紅白名言集解説・50~山川でした~


 前回の紅白名言集では1974年の美川・前川・山川を取り上げました。当時の白組司会・山川静夫アナウンサーの見事な発想でしたが、司会業に慣れていない上に普段接することのない歌手の紹介となると、間違えないことが重要になります。第50回(1999年)の白組司会・中村勘九郎も、名前を間違えないようにと本番中に釘を刺され、自らもそれだけはないように気をつけたいと話していました。曲紹介で歌手の名前を間違えるシーンは過去の紅白でもあまりないのですが、本当に間違えてしまったのが今回の事例です。

2005年白組担当は俳優の山本耕史

 この年の紅白歌合戦はとにかく段取りが大変でした。司会者を初めて紅組白組分けずに4人制、更にその1人は当時の視聴率男ながらNHK出演がほとんどないみのもんた。当然みのさんが考える司会の美学と本来のNHK的な紅白の司会法はおもいっきり掛け離れていて、スタッフを初めてとする周りの面々はかなり振り回されます。更に山根基世アナは別として、それぞれ紅組・白組担当に振り分けられた仲間由紀恵山本耕史はほとんど司会者の経験がない方々。台本を憶えるだけでも大変なのにみのさんも随時アドリブを入れるので、他の年以上に苦労の多い仕事だったのではないかと容易に推測できます。

 その山本耕史さんが司会に選ばれた理由は、ズバリ年が明けてすぐに放送された大河ドラマ『新選組!』の続編、『新選組!! 土方歳三 最期の一日』主演のため。彼の土方歳三役は完全な代表作となります。仲間さんが翌年の大河『功名が辻』主演なので、実質的に大河出演者同士の組み合わせとなりました。これは長い紅白歌合戦史上でも、この年のみです(片方が大河絡み、は多々あるのですが)。

ハプニングの流れ

 ハプニングが起こったのは、白組10番手(全体19番手)・前川清さん「夜霧よ今夜も有難う」曲紹介でのこと。

 銀幕のスター・石原裕次郎の曲を歌うということで、ゲスト審査員の山田洋次監督が木村拓哉とともに登場します。ちょうど翌年公開の映画『武士の一分』を当時撮影中、山田監督はキムタクをベタ褒め。褒められた本人が大恐縮した後に、曲紹介。ここで前川ではなく山川と間違えて言ってしまいます。

 ちなみにこの年は山川豊も白組から歌手として出場。ちょうど白組で次に紹介するのが兄の鳥羽一郎とのデュエット「海の匂いのお母さん」。ついでに言うと、白組の一つ前は美川憲一の「愛の讃歌」(この曲紹介は山根基世アナの担当でしたが)。31年前に「美川・前川・山川」のくだりは確かにありましたが、若干変則的とは言え同じ並びの曲順になるのもこの年だけです。ほぼ間違いなく偶然だとは思いますが…。

ハプニングが起きた後

 名前を間違えられますが、前川さんはいつものように直立不動で熱唱します。平原まことさんのサックス演奏で締めるアウトロで、深々と挨拶。その直後出た言葉が「山川でした」。その一言に場内爆笑、偶然カメラに映っていた木村さんも思わずツッコミ。狙ったものではないとは言え、このリアクションを撮影出来たのはカメラマンのファインプレーだと思います。

 こういう間違いが冗談で済まされなかった事例もありますが(該当記事参照)、コメディアンとしての顔も持つ前川さんは笑いにすることで全てを水に流します。更に次の曲紹介(先ほども書いた通り、鳥羽一郎と山川豊のステージ)をする前に山本さんは潔く「ごめんなさい」と謝罪。横に立っていたみのもんたさんは21年前のミソラ発言を持ち出しましたが、勿論そんな騒ぎは起きません。その後前川さんが応援で出てきた時も山川さん呼ばわりして、笑いに繋げていました。

 そんな爽やかさも要因の一つだったでしょうか、この年の紅白歌合戦は見事に白組優勝となりました。「何もしてないんですが」と、決してそんなことないのに感想として出てくる辺りに、山本さんの人柄の良さが表れています。勿論年が明けてからも、山本さんのミスを攻め立てるような記事はほとんど出てきませんでした。

 ちなみに山本さんは、2015年に女優の堀北真希と結婚。現在は2人のお子さんに恵まれています。そんな堀北さんは、2012年・第63回の紅組司会。紅白の司会経験者同士が結婚したのもまた、この2人が史上初で唯一の事例となっています。探っていけば、偶然生まれた記録が本当にどんどん出てきます。それもまた、紅白歌合戦の面白さではないかと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました