之も出場、楽曲提供者も同伴する形になりました。「蛍の光」「東京五輪音頭」以外の曲が大トリより後に披露されたのも、その時の「世界に一つだけの花」が初めてです。

 アルバム曲としての発表から今年で20周年になりますが、今でもファン中心に毎年のように振り返られています。それだけ非常に高い価値の楽曲であるということです。2016年に予期せぬ形で解散になったのは今でも大変悔やまれることですが、メンバー5人と楽曲の姿は今でも全く色褪せません。また5人で集まって、期間限定でも一緒に歌う機会は出てくると思うのですが、いつになるでしょうか。これが紅白歌合戦だとしたら、第69回のサザンオールスターズ並もしくはそれ以上に盛り上がりそうですが…。

 

コメント

  1. いつも楽しく拝見しております。

    2003年の大トリ論争は私も覚えております。
    やはり、サブちゃんの曲が「風雪ながれ旅」に決まった時点で、「サブちゃんが大トリかな」とは思っていました。

    フタを開けたら、伝説に残るようなSMAPの大トリ。当時、香取君のマイクを持つ手が震えていたのを覚えています。

    最高の大トリを見れたのは本当にいい思い出です。

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