1999年、第50回NHK紅白歌合戦。この年の白組司会は歌舞伎俳優・中村勘九郎さんでした。と言っても当代の6代目でなく、父親の18代目勘三郎さんを指します。大河ドラマ『元禄繚乱』で主演・大石内蔵助役を務めたことによる大抜擢、梨園からの紅白司会は今のところこれが唯一の例となっています。

 

・中村屋と紅白の関わり

 さて、歌舞伎の中でも中村屋は紅白との関わりが比較的深いです。

 18代目の父親・17代目・中村勘三郎さんは直接紅白歌合戦に出演していませんが、1974年に白組へ応援電報を送っています。宛先は放送上だとこの年4度目の出場を果たした五木ひろしさん、ですが本当は初の白組司会を務めた山川静夫アナ。ここで彼が披露した元気のない時の勘三郎さんの声色は、確認できる限り紅白における初めてのモノマネ芸ではないかと思います。これは当然昭和の紅白名言集ツイートにも載せているので、詳しくはまたその時に書ければと考えています。

 18代目は、白組司会以前にも第40回(1989年)にゲスト審査員で紅白出演歴があります。また司会を務めていた時にも話していましたが、大晦日は家族で毎年テレビで紅白を見ていたそうです。司会として出演後も翌年にスポット出演、また第55回(2004年)と、勘三郎を襲名した第58回(2007年)にもゲスト審査員をしています。第58回では勝利した白組司会・笑福亭鶴瓶さんに優勝旗を授与しましたが、これは史上初めて歴代司会者が優勝旗を授与する形となっています。

 6代目を引き継いだ現・中村勘九郎さんも紅白に3度出ています。中村勘太郎時代に大河ドラマ『新選組!』・藤堂平助役として応援に1度(第54回(2003年))、勘九郎を襲名以降ゲスト審査員で2度(第63回(2012年)、第69回(2018年))。最近は櫻坂46・日向坂46ファンとしても知られていますね。そういえば勘九郎さんは『いだてん』の主演でしたが、親子で大河ドラマ主演というのも珍しい記録です。緒形拳・緒形直人以来2組目ですね。ちなみに親子でゲスト審査員を務めた例は他にも結構いますが、これはまた適当なタイミングであらためて表にして紹介できればと思っています。

 

・紅白における歌舞伎の口上

 最近ではあまり見られなくなりましたが、この演出は過去の紅白だと時々ありました。

 第29回(1978年)、芹洋子さんが「坊がつる讃歌」で初出場した時に紅組司会・森光子さんと歌手4名が口上を交えた曲紹介を披露しています。これがおそらく最初の例だと思います。

 第37回(1986年)では、歌舞伎をテーマにしたパフォーマンス対決を前に両軍キャプテン・斉藤由貴さんと加山雄三さんが口上を交えた舌戦を行う演出を展開。

 本家の歌舞伎口上も一度あります。第43回(1992年)の紅白歌合戦では、審査員席に菊五郎の夫人・富司純子さんが見守る前で音羽屋3代、7代目尾上梅幸7代目尾上菊五郎6代目尾上丑之助(現・尾上菊之助)が披露していました。もっともかなり練習時間が無かった模様で、当時15歳の菊之助さんは途中完全にセリフが飛んでいましたが…。音羽屋の後にも、白組・紅組を代表して10人の歌手が口上を披露しています。

 

・1999年紅白における歌舞伎の口上

 さて、1999年は勘九郎さんを司会に選んだ以上この演出が取り入れられるのは当然の理。白組歌手代表として、勘九郎さんが挨拶した後に登場したのは北島三郎さん、五木ひろしさん、中居正広さん、野猿で出演していた石橋貴明さん・木梨憲武さん、そしてオチとして美川憲一さん。オチも含めて、全員和服の裃姿で決めていました。一同の挨拶を終えて次の曲紹介、勘九郎さんが歌舞伎のままの口調で…

「続きましての曲目、GLAY、サバイバル!

 この年初めて設けられた大きなスクリーンに「GLAY」の文字が映り、花火が吹き上がる演出に激しいギターが奏でるイントロの演奏。歌舞伎とはあまりにも程遠いステージに、当時面食らった人も多かったのではないでしょうか。楽曲は言うまでもない大ヒット曲で、この年は「Winter, again」で日本レコード大賞も受賞しています。白組前半4番手で20時過ぎというえらく早い出番は、幕張メッセでのカウントダウンライブを控えていた為。ほとんどフルコーラスに近いエネルギッシュなステージは、この年前半の中だと格の違いを見せつけるような内容でした。ただ当時はあまりにもメディア出演が忙しく、解散まで考えていたような時期。口上をやっている後ろで”なぜこんな演出で登場することになっているんだろう…”と考えていたとしても、不思議ではありません。

 

・その後

 おそらくこの時の演出は関係ないと思いますが、GLAYは2000年以降紅白不出場を貫いています。新曲発表の際における音楽番組出演は続けていましたが、確かに1999年以前ほどの多さでは無くなりました。

 紅白におけるNHKホールでの口上はこの時が最後です。”NHKホールでの”と書いたのは、それ以外での口上があったから。第63回(2012年)では、福山雅治さんの中継で4代目市川猿之助さん、9代目市川中車さんの口上がありました。こちらも宙吊りパフォーマンスが行われた後に歌われた曲が「Beautiful Life」。インパクトを相当重視した演出を展開していました。

 勘三郎さんは2012年に57歳の若さで亡くなります。同年元気ならばゲスト審査員を務める予定で、その代役が息子の勘九郎さんでした。親交のある和田アキ子さんが、勘三郎さんと同年に亡くなった森光子さんを偲ぶ形で、涙ながらに「愛、とどきますか」を熱唱した場面も印象深いです。