紅白名言集解説・75~吉田正さんについて~


 吉田正氏は1921年茨城県日立市生まれ、1998年6月10日に逝去されました。ビクター専属の作曲家として、数々の名曲を残しています。紅白で歌われた楽曲数は57で歴代3位、これは遠藤実氏の43曲を大きく引き離しています。

 作曲家としては古賀政男氏、服部良一氏に次ぐ史上3人目の国民栄誉賞受賞。追悼ステージを設けられたのも同様でした(これは他にも中村八大氏や猪俣公章氏などの例もあります)。亡くなられた1998年紅白歌合戦の前半トリとして、橋幸夫が出場歌手全員をしたがえて「いつでも夢を」を歌っています。

・1998年「いつでも夢を」のステージ

 橋さんはもちろん白組歌手としての出場ですが、偉大な作曲家を送り出すにあたっては紅組も白組も関係ありません。というわけで、このステージは白組歌手だけでなく、紅組歌手も総出で舞台後ろに登場するステージでした。曲紹介も当時では珍しく、総合司会・白組司会・紅組司会の3人全員が登場しています。

 「いつでも夢を」は吉永小百合とのデュエットですが、これ以前の紅白でデュエットとして披露されたことは一度もありません。曲が発売された1962年はこういった演出が考えられない時代、1970年はそもそもがサプライズ、1990年はブラジルに渡っての歌唱でした。

 NHKも吉永さんに出場交渉したと伝わられていますが、既にこの時点で歌手活動はほぼ引退状態です(一応1995年に「しあわせは少し遠くに」というシングルリリースがあったようですが)。橋さんと歌ったこと自体、テレビでは1968年に放送された日本レコード大賞の10周年記念音楽会が最後のようです。少なくとも検索する限り、これ以降共演して歌った形跡は全くありません(橋さん50周年コンサートの時にゲスト出演で共唱していますが)。

 というわけで吉永さんが歌う2番のパートは、紅組歌手4人がリレー形式で歌うことになりました。これはこれで当日しか見られないステージで、大変貴重です。歌ったのは順番に、石川さゆり西田ひかる持田香織由紀さおり。まだ前列を演歌・歌謡系歌手が大半を占める中で、ELT時代の持田さんを入れるのは相当な抜擢でした。先日SMAPの項でも書きましたが、1998年の紅白は良い意味の抜擢が本当に良く目立った回だと思います。

 橋さんの紅白出場はこの回が最後ですが、「いつでも夢を」は第68回(2017年)に全員合唱という形であらためて歌われています。その年の紅白出場歌手で、1962年に生まれていた歌手は6名のみ。誰が作ったか分からなくなる時はまだ訪れていないと思いますが、発表から半世紀以上経っても間違いなく歌い継がれています。若い世代には、もしかすると学校で習う童謡に近いスタンスで受け取られているかもしれません。そうなるといよいよ、誰が作って歌ったのかが大きな意味を持たない時代に入ったとも言えそうです。

・紅白歌合戦で歌唱された吉田正作品

 紅白で歌われた吉田正作品は全57曲、企画ステージを除くと68回披露されています。出場歌手ごとにまとめてみました。ビクターレコード専属ということもあって、提供した歌手数は意外と多くありません。それでも1960年代はほとんどの年で3曲以上紅白に送り込んでいて、間違いなく歌謡史・紅白史に燦然と輝く存在です。

出場歌手 楽曲 該当回
轟夕起子 腰抜け二挺拳銃 第2回(1952年1月)
宇都美清 さすらいの旅路 第2回(1952年1月)
第4回(1953年)
竹山逸郎 流れの船唄 第4回(1953年)
小畑 実 ロンドンの街角で 第4回(1953年)
長崎の街角で 第5回(1954年)
三浦洸一 落葉しぐれ 第6回(1955年)
あゝダムの町 第8回(1957年)
街燈 第9回(1958年)
恋しても愛さない 第12回(1961年)
別れては昨日の人ぞ 第13回(1962年)
こころの灯 第14回(1963年)
フランク永井 東京午前三時 第8回(1957年)
第27回(1976年)
第30回(1979年)
西銀座駅前 第9回(1958年)
東京カチート 第11回(1960年)
霧子のタンゴ 第13回(1962年)
逢いたくて 第14回(1963年)
東京しぐれ 第16回(1965年)
大阪ろまん 第17回(1966年)
生命ある限り 第15回(1964年)
加茂川ブルース 第15回(1964年)
有楽町で逢いましょう 第24回(1973年)
第33回(1982年)
おまえに 第25回(1974年)
第28回(1977年)
第32回(1981年)
公園の手品師 第29回(1978年)
恋はお洒落に 第31回(1980年)
藤本二三代 夢みる乙女 第9回(1958年)
好きな人 第10回(1959年)
花の大理石通り 第12回(1961年)
曾根史郎 僕の東京地図 第10回(1959年)
和田弘とマヒナスターズ 夜霧の空の終着港 第10回(1959年)
橋 幸夫 潮来笠 第11回(1960年)
第24回(1973年)
南海の美少年 第12回(1961年)
いつでも夢を 第13回(1962年)
第21回(1970年)
第41回(1990年)
第49回(1998年)
お嬢吉三 第14回(1963年)
恋をするなら 第15回(1964年)
あの娘と僕 第16回(1965年)
赤い夕陽の三度笠 第19回(1968年)
次郎長笠 第22回(1971年)
子連れ狼 第23回(1972年)
沓掛時次郎 第25回(1974年)
木曾ぶし三度笠 第26回(1975年)
俺ら次郎長 第27回(1976年)
松尾和子 誰よりも君を愛す 第11回(1960年)
第40回(1989年)
再会 第12回(1961年)
昔の人 第13回(1962年)
吉永小百合 寒い朝 第13回(1962年)
伊豆の踊子 第14回(1963年)
瀬戸のうず潮 第15回(1964年)
勇気あるもの 第17回(1966年)
田辺靖雄 二人の星をさがそうよ 第15回(1964年)
三田 明 ごめんねチコちゃん 第15回(1964年)
若い翼 第16回(1965年)
恋人ジュリー 第17回(1966年)
夕子の涙 第18回(1967年)
薔薇の涙 第19回(1968年)
サロマ湖の空 第20回(1969年)
青江三奈 銀座ブルー・ナイト 第25回(1974年)
神戸北ホテル 第26回(1975年)

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