紅白歌合戦・中山美穂の軌跡

 紅白歌合戦の歌手特集は各年代から出来る限りバランス良く取り上げるようにしていますが、あらためて振り返ると1990年代前半が他と比べてやや少ないかもしれません。というわけで今回はこの年代メインの出場歌手の1組、中山美穂について書くことにします。

 1985年「C」でデビュー、当初から紅白出場に値するヒットを記録していましたが、増え続ける一方の人気歌手の数に対してアイドルの枠は狭め。紅白初出場はシングルでオリコン週間1位獲得が連続するようになった1988年、以降1994年まで7年連続出場という形になっています。

 歌手よりも女優としてのデビューの方が早く、紅白出場中も多くの人気ドラマに主演。同時に自ら歌う主題歌も多くヒットさせていました。今回は小泉今日子の記事に準拠する形でデータから紹介、その後に各ステージ他の出演シーンやエピソードを記す形とします。

中山美穂の紅白データ~7回分のまとめ

出場回
年齢
歌唱曲作詞者
作曲者
発売日曲順主なデータ主な受賞他の発売曲
第39回
(1988年)
18歳
Witches康 珍化
CINDY
1988/11/14トップバッター1988年オリコン年間98位、翌年同36位・FNS歌謡祭グランプリ・You’re My Only Shinin’ Star
・人魚姫 mermaid
第40回
(1989年)
19歳
Virgin Eyes吉元由美
杏里
1989/7/12紅組後半3番手/20組中1989年オリコン年間32位・ROSÉCOLOR
第41回
(1990年)
20歳
愛してるっていわない!安藤芳彦
羽場仁志
1990/10/22紅組前半2番手/9組中1990年オリコン年間69位、翌年同85位・Midnight Taxi
・セミスウィートの魔法
・女神たちの冒険
第42回
(1991年)
21歳
Rosa一咲
井上ヨシマサ
1991/7/16紅組前半3番手/10組中1991年オリコン年間41位・これからのI Love You
・遠い街のどこかで…
第43回
(1992年)
22歳
世界中の誰よりきっと上杉 昇、中山美穂
織田哲郎
1992/10/28紅組後半トップバッター1992年オリコン年間37位、1993年同10位・日本レコード協会プラチナディスク・Mellow
第44回
(1993年)
23歳
幸せになるために岩里祐穂、中山美穂
日向敏文
1993/4/21紅組前半6番手/18組中1993年オリコン年間69位・あなたになら…
第45回
(1994年)
24歳
ただ泣きたくなるの国分友里恵、中山美穂
岩本正樹
1994/2/9紅組前半8番手/10組中1994年オリコン年間17位・Sea Paradise -OLの反乱-

第39回(1988年)「Witches」

ステージ

作詞:康 珍化 作曲:CINDY
前歌手:(トップバッター)
後歌手:光GENJI、松田聖子

曲紹介:和田アキ子(紅組司会)

 前年の時点で初出場でもおかしくないヒットを記録していますが、この年は「You’re My Only Shinin’ Star」「人魚姫 mermaid」「Witches」がいずれもオリコン週間1位を記録。同じくらいヒットしていた南野陽子や浅香唯もいる中、工藤静香とともにめでたく初出場を果たします。

「紅組のトップバッターは、今年歌にドラマに大活躍しましたミポリンです!初出場・中山美穂さん、「Witches」!」

 アッコさんの曲紹介、バックで流れる曲は「ツイてるねノッてるね」サビのギターソロ。第33回・第34回の紅組トリで同じような事例はありますが(都はるみ「北の宿から」インスト→「涙の連絡船」、水前寺清子「いっぽんどっこの唄」インスト→「あさくさ物語」)、初出場トップバッターではこれまた後にも先にも全く事例のないレアケースとなっています。「Witches」が短いイントロですぐ歌に入る構成なので、曲紹介を入れるため急遽加わったものと推測できますが、本人やファンにとっては非常に嬉しい演出だったのではないかと感じます。

 もっともこの年は自粛モードもあって、極めてシンプル。1980年代紅組トップバッターは出場歌手が後ろで一緒に踊るのが恒例ですが、このステージはダンサーもいない1人だけの舞台。別個で搬入するセットも無く、番組全体を通して使用されるセットに照明演出が入るのみで、持ち歌とは裏腹に派手!!!さが全くありません。クールな楽曲なので舞台照明もやや暗めの設定、間奏などでネオンサインのように動くカラフルな光が余計に寂しさを際立たせています。黒で統一した衣装も、4曲メドレーで賑やかに歌う光GENJIと対極をなしていました。

 ただアーティスティックな雰囲気は「人魚姫 mermaid」とともに、1988年の中山美穂の音楽活動を象徴しています。歌謡曲然とした1980年代前半と比べると非常に洗練された音楽で、新時代への幕開けを感じさせるステージでもありました。セットには演奏を担当する三原綱木とニューブリード、東京放送管弦楽団のメンバーが座っていますが、誰ひとり手を動かしていません。生演奏ではなく事前に録音した歌入りテープを使用、これは紅白歌合戦史上初の生演奏を用いないステージとなっています。

その他

 同じ初出場の工藤静香は学年こそ違うものの同い年、前年にドラマで共演して以来当時は大の仲良し。オープニングでは風船を持ちながら、仲良く手を繋いで登場します。

 この年はトップバッターですが、歌う直前に光GENJIと選手宣誓を担当。トップバッターの選手宣誓は、紅白始まって以来であると同時にその後もありません(選手宣誓自体、翌年を最後に撤廃されました)。

 歌唱後は中森明菜小泉今日子の曲紹介や武庫川女子大学の応援ステージ紹介に顔を見せます。いずれも工藤静香と一緒の登場でした。衣装は黒のシンプルな柄、エンディングでは別の衣装に着替えていますが色はこちらも黒で揃えています。

第40回(1989年)「Virgin Eyes」

ステージ

作詞:吉元由美 作曲:杏里
前歌手:工藤静香、男闘呼組
後歌手:光GENJI、Wink
曲紹介:杏里、三田佳子(紅組司会)

 作曲した杏里は1983年の「Cat’s Eye」以来、6年ぶりに歌手として紅白出場。ミポリンについて「とてもキュートな、すごく歌のお上手な…歌のお上手なっておかしいですけども、すごくこう才能のあるね、方じゃないかなと思いました」と話します。確かに現在に至るまで歌唱力が高いとはあまり言われていない彼女ですが、変に訂正したおかげで余計におかしなコメントになってしまいました。おそらくかなり緊張していたのでしょう、曲紹介も「それでは「Virgin Eyes」を…き…聴いてください」という具合で全くうまいこといきません。

 ステージには回転式ドアみたいな物が準備されています。和田アキ子が横で見守る中、アシスタント2人の協力でマジック演出といったところですが、最初に誰もいないことを示すために扉を開けた際、壁になっているはずのドアが一瞬開いて本人の姿が見えてしまってます。それを目撃したアッコさんは思わず横を見て苦笑い、客席にもはっきり見えたようで笑い声まで起きます。一応アッコさんも含めた3人で扉を1回転、そこから本人が登場して歌唱スタート。当然ながら会場の拍手はまばらでした。

 歌い始めると同時に黒い緞帳が開き、明るく照らされたセットをバックに歌います。この年はドレスと髪飾りに金色を使用。ベースになる色は黒ですが、前年と比べて少し派手になっています。本人が主演した映画『どっちにするの。』主題歌としてヒットしましたが、確かにそこそこの歌唱力は必要とする楽曲です。このステージでも、サビの高音にやや苦労している様子でした。

 曲紹介、マジック失敗とグダグダなオープニングでしたが、テロップも作詞した吉元由美が吉由美と誤表記されています。これだけ曲の入りが様々な観点からうまくいかないステージも、紅白歌合戦史上滅多にありません(特に紅白でのマジック失敗はその後ほぼ見られなくなりました)。

その他

 第1部・第2部に分かれた2部制となる紅白ですが、この年に限っては第1部=昭和の紅白、第2部=平成の紅白という形ではっきりとジャンル分けされています。そのため第2部はあくまでこれまで通りの紅白という位置づけで、審査員紹介や選手宣誓などといった恒例行事も第2部最初にそのまま設けられています。入場行進はなく壇上に全歌手揃う形で総合司会の松平定知アナが歌手紹介、「超アイドル・中山美穂さん!」という内容でした。

 この年に出場した女性アイドルは工藤静香Wink荻野目洋子と彼女。沢田研二がエネルギッシュなステージを見せた後(レビュー)、5人揃って「えいえいおー、えいえいおー」とかわいく応援…といった所ですが、よく見るとミポリンは司会の三田佳子の後ろの立ち位置を活かして?全く参加していない様子。先述した映画の他に月9ドラマ『君の瞳に恋してる!』主演でも大ヒットした彼女にとって、こんなベタな台本には絶対参加しないという意志を少しばかり感じさせる場面でした。

第41回(1990年)「愛してるっていわない!」

ステージ

作詞:安藤芳彦 作曲:羽場仁志
前歌手:Dreams Come True、光GENJI
後歌手:吉田栄作、工藤静香
曲紹介:伍代夏子、三田佳子(紅組司会)、加藤登紀子
踊り:D.O.S.ダンサーズ

 前のステージで歌う光GENJIへの声援が鳴り止まない中、三田佳子加藤登紀子伍代夏子を迎えてトーク。白組のテーマが「心」なら紅組は「優しさ」でしょうかとお登紀さんが話した後、全く話の流れと関係なく伍代さんが曲紹介を担当。「今年も歌にドラマに大活躍でした。中山美穂さんで「愛してるっていわない!」」。結果的に紅組司会の三田さんは、2年連続でミポリンの曲紹介を他の歌手に任せる形になっています。なお伍代さんはこの年「忍ぶ雨」で初出場でした。

 舞踏会をイメージしたようなステージ演出で、美男美女のダンサーが多く登場しています。8組ほどのカップルがペアになって、曲に合わせて華麗に踊っていました。

 この回はギター・キーボードといったサポートメンバーもステージに登場しています。ただ舞台を広く使う関係で、配置はよくあるステージ後ろではなく下手側前方。キーボードは客席に背中を向けて斜め方向に弾くという、紅白歌合戦どころか歌番組全体を通しても珍しいアングルとなっています。

 2コーラスにサビの繰り返しも豊富で、構成的な充実度は非常に高い内容です。演奏時間も2分半超え、近年の紅白前半で見られるような不必要なカットもありません。ただ英語と日本語が繰り返されるラストの歌詞テロップは、実際の歌よりも早く変わって全くついていけない状況でした。事前に曲を聴いていなかったのでしょうか…。

 楽曲は本人が主演したドラマ『すてきな片想い』主題歌でした。トレンディドラマ最盛期の当時、彼女はその中でも代表的な存在です。同じくドラマで人気を博した吉田栄作とは2年連続の対決、ついでに直前に歌ったDream Come True「笑顔の行方」もミポリン主演のドラマ『卒業』主題歌でした。

その他

 紅組白組特に順番関係なく入り乱れた状態で入場するオープニング。ミポリンは工藤静香と一緒に、吉幾三と手を繋ぎながら登場します。その横にいるのは植木等、大先輩から少し声をかけられた様子も映っています。

 歌い終わった後、栗田貫一がモノマネで応援する場面に登場。小林幸子坂本冬美にこれから歌う瀬川瑛子のモノマネを指導しますが、「美穂さんはいいの、かわいいからやらなくて」というお得な役回りでした。平成以降のアイドルはジャニーズ・坂道系ともに芸人みたいなパフォーマンスにも積極的なので、こういう扱いは非常に見ていて懐かしいものを感じます。

第42回(1991年)「Rosa」

ステージ

作詞:一咲 作曲:井上ヨシマサ
前歌手:工藤静香、吉田栄作
後歌手:スモーキー・マウンテン、森口博子
曲紹介:浅野ゆう子(紅組司会)
踊り・ローラーブレード:ジェフリー・アムスデン&PDCチーム

 この時期は自身主演のドラマ『逢いたい時にあなたはいない…』主題歌「遠い街のどこかで…」がロングセラー中でしたが、クリスマスを題材にしている関係もあって紅白での歌唱曲は「Rosa」になりました。作詞の一咲は当時使用していた本人のペンネーム、作曲の井上ヨシマサは2000年代後半以降AKB48の楽曲を多く手掛けます。なお当時この2人は交際中、それを認める記者会見もありました。

 地球儀をテーマにしたセットは左右2箇所に階段が設けられていますが、紅組側・画面から見て左側の階段を降りて登場。アップテンポな曲なのでダンサー演出ありですが、途中なぜかローラースケートをテーマにした振付も入ります。ダンサーを従えているのがイケメン外国人の男性という構図で、何度かペアになって踊る場面も用意されています。

 黄色い上着にやや直径の広い黒いスカートを着て歌いますが、間奏で肩や脚を出したセクシーな衣装に早替え。アウトロでは見事なダンスも披露、非常にアーティスティックで見応えのあるステージでした。3分を超えるパフォーマンスも、近年の紅白前半ではあまり見られない贅沢さです。惜しかった場面が一つあるとすれば、一箇所歌詞を間違えた事くらいでしょうか。

その他

 前半ラスト、紅白始まって以来初の全員合唱「SMILE AGAIN」に参加。1番Bメロ後半を、工藤静香西田ひかると一緒に歌うパートが用意されています。自身のステージとは真逆の、スカートの直径が大きいピンクのドレスが鮮やかです。

 後半では珍しく?コミカルな台本のやり取りに参加。白組の人数が多いという話題に、「わたし数えてきました。紅組の人数が32人で、白組の人数が72人」と紅組司会・浅野ゆう子に報告します。なおやり取りのオチは、平均年齢は紅組の勝ちという森口博子の報告でした。

第43回(1992年)「世界中の誰よりきっと」

ステージ

作詞:上杉 昇、中山美穂 作曲:織田哲郎
前歌手:(全員合唱)、(ニュース)、少年隊
後歌手:嘉門達夫、藤あや子
曲紹介:石田ひかり(紅組司会)、西田ひかる、工藤静香、荻野目洋子
演奏:WANDS

 「ドラマでも大人気でした(西田)」「彼女が書いた詞も素敵です(工藤)」「そしてなんと、あのWANDSも応援に駆けつけてくれました(荻野目)」「世界中の誰よりきっと、中山美穂さんです(石田)」と4人揃って曲紹介。水玉模様の帽子が印象的な、ややボーイッシュな格好で歌います。荻野目さんの曲紹介にある通り、WANDSのメンバーが演奏も担当。ただ一緒に歌う上杉さんはアップショット全く無し、あくまでミポリン中心のカメラワークです。イントロ短めで曲名テロップは画面右下、そのため通常冒頭に入ることの多い歌手名テロップは間奏で入る形になりました。1コーラス半でサビ後半ラスト繰り返しですが、またまた最後に歌詞テロップが表示されないミスが発生しています。

 この時期の客席審査はうちわで紅か白かを判別する方法ですが、これが演出にも活用されています。客席全員石田さんの顔が描かれた紅のうちわを挙げてもらう演出ですが、やはりところどころ白を挙げている方もいらっしゃる様子でした。

 自身が主演したドラマ『誰かが彼女を愛してる』主題歌はロングセラーを記録、自身最高のCDシングル売上を記録します。デュエット相手となったWANDSも年が明けた辺りから「もっと強く抱きしめたなら」が大ヒット、さらに「時の扉」「愛を語るより口づけをかわそう」などで1993年ビーイング全盛期をZARDとともに牽引する形になります。ただこの年中盤辺りから事務所全体がテレビに出ない戦略を取ったため、その年の紅白はビーイングに関して言えばTUBEを出すのがやっとという状況。ヒットチャートと比べると、J-POPの人選に若干苦労する形になっています。

その他

 何年かに1回は必ずあるアニメコーナーですが、初めて大々的に企画として作られたのはこの年でした。ミポリンは西田ひかる森高千里と一緒に、「キャンディ・キャンディ」を歌っています。

第44回(1993年)「幸せになるために」

ステージ

作詞:岩里祐穂、中山美穂 作曲:日向敏文
前歌手:森口博子、細川たかし
後歌手:少年隊、研ナオコ
曲紹介:石田ひかり(紅組司会)
アコーディオン:小林靖宏

 特別審査員を務めたJリーグチェアマン・川淵三郎のトークから、「今日会場にお越しの皆さんや、テレビをご覧の皆さんにはどんな幸せがあったでしょうか。それでは中山美穂さんの歌をお聴きください」と繋ぐ曲紹介。連続テレビ小説『ええにょぼ』主題歌でしたが、これにまつわる話題は一切ありませんでした。歴代朝ドラ主題歌で、作品が全く紅白で紹介されないケースはこれが唯一です。

 肩を出したやや薄い生地のピンクドレス、髪を束ねずナチュラル気味に仕上げたヘアスタイルが印象的です。アコースティックな楽曲を1コーラス半、他の紅白ステージどころかシングル曲単位で考えても異質な内容でした。この時期になるともうアイドルと呼ばれる機会は少なくなり、女優のイメージがしっかり定着。一つひとつの言葉を丁寧に歌う姿がただただ美しいステージです。

 ギター・ベース・パーカッションに、アコーディオンの演奏がサポートに加わっています。アコーディオンの小林靖宏はメジャーデビューアルバムが前年にレコード大賞特別賞を受賞、当時は新進気鋭の存在でした。2年後に名義をcobaに統一、以降は世界的ミュージシャンとしてさらに活躍。紅白にも第50回の「だんご3兄弟」に、アコーディオン奏者として再登場します。

その他

 GAOの曲紹介に森高千里伍代夏子と一緒に登場。来年は戌年ということで、ヨークシャテリアを抱えるシーンがとてもかわいらしいです。なお曲紹介のオチは、小林幸子がGAOの飼い犬を抱えて「ガオー」と鳴く内容でした。

 全員合唱「山に抱かれて」にも参加、西田ひかる谷村新司と1番Bメロを担当します。なお初出場の時に親友同士だった工藤静香は紅白連続出場期間も重なっていますが、この頃辺りから一緒に映る場面はほぼ見られなくなりました。ネットでは色々な憶測もあるようですが、実際の所はよく分かりません。

第45回(1994年)「ただ泣きたくなるの」

ステージ

作詞:国分友里恵、中山美穂 作曲:岩本正樹
前歌手:田川寿美、香田 晋
後歌手:藤井フミヤ、Dreams Come True
曲紹介:上沼恵美子(紅組司会)、由紀さおり、小林幸子

 教授スタイルの帽子にメガネ、妙にアカデミックな格好をしている美女評論家2名(由紀さおり小林幸子)が歌前に登場します。

上沼「由紀先生、現在の美女の条件といいますと?」
由紀「そうでございますやはり目立たず喋らず出しゃばらず、言いたいことの半分も言えないまあこれが美女のー条件とでも申しましょうか」幸子「そうでございますー」
上沼「小林先生は?」
幸子「あたくしでございますか?何と言いましても、やはりあの衣装が、地味ーーなことが美女でございます。そうですよね由紀のお姉さん」由紀「地味だわ、ほんとに地味よ今日」
上沼「どうもありがとうございました」由紀「いいえ」
上沼「さあお二人には楽屋で、頭を冷やして頂きましょう」由紀「ズルッ。(小声で)そういうことだったの」
上沼「正真正銘の美女の登場でございますよ。中山美穂さん」

 トリオ漫才スタイルの見事な掛け合いで、会場のウケも大変上々でした。内容もしっかり本人のキャラクターと繋がっていて、イントロが始まると同時に会場から大きな拍手も起こります。なお言うまでもなく、幸子さんは歩ける範囲でとても派手な衣装でした。

 楽曲はこちらも本人主演のドラマ『もしも願いが叶うなら』主題歌。紅白で過去に歌った2曲はフジテレビでしたが、こちらはTBSでの放送です。浜田雅功とのコミカルな掛け合いが非常に面白く、個人的にも非常に好きなドラマでした。そういう意味でも、曲紹介の内容は作品とよく合っているかもしれません。

 前年同様のバラードですが、髪はしっかりセットされていて小さい帽子がアクセントになっています。サビの音程がかなり高く、本来ならば裏声の技術も要するほど難度の高い曲ですが、このステージでは音程のズレや声のかすれも全く無しで正確に歌っています。つまりはまあ、そういうことです。ただミリオンセラーを記録するほどの大ヒット曲なので、ラインナップとしてはやはり外せないというのも間違いない所でした。

その他

 篠原涼子がこの年「恋しさとせつなさと心強さと」で初出場を果たしますが、上沼さんと一緒に曲紹介を担当したのは松田聖子とミポリンです。初出場の時は「胸がドキドキ(聖子)」「目がクラクラ(ミポリン)」「膝がガクガク(聖子)」、三拍子揃ったコメントです。その流れで「恋しさと(聖子)」「せつなさと(ミポリン)」「心強さと(上沼)」と曲紹介する展開でした。

おわりに

 自身が主演するドラマで主題歌を担当したのは、1995年・1996年も同様です。「HERO」「未来へのプレゼント」も十分紅白出場に値するヒットを記録していましたが、パフォーマンスの影響もしくはその曲ほど高い売上でなかったことが原因でしょうか連続出場は7回でストップしました。1997年以降はヒット戦線から外れて1999年を最後にCDリリースはストップ、以降は女優業に専念します。2002年に結婚後フランスに移住して一時離れますが、離婚後に本格復帰。女優業だけでなく、2015年には久々に『FNS歌謡祭』に出演。2019年にはアルバム『Neuf Neuf』リリースもありました。コンサートは1999年以降ないようですが、デビュー40周年の2025年辺りにもしかしたらあるのかもしれません。

 1990年代前半は1970年代・1980年代や2000年代以降と比べて歌以外の出番が少なく、そのため他の歌手と比べるとステージ以外ではあまり目立っていません。全員集合や欽どこといった歌手がゲスト出演してコントに参加する番組も、この時期は少なくなっていました。紅白歌合戦の出場期は主演メインの女優活動もあったので、そのイメージが強い分スタッフも多少考えたものと思われます。それでも「キャンディ・キャンディ」を一緒に歌う場面や曲紹介に参加する場面など、決して多くないもののしっかりと存在しています。

 歌の方は7回とも曲紹介含めてインパクト強く、またスタッフ含めて思いのほかハプニングが多いです。案外シンプルに歌い切った初出場の時が、スタッフとしては一番理想通りにうまくいったステージなのかもしれません。

 

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