谷村「彼らの歌はね、俺たち大人の世代でも胸がキュンとくる懐かしいメロディーなんだよね。確か花の名前だったかな」さだ「あー秋桜だな」谷村「それは君の歌だ」
小澤「ケヤキだ!」谷村「それ木。花の名前」
小澤「貴乃花?」さだ「…いやそれは」
(第53回・さだまさし、谷村新司、小澤征悦)— 平成の紅白名言集 (@kouhakumeigen2) March 26, 2021
Twitterには128字制限があるので、それより字数の多いツイートは登録できません。したがって名言集だけを見ても何を指したやり取りなのかサッパリ分からない例が時々あると思います。今回取り上げたツイートは、まさしくその一つにあたるのではないでしょうか。
・まず何のやり取り?
結論を言うと、2002年に初出場したキンモクセイ「二人のアカボシ」曲紹介の前フリです。この年1月9日に発売されたシングルCDは、全国ラジオ局のパワープッシュをきっかけに大ヒット。この時期はドラマ主題歌やCMソングもしくはテレビ番組からブレイクする事例が多く、旧来のラジオがきっかけに有名になるパターンは珍しかったように思います。オリコン1位、という派手なヒットではありませんでしたが、楽曲の良さが従来のJ-POPリスナー層を超えた広い世代に支持されて、ロングセラーを記録しました。谷村さんやさださんが曲紹介で出てきて秋桜だのなんだのとやり取りしたのは、「広い世代に支持された」という解説を兼ねた部分もあるわけです。
上のやり取りの後に、やや申し訳無さそうにメンバー5人が「キンモクセイです…」と返すのが一連の流れです。曲順は白組3番手で全体6番手、6組中5組が初出場というフレッシュな顔ぶれが続く序盤ラストに演奏されました。ステージでは弦楽器が音だけでなく、バックの大画面ビジョンでも表現されていたことが印象的でした。ちなみにJ-POP系のアーティストは大体が年末、紅白以外の音楽特番にも多数出演するのですが、不思議なことにキンモクセイだけは紅白以外一切出演無しでした。確かに次のシングル「七色の風」以降、あまりヒットは残せず紅白出場もこの年だけではありましたが…。
・なぜ小澤征悦?
小澤さんといえば有名な俳優ですが、なぜこのやり取りに加わっていたか疑問に思った方もいるかもしれません。これまた結論から言うと、この年に放送された連続テレビ小説『さくら』の体育教師・桂木慶介役を務めた縁で、白組応援サポーターを務めていたことが理由です。ちなみに紅組は同ドラマのヒロイン・高野志穂さんでした。この場面以外でも、番組随所に登場して2002年の紅白歌合戦を盛り上げていました。1970年代でもお馴染みだった司会者以外のサポーター制度がこの年久々に復活した形ですが、それ以降採用された事例は全くなく、それどころか紅白歌合戦の歴史を振り返る際にこの年の2人が話題にあがったことはほとんどないような…。もしかすると小澤さんがスタジオパークに出た時あたりに話したことはあるのかもしれませんが、出場歌手や司会と比べて全くと言っていいほど話題にあがらないのは少し残念な気持ちもあります。
・会場の反応
これは文面だけでも大体察しはつくと思いますが、貴乃花?と言った瞬間の会場は完全に静寂に包まれた状況でした。近年は内村さんのおかげでたとえスベってもフォロー体制は万全なのですが、当時はこういった場面でもフォローする人は全くなく(司会を務めていたアナウンサーはあくまで台本通りにやるだけなので)、何とも言えない空気がお茶の間にまで流れたのではないかと思います。一部では芸人の墓場とも魔境とも呼ばれるほどにスベった事例には事欠かない紅白ですが、個人的には「紅白スベり5選」には間違いなく入る位の凄まじいスベりっぷりでした。なお思わぬ形で話題にあがってしまった貴乃花関は既に横綱として晩年に差しかかっていて、年が明けた1月場所途中に満身創痍の中引退。さすがにここで挙がった事とは関係ないとは思うのですが…。
・最後に
キンモクセイは2008年に活動休止しますが、2018年に再始動しています。2019年12月には14年ぶりのオリジナルアルバム『ジャパニーズポップス』のリリースもありました。「二人のアカボシ」のオリジナルPVはYoutubeだと短縮版のみですが、昨年再始動後のライブ映像が公式でアップされています。美しいメロディーと実直な印象は、20年近く経っても大きく変わりありません。むしろ渋みが出てより味わい深くなっているようにも思います。直接この時代を知らない若い人も逆に当時最新曲を敬遠していた人も、あらためてこの曲を噛みしめて頂ければと思います。