この本編レビュー後のまとめは2008年の紅白歌合戦から書き始めました。各種発表や番組から見える今後の課題を項目を設けて色々書いていますが、実を言うと年々書くべきことは少なくなっています。歴代の記事はカテゴリ別のこちらをじっくり見て頂ければと思いますが、それだけ内容の満足度は高くなっているわけです。とは言え課題は何かしら毎年見つかるもので、今回もつらつらと項目を設けて書いていきます。
司会・進行について
紅・白・総合と分けない形式も今回で4年目。すっかり定着しました。紅組白組対抗という雰囲気は司会の面でいくと完全にゼロになりましたが、これも時代。むしろ進行という面で考えるとこちらの方がスムーズです。
今回の注目はやはり初起用の伊藤沙莉でしたが、結論を言うと可もなく不可も無く。むしろ前回の浜辺美波が上手過ぎただけで、普通は緊張でこんな感じに余裕が無くなったり早口になったりするものだということを再確認出来る内容でした。それだけ今の紅白は台本がガッチリ作られているということで、少なくともひと昔前より技術面ではハードルが下がっているように見えます。
有吉弘行も前回同様黒子に徹した司会ぶり。ただ緊張が和らいだり余裕が生まれたという印象は正直無く、少なくとも歴代屈指の名司会という域にはまだ達していないように感じました。これはもう1人の能力なあまりに異常なので、その分損をしている部分もあります。ただ歌や踊りなどは全く問題無し、本来の仕事を十分果たしていたことは間違いありません。
さてもう1人の橋本環奈ですが、今回も素晴らしかったです。状況に応じて喋りのスピードを落としたり、間を恐れないくらいの落ち着きは過去の司会者にも無いクラスのスキル。彼女は今回朝ドラと掛け持ちしているのですが、全く影響はありませんでした。”1000年に1人の逸材”とは、美貌以上に能力のことを指しているのではないかと思うくらいです。さすがにサプライズでは驚きの表情を見せていましたが、それも良い方向に作用していました。今回におけるアナウンサー以外のメイン進行は有吉さんでしたが、もう次回は彼女メインでいっそのこと俳優だけで固めてもいいくらいです。歴代司会は長くてもほぼ3年連続、4年連続は特に女性では3名(紅組2名・総合1名)しかいないのですが、この人はまだ鮮度を失っていません。私には何十年後、彼女が和田アキ子や黒柳徹子ばりに芸能界を支配する絵が見え始めています。
鈴木奈穂子アナは今回出番多くなかった印象ですが、仕事はしっかりこなしていました。B’zのマイクトラブルでお詫びした場面は職員としてテンション上がり過ぎという批判もありそうですが、事前に何も知らされずにあの状況で興奮しないのは無理です。少なくともスキル不足と感じる面は全く無し、次回も続投で良いのではないでしょうか。
それにしても近年は司会が歌って踊る場面が明らかに増えました。今回の紅白はキッズショーにディズニーコーナー、さらにダンスが流行ったアーティストのステージは脇で踊るショット挿入もあったりで大変です。時間があればまとめるつもりですが、2010年代以前と比べても歴然としています。嵐が司会をしていた時は出場歌手兼任だったので、そこまであまり感じなかったのですが…(振り返ると彼らも歌以外のコーナー出演は多数ありました)。
司会については正直1人上手い人がいれば今は何とかなるので、いかに歌って踊れるかが今後の人選においてポイントになるのかもしれません。そう考えると紅白の台本も進歩しました。平成期はウケを狙ってスベる場面や不必要な紅組(白組)勝ちます!のくだりなど、ツッコミどころが本当に多かったので…。
出場歌手の顔ぶれ・選曲について
通常の出場歌手選出については文句ありません。ビルボード上位にランクインしていて2024年に必要不可欠と思える楽曲・アーティストはほぼほぼ網羅していました。それこそB’zがCDシングルで何十作もオリコン週間1位を連続して獲得していた頃には、考えられないことです。SNSではB’zが90年代ダサいと言われていた云々で話が盛り上がっていますが、その頃の紅白歌合戦はそれ以上にトップクラスのJ-POPアーティストが多数辞退・実際のヒット状況に対する演歌の比率が高くなり過ぎていた時代でした。
実を言うと今回は若手が多い代わりに高齢の出場歌手も多くいます。70代が5組も存在する紅白は過去にありません。あとは気がつけば2000年代初出場で連続出場している歌手が水森かおりのみ、中堅の常連が少なくなっています。一応10回連続の歌手はいま4組いますが、出場歌手は現在過渡期にある状況なのかもしれません。
特別出演は今回B’z、氷川きよし、米津玄師に玉置浩二。全て男性アーティストになりました。構造的問題もあるので仕方ない面もありますが、見ようによっては白組にアーティストが固まり過ぎているという捉え方も出来ます。特に今回は本来勝敗に関係無いはずのB’zのステージが圧倒的内容だったので、それが白組優勝の要因になったという見方もあります。前回は女性アーティストの企画枠が比較的多かったので問題にはならなかったですが、前々回も女性は松任谷由実 with 荒井由実のみ。とは言えこのクラスは毎回簡単に呼べる存在のアーティストでないことが大半なので、難しいところです。
前半19時台ステージの演奏時間について
平成終盤辺りから、前半19時台の演奏時間は短縮化が顕著になってきました。第70回以降の冒頭10組(企画枠除く)の演奏時間を表にしてみます。
該当回 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
第70回 (2019年) |
3:30 | 2:40 | 2:17 | 1:55 | 1:58 | 2:12 | 2:19 | 2:03 | 2:25 | 2:03 |
第71回 (2020年) |
2:33 | 2:15 | 1:57 | 2:03 | 1:57 | 2:02 | 2:26 | 2:41 | 2:32 | 2:26 |
第72回 (2021年) |
2:58 | 2:40 | 2:09 | 2:03 | 1:58 | 2:09 | 2:30 | 2:02 | 2:03 | 2:02 |
第73回 (2022年) |
2:17 | 2:05 | 2:01 | 2:43 | 2:24 | 2:18 | 2:15 | 2:30 | 2:12 | 2:07 |
第74回 (2023年) |
2:14 | 2:07 | 2:25 | 2:29 | 2:20 | 2:00 | 2:09 | 2:03 | 2:00 | 2:13 |
第75回 (2024年) |
2:00 | 2:15 | 1:56 | 2:03 | 2:06 | 2:05 | 2:21 | 2:09 | 1:58 | 2:06 |
3分超えは第70回の「パプリカ」のみ、それ以降もほとんど改善されていません。今回は特に19時台は例年以上の短さで、2分30秒超えは12組目のHYが最初でした。
後半の方が確実に視聴率は高いので、前半をゆったり作れというつもりはありません。ただ比較的余裕の無かった第54回(2003年)でも、冒頭6組は一番短いステージでも2分24秒。この前半短いステージが頻発するようになったのはデータを見る限り、第64回(2013年)辺りからの傾向です。
確かに事前音源では昔のように生放送生演奏でテンポを速める…などは不可能、振り付けもあるので急遽ここをカットという訳にはいきません。放送時間内に何とか収めるために最初から苦心してカットするのは理解できますが、私から言わせるとカットすべきなのはVTRの映像の方。もしくは紅白各1組くらい枠を絞るか…でしょうか。とにかく言えることは、紅白歌合戦の主役はあくまで歌手でありステージ。いくらキャリアの浅い初出場だからと言っても、不自然なカットでそこのクオリティーを下げるのは音楽番組として違うのではないかと個人的には感じます。正直VTRの実績紹介はあるに越したことは無いですが、最悪データ放送やテロップでも対応可能なはずなので…。
映像・音響など技術面について
前回の紅白歌合戦はスタジオ多用でホール中継全体の約65%という状況でしたが、今回は一部を除いて原則ホールからというこれまでのスタイルに戻りました。単純にそこは良かったと思っています。
後ろの大型セットに施される映像は今回CGのイメージくらいで奇抜なものは無く、『名探偵コナン』のaikoのステージさえも最後にイラスト・メッセージが登場するに留まりました。予算がこっちにあまり配分されていないのではないかと思うくらいでしたが、その分ステージに目がいく要因になったのが個人的にはありだと思っています。
一方生演奏が比較的多かったこともあってでしょうか、今回はマイクなど音声があまり良くない印象でした。椎名林檎ともものステージにおける最後の銅鑼の音は、画面に合わせて音が遅れ過ぎていたような…。難しい所ではありますが生放送の歌番組が少ない時代、職人の技術が受け継がれていない懸念もあります。特にもう昭和期のスタッフは現役で残っていないはずなので、生演奏の需要に対してスタッフの供給が今後さらに足りなくなる可能性も出てきました。その点で考えるとダンスグループの台頭は渡りに船といったところですが、それでも細かい音の調整は必要です。私もこの道については全然詳しくないので大きなことは言えませんが、可能なら改善を望みたいです。
トリ・曲順について
紅組はMISIAが6年連続、白組は福山雅治が5年連続。いよいよマンネリ化がweb記事として取り上げられるようになりました。歴代でも例のないほど続く同じ組み合わせ、言うまでもなく良い状況ではありません。
ただこれは前回も書きましたが非常に難しい問題で、いざ代えると言ってもなかなか簡単に代えることは出来ません。演歌歌手がメインでトリを張っていた時は共通のオーケストラによる生演奏だったので音合わせの手間は発生せず、2000年代~2010年代のSMAPや嵐は漏れなく事前録音。生演奏のライブステージで最後を締めるという構成も歌番組としては非常に美しく、その流れを変えたくないという気持ちも十二分に理解できます。前回はYOASOBIの後に年の瀬中継を挟む形でしたが今回も白組トリ前はスタジオ録画の玉置浩二、大トリもここ2年は前置きが長くなっています。両者とも登場するミュージシャンの数はトップクラス、そうなるとトリ以外の曲順に移すとなると色々新たな問題が生じる状況になっています。無理やり考えるとトリ前か前半トリが最適解だと思いますが…。ここまでくると第24回(1973年)で紅白を去った6年連続大トリ&10年連続紅組トリ・美空ひばりのように、卒業してもらうしか解決策が思い浮かばなくなっています。
代わるべき存在は紅組白組とも複数います。紅組はSuperflyにあいみょんに椎名林檎、大ベテランの石川さゆりや坂本冬美も控えています。白組は何と言ってもMrs. GREEN APPLEの台頭著しく、今回のステージもトリで十二分に通用する内容でした。こちらもいざとなれば、第59回大トリ経験者の氷川きよしが控えている状況です。その点ではトリに関して言うと人選以上に演出面において、どう変えるかどうかを考えるのが大きな問題になっているような気がします。
あとトリと話が変わりますが、今回は前半後半ともにトップバッターが同じ組連続というケースが初めて発生しました。近年は3組連続のステージが恒例となり、見る分にはさして違和感無かったですが、やはり最初くらいは交互にした方が良いような気はしています。この勢いでトリまで同じ組2組で締めるというのは、さすがにちょっと違うと思うので…(もっとも第64回(2013年)、”究極のトリ”という名目で紅→白→白で締めたケースは既に存在していますが)。
おわりに
2010年代の紅白は回によって当たり外れも結構あり、2000年代の紅白は不自然なやり取りが各所で散見されました。そう考えると今回変な企画を挙げるとしてもドミノとけん玉程度、芸人が参加する企画さえもまともな内容になりました。ダサいと言われる紅白もそれこそB’zの出演、もっと言うと会場が一体になった「ultra soul」のジャンプで終幕を迎えたのかもしれません。私はここ何年かB’zは「紅白歌合戦に出演していない最後の大物」と書いていましたが、本当にあらためて見せられると圧巻の一言でした。
無観客・別会場を経た第73回以降紅白歌合戦はさらに変わり、「蛍の光」も結果発表の前になり優勝旗授与も無くなりました。変える必要の無い部分まで変わっているような印象も若干否めませんが、それでも時代や流行に合わせて確実にうまく変容しているのが今の紅白歌合戦。あらためて出演者やスタッフの皆さんに感服します。今後も当サイトでは、昭和~平成~令和に至る紅白歌合戦のあらゆる所をあらゆる観点から書いていくつもりです。引き続きご期待ください。
ティーザー&YouTube再生数からの分析記事は、5日か6日夕方頃を予定しています。ビルボードチャートの紅白効果は新年一発目のチャート公開日に書く予定ですが、13日くらいまでずれ込む可能性があります。第76回の紅白予想は、例年通りに8月頃から始める予定です。
それではここまで読んで頂きまして、ありがとうございました。2025年も、当サイトをよろしくお願いします。
コメント
ここまで更新いただきありがとうございました。本年もよろしくお願い致します。
内容については、近年稀に見る良さでした。スタジオ・中継・収録が大幅に減り、基本的にNHKホールでの生歌唱となったのは素晴らしかったです。曲目も『KIDS SHOW』から高齢者向けまで幅広く、『あなたへの歌』に相応しい内容でした。結果として視聴率が回復したのは、非常に良かったです。
トリの固定化については、実際にMISIA・福山雅治に代わる歌手がいないのが要因ではあります。5年連続同じ組み合わせという所にばかり注目が集まりますが、累計では美空ひばり・五木ひろし・北島三郎が13回、森進一・石川さゆりが9回、和田アキ子が7回トリを務めており、連続でなければそれほど問題ないと考えます。よって、今後白組は福山雅治と(復帰すれば)ゆずで回せば良いのですが、紅組はMISIA以外には石川さゆりしか候補がおらず、このまま美空ひばりの10年連続に並ぶ可能性が高いでしょう。
最後に番組のあり方についてコメントします。近年の紅白は『カラフル』『みんなでシェア』『ボーダレス』と急激な変化を繰り返してきましたが、今回は一気に揺り戻しが起きたように感じました。男女対抗を見直すべきという意見は少なくありませんが、75回続いた男女での組分けを辞めることは、『紅白歌合戦』を辞めることと同義なので、今後も末永く続いてほしいです。
いつも楽しく、感心しながら読ませていただいております。色々な事があったろう、その一年の最後の日という特別な日にする、祝祭的番組としていつもテレビを観ています。最近テレビを圧倒的に観なくなってるせいか、知らない歌手や歌がかなり増えた印象ですね。むしろAKB48が出た方が有名な曲が5曲程あるんで、飽きさせないためにもいいのかもしれませんが…。あとイルカさんの選出、歌唱順、歌唱時間が最近の紅白では一番グッドでしたね。昭和のランキングで全世代に上位に入る曲なんで、ナイスな人選だと思いました。今年は昭和100年に当たる年なんで、昭和のカラオケランキングの1位にくるタッチ(岩崎良美さん歌唱)を紅白で聴きたいな、と思っております!
今年も紅白の記事の更新ありがとうございます。
正直今回の紅白は不安なところはありました。でも終わってみれば事前の不安点を吹き飛ばしてくれた、素晴らしい回だったと思います。
とくにB’zの生出演・生演奏は最高でした。本当に出演してくれてありがとうの言葉しか出ません。
楽曲のラインナップも若者向けから熟年層向けに幅広くなっており、楽しめる回でした。
それでも視聴率が第1部現状維持、第2部微回復というのは、テレビというメディアに限界が迫っている、そう感じました。
おそらく今回紅白を見ていない残りの70%は、他の局を見たというよりは最初っから興味なしという事なんでしょう。
そうなれば今回のラインナップにYOASOBIやゆずが加わろうとも爆発的な視聴率回復はもう無理なのかもしれません。
今回の紅白は一つの方向性が見えてきたという感じがしました。
おそらく今後も特定の世代に媚びるのではなく全ての視聴者に興味を持たせるラインナップで進めていくのかもしれませんね。
今年も紅白記事の執筆有難うございます。毎年Kerseeさんの分析力で最後まで紅白を楽しむことができています。
今年も正直、出来という意味では不安だったのですが、振り返ってみると良質な紅白になっていて満足度の高いステージを見ることができたと思います。皆さんも仰っていますが、特にB’zのステージは圧巻で出場してくださって本当にありがとうございますと言いたくなるほどでした。
自分は20代なのですが、同世代の若者たちがB’zやThe Alfeeといったベテランアーティストの良さに気づいてファンになっていく…といった流れがもしかしたら今の紅白の役目になっていたのかなと今回特に感じましたね。
もちろん、その年のヒット曲もそろえてほしい気持ちもありますが、今年の紅白を見て今後の出場歌手選出の方針は、その年のヒット曲+アニバーサリー系の再出場歌手+ベテラン歌手(特別出場)の3本柱で当分は立てていき、あらゆる世代が満足できるようなラインナップで揃えるといった方が良いかなと感じましたね。
ただ、視聴率やトリ選出といった課題点は音楽業界やメディア業界における問題点に直結すると思いますので、偏に数字を気にするよりも質を高めてこれからも満足のいく番組を作り続けてほしいと思います。
最後にですが、Kerseeさんが仰っていた課題点における音のトラブルについてですが、自分も気になりました。これも、現在生演奏の音楽番組が少なくなっている弊害だと思います。勿論、事前録音の音源でも仕方ないと思いますが、レコ大のような生演奏メインの音楽番組と比べると差が出てくるなとどうしても感じてしまいました。ので、予算など難しいところだと思いますが、生演奏に対応できるスタッフ育成のためにも生演奏での音楽番組もしくは披露できる場が増えればいいなと感じました。
これからもKerseeさんの紅白記事を見ていきます。可能であれば、もっと様々な視点でまとめたものや出場歌手でまとめた記事も見ていきたいです。これからもよろしくお願いいたします。