紅白歌合戦・加山雄三の軌跡~ステージ編~

 司会者を3度務めている関係で、ステージ以外の出演は非常に多くなります。そのため今回の記事は歌手としてのステージとそれらの曲紹介のみについて書いています。第37回(1986年)~第39回(1988年)以外における、応援などの出演シーンも次の記事で書く形とすることをご了承ください。

第17回(1966年)「君といつまでも」

作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作
前歌手:舟木一夫、吉永小百合
後歌手:ザ・ピーナッツ、ジャッキー吉川とブルー・コメッツ
曲紹介:宮田 輝(白組司会)

 「白組応援の皆さん、先程から熱烈なるご声援まことにありがとうございます。男性軍自信を持ってお送りします。こういう方です」

 宮田輝アナの紹介後、おなじみ「君といつまでも」の演奏が始まります。ただ白組サイドから登場したのは若大将ではなく渥美清。後年『男はつらいよ』の寅さんが当たり役になりますが、当時は喜劇映画の出演が多いコメディアンとしてよく知られる存在でした。なお長年レギュラーを務めていたNHKの人気番組『夢であいましょう』は、この年4月に放送終了しています。

 渥美さんが喋り始める直前に演奏ストップ。例の「幸せだなぁ」から、若大将になり代わって喋り始めます。「僕は君と一緒にいない時が一番幸せなんだ。どんなことがあったって君とは一緒にならないで、良かったね、と…」本来の歌とは真逆のセリフ、白組応援団長の藤岡琢也が止めに入ってそのまま退場。

 「どうも失礼を致しました。1人で早稲田と慶応と両方背負って立ってる人。慶応のご出身、僕は”しあワセダ”で早稲田の方も背負ってるわけでございます。本物の加山雄三さんです、どうぞ!」

 慶應義塾大学出身として知られる加山さんですが、対戦相手の吉永小百合は当時早稲田大学在学中。吉永さんも当時日活で主演作品多数。この組み合わせは映画の大スター対決であると同時に、早慶戦という側面も持っています。

 当時は舞台袖下段もしくは上段から階段を降りての登場が一般的ですが、加山さんはなんとエプロンステージのくぼみにあたる部分から登場。非常に珍しいオープニングになっています。ステージも当時主流であった紅組白組両サイドにある固定マイクではなく、舞台前方中央に用意されたコードマイクを使用。それを手に取って、より観客に近い場所で歌います。

 「幸せだなぁ…」のセリフは本物で、観客席からも大拍手。思わず照れくさい笑い声も途中こぼれます。一連の台詞パートの後に1番を歌い切ってステージ終了。最後は「白組にご声援を」と観客に挨拶、マイクを舞台に置いて締めました。

 「君といつまでも」はこの年の音楽シーンを席巻した国民的ヒット曲ですが、それでもフルコーラス3分20秒は当時の紅白だとやはり難しかったようです。セリフから歌い出しに入るステージはかなりレアな構成ですが、それ故に違和感もあります。後年のムック雑誌『紅白50年』における本人のインタビューでも、これについては「あまり良い印象として残っていない」と回想していました。

第18回(1967年)「別れたあの人」

作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作
前歌手:和田弘とマヒナスターズ、こまどり姉妹
後歌手:佐良直美、北島三郎
曲紹介:宮田 輝(白組司会)

 本編の再放送が過去に無く、また若大将の中ではややマイナーな部類の曲ということもあって、映像は後年の紹介も含めて見つかっていません。

 音声は残っています。根室からの電報に乗せての曲紹介、原曲同様のスローテンポで2コーラス歌唱です。対戦相手は「世界は二人のために」で初出場の佐良直美、彼女も当時の女性歌手では珍しい大卒デビューが当時話題になっていました。

第27回(1976年)「ぼくの妹に」

作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作
前歌手:森 進一、八代亜紀
後歌手:二葉百合子、春日八郎
曲紹介:山川静夫(白組司会)

 1970年に「美しいヴィーナス」のヒットもありましたが、紅白に復帰する直前は若大将シリーズ終了・巨額の借金に追われる低迷期でした。レコード発売も1972年に一旦途絶えましたが、俳優としてはその後テレビドラマに活路を見出し、歌も1976年のアルバム『海 その愛』が年間30位の大ヒットを記録。シングルカットされた「ぼくの妹に」もヒットして、めでたく紅白返り咲きとなりました。復帰決定の際は、初出場歌手と一緒に記者会見も参加しています。なお同タイトルのドラマは主題歌ではなくこの曲をモチーフにした内容、中田喜子を妹役に据えて9年間東芝日曜劇場で不定期に放送される人気シリーズとなりました。

 「さて、今年あの若大将の爽やかな笑顔が帰ってきました。兄貴のような優しさを、特に紅組の妹たちに聴いて頂きたいと思います。「ぼくの妹に」、加山雄三さん!」

 観客席や白組歌手応援席からの声援に、左手を挙げて応える若大将。中央の正面ゲートから入場する姿が、とても爽やかです。妹のような?女性コーラス9人を従えて熱唱。途中のセリフ終わりには、妹のような美しい観客の1人をアップで映すショットも挿入されます。終始二枚目の爽やかなステージですが、後ろから映すラストショットは右腕を掲げるガッツポーズ。こちらは爽やかというより、男らしさの方が強い動きで楽曲と好対照を成していました。

第28回(1977年)「もえる草原」

作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作
前歌手:千 昌夫、和田アキ子
後歌手:山口百恵水前寺清子
曲紹介:山川静夫(白組司会)

 前半ラストという山場の曲順、「イミテイション・ゴールド」を歌う山口百恵とスター同士の対決です。この年の若大将は、大ヒット映画『八甲田山』の出演が評判を呼びました。

 歌う前に日本航空のフライトアテンダント(当時はスチュワーデス)4名とアグネス・ラムが登場。ハワイから贈られたレイをプレゼントするとともに、アグネスは若大将の頬にキスをします。前年コマーシャル出演とグラビアで大ブームとなった彼女ですが、紅白は前年に続いて2年連続の出演になりました。この年「雨あがりのダウンタウン」で歌手デビューも果たしますが、作曲を担当したのは弾厚作こと若大将です。

 この年は全体的に時間が無くテンポを速めるステージが続出しますが、若大将に関しても同様でした。歌う前から白組歌手席だけでなく紅組歌手席にもポーズをとって猛アピール。ややテンションが高い姿ですが、これが速いテンポの演奏と非常に合っています。

 体全体を使っての熱唱は、前年までの爽やかさよりもカッコ良さの方が勝っていました。ロングトーンを目立たせるメロディーが非常に活きている、個人的には若大将の紅白でもトップクラスの熱唱ステージではないかと思っています。

第29回(1978年)「海 その愛」

作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作
前歌手:原田真二、渡辺真知子
後歌手:佐良直美、新沼謙治
曲紹介:山川静夫(白組司会)
合唱:慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団

 若大将といえば海ということで、この年自らが所有する船をモチーフにした「光進丸」がリリースされています。『ザ・ベストテン』のスポットライトでも披露されましたが、紅白で歌われたのは2年前に歌えなかった「海 その愛」でした。歌う直前に当時放送中の連続テレビ小説『わたしは海』からの応援(相原友子中原ひとみ正司照江がゲスト出演)がありましたが、もしかするとこれに合わせての選曲だったのかもしれません。

 後年の紅白で歌唱する際はピアノを弾きながら歌うオープニングですが、初歌唱のこの年は通常通り中央奥のセットから入場して歌う演出でした。若大将が歌う姿を映す間に男声合唱団が登場、サビから一緒に参加します。母校である慶應義塾大学ワグネル・ソサィエティー男声合唱団約40名、もっとも長い歴史を持つ大学合唱団の面々です(ホームページはこちら)。

 構成も1コーラス+サビ繰り返しで演奏時間2分25秒ほど、フルコーラス7分50秒と比べるとややあっさりした内容です。とは言え男声合唱団も加えた歌声は雄大さに満ち溢れていて、かえって後年のステージよりシンプルで素直な内容なのかもしれません。

第30回(1979年)「旅人よ」

作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作
前歌手:細川たかし、研ナオコ
後歌手:サーカス、布施 明
曲紹介:山川静夫(白組司会)

 この年は歌の方で新作発表が無く、往年の名曲を紅白で初歌唱という形になりました。「旅人よ」は「夜空を仰いで」のB面収録ですが、本来の表題曲よりも知名度高く紅白でも先に歌われるという形になっています。曲については「いまだにキャンパスソングで本当にみんなに愛唱されている」という紹介がありました。

 ギター演奏にさだまさし野口五郎、ウッドベースの演奏に小林正樹(内山田洋とクール・ファイブ)が加わります。それぞれコーラスも担当、メインボーカルの若大将もギターを弾きながら歌います。この年初出場のさださんは加山さんに影響されて音楽を始めたらしく、これ以降も何度もステージで共演しています。五郎さんはこの年「真夏の夜の夢」のギターパフォーマンスが話題になりました。小林さんは元々クールファイブでベースを担当しています。

 紅白復帰後の3曲は熱唱という言葉が似合うステージでしたが、この年はややゆったりと落ち着いた雰囲気です。間奏ではあなたの”ふるさと”と称して、東京湾沿いの夜景が中継で映ります。第29回と第30回はいくつかのステージに、こういった映像が挿入される演出でした。

 1コーラス半、聴かせるステージの終了後またまたアグネス・ラムがビキニ姿で登場。それぞれに首へレイをかけて頬にキスをプレゼント。若大将、さださん、五郎さんと続いて、ラストの小林さんはなぜか首ではなくベースネックにレイをかけるというボケをかまします。ただ頬にキスをするのは同様で、小林さんは誰よりも大喜びではしゃいでいました。

 なおアグネスさんはこの年大磯ロングビーチの初代キャンペーンガールに就任、また1981年には10年ぶり公開となったハワイロケの『帰ってきた若大将』にゲスト出演しています。1983年に引退しますが、紅白歌合戦の出演は3度。グラビアで中心とするタレントとしては、異例の多さでした。

第31回(1980年)「湯沢旅情」

作詞:安麻呂 作曲:弾 厚作
前歌手:布施 明、桜田淳子
後歌手:研ナオコ、フランク永井
曲紹介:山川静夫(白組司会)

 翌年2月に10年ぶりの若大将シリーズ・『帰ってきた若大将』が公開されますが、同作で長年共演している青大将こと田中邦衛が応援に登場。「マイ・ウェイ」のBGMをバックに語ります。

「彼は…風のようでした。疾風のように僕の青春の中を駆け抜けていった、風のようでした。風が運んでくれるあの爽やかな海の香りを、僕は今でも忘れません。苦しい時があり、辛い時があり、でも風は今日も街を吹き抜けていきます。僕は幸せだなぁと彼は歌いましたけど、僕は彼に出会えて、幸せです」

 青大将が話す間に、スポットライトが当たった状態で若大将が入場。「ありがとう、若大将」「おっす、青大将」「あのさ、お前、歌だけで勝負するなよ。笑顔でいけ、笑顔!」

 若大将シリーズのファンにとっては堪らない名場面だったのではないかと思います。なお邦衛さんが喋り始めた後に観客席から絶妙の間で「渋い!」の合いの手があり、会場に笑いが起きて本人も反応する場面がありました。また邦衛さんが若大将に直接メッセージを贈る場面はおそらく予定外だったようで、山川アナの曲紹介と少し被る場面もありました。ちなみに『北の国から』は翌年から放送開始で、この時点ではまだ存在していません。

 楽曲はこの年発表、湯沢は新潟県湯沢町を指しています。新潟県南部の越後湯沢、ロックファンにはフジロックフェスティバル会場の最寄駅としてお馴染みの場所です。間奏で湯沢について紹介するテレビ実況あり、大晦日の天気は曇りで気温は1度・積雪は1メートル50センチとのことでした。なお上越新幹線は当時未開通です。

 ステージは群青のスーツで朗々と2コーラス歌う内容でした。大ヒット曲ではありませんが、ついつい口ずさみたくなる良い曲です。

第32回(1981年)「若大将ヒット・メドレー」

歌唱曲1:「夜空を仰いで」(作詞・作曲:弾 厚作)
歌唱曲2:「お嫁においで」(作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作)
歌唱曲3:「君といつまでも」(作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作)

前歌手:西田敏行、桜田淳子
後歌手:ロス・インディオス&シルヴィア、沢田研二
曲紹介:山川静夫(白組司会)

 当時の紅白歌合戦では異例のヒット曲メドレーです。特別ゲスト以外で紅白の複数曲披露は第28回でエルヴィス・プレスリーを追悼した佐良直美以来4年ぶり、3曲披露は第22回で『にほんのうた』メドレーを歌ったデューク・エイセス以来10年ぶりです。放送前に歌唱曲が視聴者に伝わっていたかどうかは不明ですが、曲紹介は「”夜空を仰いで”固く抱き合った日、”お嫁においで”と照れくさいプロポーズの日、そして”君といつまでも”と永遠の愛を誓い合った日」と歌唱曲全てを盛り込む形になっていました。

 舞台袖白組側(上手側)から「夜空を仰いで」の歌い出しを歌いながら登場、そのまま「お嫁においで」のパフォーマンスに入ります。軽快なテンポに、観客席から自然に手拍子。その音は徐々に会場全体に広がっています。タキシードを着た北島三郎・五木ひろし・森進一・前川清もコーラスで登場。非常に豪華なメンバーです。

 1コーラス後、ラストは「君といつまでも」。初出場の時と同様、セリフから入ります。もっとも今回は3曲メドレーなので、1番ではなくそのままセリフから続く本来の歌詞が歌われる形になりました。

第33回(1982年)「君といつまでも」

作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作
前歌手:菅原洋一、ロス・インディオス&シルヴィア
後歌手:青江三奈、フランク永井
曲紹介:山川静夫(白組司会)

 立て続けに切れ間なく続いた前半の構成、シュガーサザンオールスターズ研ナオコ菅原洋一ロス・インディオス&シルヴィアから続く6つ目のステージでした。

 この年は演出が凝っていて、舞台袖からオープンカーを運転して登場します。白組を象徴するかのような真っ白な車ですが、細かい車種は分かりません。「君といつまでも」を1曲通しで歌うのは初出場以来16年ぶりですが、当時のようにセリフからの入りでは無く堂々のフルコーラス歌唱でした(アウトロのみ若干カットあり)。

 途中赤いきらびやかなドレスを着た婦人が乱入します。彼女に向かって口説くようなセリフパートに、「嬉しいです」と返します。明らかに慣れていない様子の踊りにいわゆる聖子ちゃんカットのカツラも気になる所ですが、その主は紅組チームリーダーの水前寺清子でした。

 「いやー、素敵ですねぇ。それにしても、不思議な女性が出てきましたね」「あの、うちの方のリーダーなんですけど、乗って行っちゃうんでしょうか」「そうですね、乗って行っちゃうらしいんですけどもね」「あれなんか電気自動車ですってね」「そうなんです」黒柳徹子山川静夫のテンポ良いやり取りをバックに、若大将はチータを乗せて車をバックさせて舞台袖に去っていきました。

第37回(1986年)「今は別れの時 フェアウェル」

作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作
前歌手:菅原洋一、和田アキ子、(応援合戦)
後歌手:松田聖子、角川 博

曲紹介:千田正穂(白組司会)

 「仮面ライダー」で伝説を残した年ですが、実を言うとこの年の若大将の肩書は紅組の斉藤由貴とともに司会ではなくキャプテン名義でした。両軍司会担当は千田正穂目加田頼子の両アナウンサー、若大将のステージも千田アナが担当します。直前の応援合戦に登場した五木ひろし村田英雄など、白組歌手が勧進帳の弁慶の格好のままで舞台袖から見守ります。歌唱曲は1977年のシングル「夕映えの恋人」B面収録曲、レコードジャケットには「フェアウェル(今は別れのとき)」と表記されていますが、ここでは「今は別れの時 フェアウェル」のテロップ表記。紹介する千田アナも「今は別れの時」とアナウンスしています。

 舞台は暗転状態で、そこに星空を映す照明演出。真っ暗なので、もしかすると緞帳に映す形になっているのかもしれません。さらに歌っている最中、舞台全体がせり上がります。舞台を真っ暗にして歌うステージはこれ以前の紅白で例はなく、舞台全体を上下させる演出はこれを最後に一切見られなくなりました(それ以前は第32回・第33回の松田聖子の事例あり)。

 ラストに半音高く転調する編曲もあり、堂々と歌い上げる素晴らしいステージでした。せり上がった舞台は後半で元の位置に下がり、歌い終わった後は星空も消えて暗転状態になります。白組側に歩いて退場した後、キラッという音に合わせて舞台中央にスポットライトが当てられ、そのまま松田聖子が歌う「瑠璃色の地球」のステージに入ります。

第38回(1987年)「海 その愛」

作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作
前歌手:近藤真彦、小泉今日子
後歌手:松田聖子、竜童組

曲紹介:渡辺 謙、三浦友和、西郷輝彦

 この年は前年と違ってそれぞれ歌手の1人が司会担当。曲紹介担当は、大河ドラマ『独眼竜政宗』に出演した3人でした。

「昭和62年も押し詰まった12月31日。3人の武将が仙台青葉城をあとに、ひそかに南に向かった。目指すは江戸、東京渋谷のNHKホール。この3人とは、武勇を鳴らした伊達家を代表する、伊達藤五郎成実、またの名を…三浦友和。名参謀として伊達家を支える片倉小十郎景綱、またの名を…西郷輝彦。そして独眼竜の異名をとった伊達政宗、またの名は…渡辺謙、その人である。」

 テーマソングをバックに、本編同様葛西聖司アナのナレーションで3人が登場。渡辺謙は前年の特別審査員で2年連続。三浦友和は紅白も大河も初出演ですが、奥さんは6年連続出場でトリも務めています。西郷輝彦は歌手として10年連続出場、紅白の舞台はそれ以来14年ぶりでした。

成実「殿!今年一年、ご苦労でござった」
小十郎「いやいや成実殿、来年もまた殿の年でござる」
政宗「おう、それは何ゆえじゃ?」
小十郎「今年はうさぎ年、そして来年は?」
成実「えー、むろん…辰年!」
政宗「独眼竜か…。(一同笑い)」
成実「さすがは小十郎殿。(一同笑い)」

渡辺「…といった所でえー、今年一年戦国時代を駆け抜けました伊達男3人組が、白組の伊達男を応援しに参りました」
三浦「伊達政宗は、海の向こうに夢を抱きました」
西郷「白組のキャプテン、加山雄三さんも海の男です」
渡辺「その加山雄三さんが、海の男の浪漫を歌ってくれます。「海、その愛」です」一同「いざ!」

加山「皆の衆ありがとう、どうもありがとう」

 というわけで、歌い出しからそのままピアノ演奏に入ります。声が出てから音を鳴らすため最初の音程を取るのは非常に難しく、実際歌い出しの音は外れる形になりました。グランドピアノを弾きながらの熱唱、舞台には波をイメージしたようなドライアイスが大量に投入されています。

 1コーラス終了後は立ち上がり、ピアノにセットされていたマイクを手に取って大熱唱。サビの繰り返しは9年前よりも1回多く、歌唱時間も3分を超えました。会場からは大きな拍手、次に曲紹介する紅組司会の和田アキ子「いやー、最高!素晴らしかった!加山雄三さんでした!」と笑顔でコメントします。

第39回(1988年)「マイ・ウェイ」

作詞:P. Anka 作曲:C. Francois
前歌手:TM NETWORK、佐藤しのぶ
後歌手:(中間審査)、島倉千代子、チョー・ヨンピル
曲紹介:五木ひろし、森 進一

五木「いやー、さすがですね」
森「あの迫力に対抗するのはやはり、キャプテンに出て頂きましょうか」
五木「そうですね。間もなく芸能生活30年という節目を迎える加山雄三さんです」
森「今まで歩いてきた道を振り返る、そしてまた未来に向かって歩き出そう、そんな気持ちで歌って頂きたいと思います」
五木「「マイ・ウェイ」、加山雄三さんです」

 この年も白組司会兼任、曲紹介を担当したのは18年連続出場の五木ひろしと20年連続出場の森進一でした。紅白では45回共演しているご両人ですが、一緒に曲紹介を担当するのはこの時が唯一です。

 数多くの歌手がカバーしている「マイ・ウェイ」ですが、英語の原詞を紅白で歌ったのはこの時のみです。同時に、若大将が紅白で自作の曲を歌わない唯一のケースでもありました。対戦相手はシューベルトの「アヴェ・マリア」を歌ったオペラ歌手の佐藤しのぶ。全世界で知られるスタンダード・ナンバー対決という形になっています。

 前年同様ドライアイス演出、歌が進むに連れて照明が徐々に明るくなります。日本語で3度歌った布施明はいずれも1コーラス半でしたが、この年の若大将は完全フルコーラスでした。布施さんの歌唱はいずれも伝説的な内容ですが、若大将のこのステージも持ち前の声量に50代を迎えた渋さも加わった大熱唱。マイクを大きく離すラストのロングトーンは圧巻で、会場からも大きな拍手が巻き起こりました。

第48回(1997年)「若大将 ’97 スペシャル」

歌唱曲1:「夜空の星」(作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作)
演奏曲2:「ブラック・サンド・ビーチ」(作曲:弾 厚作)
歌唱曲3:「蒼い星くず」(作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作)

前歌手:吉 幾三、森山良子
後歌手:坂本冬美、谷村新司
曲紹介:中居正広(白組司会)

 豪華なメンバーが演奏に加わったステージ、曲紹介も多くの白組歌手が集まります。鳥羽一郎山川豊河村隆一T.M.Revolution・つんくといった面々の顔が見えます。

南こうせつ「若大将はですね、今年でめでたく還暦を迎えました。そこで白組は今夜限りのスペシャルバンドを結成いたしました」
中居正広「スペシャルバンド?どんなメンバーがいらっしゃるんですか、森さん?」
森進一「(かなり貯めて)……すごいです…」

 随分貯めた森さんがひと笑いを起こした後に、若大将の掛け声で演奏スタート。まずは「夜空の星」から始まります。エレキギターを弾きながら歌唱、意外にも若大将が紅白でエレキを手にして歌うのはこの時が初めてです。

 「ブラック・サンド・ビーチ」演奏中に、テロップでバンドメンバー紹介。ギターはシャ乱Qはたけがリードで、リズムはさだまさし城島茂(TOKIO)。ベースはシャ乱Qしゅうが担当。ドラムは同じくまことと、なんと西城秀樹も加わるダブル体制。コーラス&タンバリンは美川憲一前川清堀内孝雄。18年前にもステージに参加したさださんは銀色のシャツで、普段のステージでは見せないようなカジュアルな姿。しゅうとまことの衣装は船員スタイルで、後者は大きな船の形をした被り物を頭に乗せています。西城さんは過去に書いた特集記事でも書きましたが、ソロ歌手として紅白でドラムを叩いた唯一のケースとなっています。

 「蒼い星くず」も含めた3曲はいずれも紅白初披露、バンドアレンジも実にしっくり来るステージで古さを全く感じさせない内容でした。若手ミュージシャンとの共演は還暦を超えて現在でも数多く、PUNPEEがリミックスした「お嫁においで」はYouTubeで900万近く再生されています。

第50回(1999年)「君といつまでも」

作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作
前歌手:ゴダイゴ、Every Little Thing
後歌手:藤あや子、前川 清

曲紹介:中村勘九郎(白組司会)

 世紀の節目・50回記念・往年の紅白出場歌手という括りでこの年も紅白復帰。歴代の司会経験者が5人歌手として出場した回で、その括りでトークする場面も設けられています。

 歌唱前にトークあり、1つ年上の北島三郎が若大将にエールを贈ります。双方ともこの時点で40年近い歌手生活になっていますが、レコードデビューは若大将の方が1年早いです。「いやぁー、このステージで2000年が迎えられるなんてのは最高に幸せなことですよ」と、加山さんらしい節回しで話しています。

 「たとえ夕陽が色褪せても、この曲は色褪せません」という曲紹介。曲名テロップでは、左から右に動くヨットのアニメーションが加わります。特別な演出効果は全く無く夕陽をイメージした照明が目立つ程度ですが、それが歌の魅力を直に伝えています。ただ一つ惜しかったのは歌詞の間違いで、1番ラストの”ふたりの心は”を”あしたも素晴らしい”と歌ってしまいます。このままだと延々ループする形になり、当時生で見ていた自分にも緊張が走りましたが、当然すぐ気づいて”心はいつまでも”と慌てて軌道修正。何千回もステージで歌っていると思われる楽曲ですが、それでもこうやって歌詞を間違えてしまうのが紅白歌合戦の怖さです。

 とは言え”幸せだなぁ”で始まるセリフでもしっかり笑顔。内心はともかく、ステージで動揺している様子は全く無く堂々としたものです。歌い終わった後も、観客やカメラにはずっと笑顔を見せていました。

第51回(2000年)「海 その愛」

作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作
前歌手:吉 幾三、香西かおり
後歌手:(全員合唱)、(ニュース)、浜崎あゆみ

曲紹介:和泉元彌(白組司会)

 狂言師の和泉元彌が白組司会を担当した第51回。このステージを前に、番組で共演している雅楽師・東儀秀樹と歌舞伎・市川染五郎(現・松本幸四郎)が応援で登場。元彌さんによると大親友みたいですが、紹介された2人は「そうだっけ?」と否定しています。染五郎さんはウケ狙いのコメントもいくつかしていますが、会場は言った直後に思わず首を傾げるほど静かな様子でした。なお曲紹介は特にゲストを活用することも無く、元彌さんが普通に担当しています。

 13年前と同様ピアノ演奏から始まるアレンジですが、最初の音程を外したのも当時と同様でした。素晴らしいステージではありますが、ドライアイス演出や途中からマイクを持って歌い出す構成は13年前とほぼ同じ。やや焼き直し感のある内容です。前年ほど極端ではないですが、歌詞も2回目サビの”母よ”を”海よ”と間違えて歌っています。

 使用できるマイクの本数が増えて、ピアノとは別のマイクを事前に用意している部分が当時と最も異なる部分でしょうか。もちろん、歌い終わってからの大きな拍手は過去2回歌った時と同様でした。

第52回(2001年)「旅人よ」

作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作
前歌手:布施 明、小柳ゆき
後歌手:(ニュース)、ゴスペラーズ、浜崎あゆみ
曲紹介:阿部 渉
(白組司会)

 「おかげさまで今年は僕は還暦を過ぎて4年が経ちました。でもいまだかつて一度も夢と希望を捨てたことはありません。全国の皆さん、一緒に何があっても頑張りましょう!心を込めて感謝の気持ちいっぱいで歌わせて頂きます」。この年は各歌手が歌う前に視聴者へメッセージを残す演出ですが、確かに若大将は平成を超えて令和を超えた現在も新しいことに興味を示す若々しさに満ち溢れています。

 22年ぶりに紅白で歌唱する「旅人よ」、前回も白組歌手がギターで参加するステージでしたが今回は更にメンバーが増えています。2~3人が1組になって6チームでコーラス、その中からさらに1人ずつギター演奏も担当しています。

 参加メンバーは舞台下手側から山川豊&鳥羽一郎郷ひろみ&国分太一&五木ひろし山口達也&吉幾三&長瀬智也細川たかし&森進一&城島茂松岡昌宏&堀内孝雄&谷村新司前川清&山本譲二&さだまさし。ギターはそれぞれ鳥羽さん、五木さん、長瀬さん、城島さん、谷村さん、さださんが担当。さださんは結果3回若大将のステージに演奏で参加する形になっています。吉さんの所にあるスタンドにマイクがはまらなかったのでしょうか、ここだけ山口さんがハンドマイクを手にしてコーラス。そのため若大将が歌っているにも関わらず2人の笑い声がマイクに入ってしまっています。

 後ろではこういったハプニングもあった様子ですが、この年は歌詞を間違えるシーンも無し。2コーラス、往年の名曲をじっくり堪能できるステージでした。

第61回(2010年)「若大将50年!スペシャルメドレー」

歌唱曲1:「夜空の星」(作詞:岩谷時子 作曲:弾 厚作)
歌唱曲2:「座・ロンリーハーツ親父バンド」(作詞:さだまさし 作曲:弾 厚作)

前歌手:五木ひろし、(企画ステージ)、和田アキ子
後歌手:福山雅治、小林幸子
曲紹介:嵐(白組司会)

 芸能生活50周年記念のステージは、自身が初めて作曲した「夜空の星」と一番新しい曲「座・ロンリーハーツ親父バンド」のメドレーになりました。ギター演奏はありませんがこの年も白組歌手有志がコーラスで参加。ただ過去3回登場したさだまさしが不出場だったのは惜しい所です。詳しくは既に本編レビューで書いているので、そちらを参照してください。

 ワイルドワンズのメンバーがバンド演奏で参加、振り返ると出場歌手以外の専属バンドをバックに歌うのは紅白ではこの時が唯一でした。またバックには若き日の加山さんの写真が大きく綺麗なビジョンに表示、セットに時代の進化を感じさせるステージでもありました。

 

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