紅白歌合戦・ゴスペラーズの軌跡

 今回は2001年~2006年まで、6年連続出場したゴスペラーズの紅白史です。

 ボーカルグループの出場は第9回(1958年)のダーク・ダックスに始まり、1960年代までは毎年見ることが出来ましたが、第23回(1972年)以降はほとんど見られなくなりました。歌謡曲中心からJ-POP中心のヒットシーンに代わる中で、ゴスペラーズは早稲田大学のアカペラサークルから1994年にメジャーデビュー。1990年代後半の時点で『ニュースステーション』のOPテーマや『笑っていいとも!』のレギュラーコーナーで知名度は高まっていましたが、2001年に「永遠に」「ひとり」が大ヒット。第39回(1988年)のタイム・ファイブ以来、ボーカルグループでは13年ぶりとなる紅白歌合戦初出場となりました。

 今回も冒頭でまとめの表を作った後に、ステージその他の出演シーンを書いていきます。

ゴスペラーズの紅白データ~6回分のまとめ

出場回
年齢
歌唱曲作詞者
作曲者
発売日曲順主なデータ他の発売曲
第52回
(2001年)
27~30歳
ひとり村上てつや
村上てつや
2001/3/7後半トップバッター2001年オリコン年間21位・東京スヰート
・約束の季節
・誓い
第53回
(2002年)
28~31歳
星屑の街北山陽一、安岡 優
北山陽一、安岡 優
2002/11/13白組後半3番手/14組中2003年オリコン年間54位・Get me on
・エスコート
第54回
(2003年)
29~32歳
新大阪村上てつや
村上てつや。妹尾 武
2003/10/22白組後半8番手/14組中2003年オリコン年間192位・Right on, Babe
第55回
(2004年)
30~33歳
ミモザ安岡 優
黒沢 薫、佐々木真理
2004/10/27白組後半5番手/15組中2004年オリコン年間115位・街角 -on the corner-
第56回
(2005年)
31~34歳
ひとり村上てつや
村上てつや
(2回目)白組前半7番手/15組中・Mellow
第57回
(2006年)
32~35歳
ふるさと高野辰之
岡野貞一
(文部省唱歌)白組前半トリ前・一筋の軌跡
・Platinum Kiss
・陽のあたる坂道

第52回(2001年)「ひとり」

ステージ

作詞・作曲:村上てつや
前歌手:小柳ゆき、加山雄三、(ニュース)
後歌手:浜崎あゆみ、Gackt

曲紹介:無し

 第2部(後半戦)開始、21時半に映ったのは司会者ではなく2階席から映るステージの遠景。会場暗転&静寂、客席には全員にペンライトが配られています。ステージの後ろも満天の星空、ライトが当てられるのは舞台の中心部のみ。そこから、村上てつやのソロと4人のアカペラでステージが始まります。画面は右上に番組テロップ、その後に曲名テロップがアニメーション入りで表示されます。

 村上さんを中心に、立ち位置は左から酒井さん、黒沢さん、安岡さん、北山さんという立ち位置。ただならぬ緊張感で始まったステージですが、2番が僅かにカットされた以外ほぼフルコーラスで見事に歌い切っています。

 「「ハーモニーの美しさを日本中の人たちに伝えたい」、そんな想いを胸に熱唱してくれた、ゴスペラーズの皆さんでした!」曲紹介は演奏前やイントロではなく、ステージ終了後に白組司会・阿部渉アナが行うという形になっています。

 この前置きなしでいきなりステージから始まるという演出は、2部制に分かれた平成の紅白歌合戦史上初めての試みでした。番組終了後の評判も上々で、第54回(2003年)の森山直太朗、第55回(2004年)の平原綾香でも同様の手法を取っています。また比較的アップテンポの曲調が多い後半の入りも、2000年代に限ってはバラードが選曲される機会が増えました。

 ただこの演出のため会場は放送再開直前に閉め切るようで、トイレ休憩で外に出た観客が戻れないケースも多発したらしいです。それもあってしょうか、第59回のPerfume辺りからはこれまでのようなケースに戻ります。また全員合唱や朝ドラのスピンオフで後半スタートという形も増えました。

その他

 グループの特性上、白組歌手のバックコーラスを務める機会は非常に多いです。初出場のこの年は郷ひろみ「この世界のどこかに」でコーラスを担当。メンバーの安岡さんが作詞、黒沢さんが作曲という縁のある楽曲です。

 MCの面白さにも定評があるゴスペラーズですが、美川憲一の曲紹介では加藤茶西城秀樹と一緒に登場。特別喋るシーンはありませんが、カトちゃんの「ヘックション!」でヒデキさんとともに見事なズッコケを見せています。なお衣装は歌う前の前半と郷さんのステージは黒色、自身のステージと後半~エンディングは白色でした。

第53回(2002年)「星屑の街」

ステージ

作詞・作曲:北山陽一、安岡 優
前歌手:ポルノグラフィティ、浜崎あゆみ
後歌手:夏川りみ、アルフレッド・カセーロ&THE BOOM
曲紹介:阿部 渉(白組司会)、小澤征悦(白組応援サポーター)、香取慎吾

 当時英語にハマっていたらしいSMAPの香取さんが、メンバーをそれぞれ英語で表現。「コミカル(中居)」「ワイルド(木村)」「クール(稲垣)」「ファニー(草彅)」「とにかく色々(香取)」「チームワーク(SMAP)」と紹介した後に、「チームワークの良さではこちらの5人も負けてはいません!」と繋がります。「応援してくださった皆さんに感謝の気持を込めて歌いたいというゴスペラーズ、アカペラの真髄をお聴き頂きましょう、「星屑の街」」

 前年の「ひとり」同様アカペラですが、立ち位置は画面左側から村上・安岡・黒沢・酒井・北山で少し異なります。フォーメーションもM型から、黒沢さんを頂点・奥に置く△型です。また「ひとり」はほぼ村上さんメインボーカルですが、このステージは村上→北山→酒井→黒沢→安岡とソロパートが続く構成となっています。北山さんは基本ベース担当ですが、ここでは高音も響かせています。黒沢さんは”遥か”を”かなり”と間違える部分あり、明らかに言葉が出た瞬間に気づいた様子が声と表情から読み取れます。

 ソロパート以外はずっとハーモニー担当、マイクを持たない手でリズムを取っています。そもそも全て音程通りに表現するのが非常に難しい曲ですが、耳に手を置いて互いの音を確認する場面もいくつか見受けられました。ダーク・ダックスデューク・エイセスの時は4人で固定マイク1本を使用する時代、もちろん21世紀になるとメンバー全員それぞれハンドマイクを使用することが当たり前になっていますが、ハーモニーの音合わせについては案外道具が発達していない昔の方が楽だったのかもしれません。

その他

 この年は紅白Ring Showというコーナーがありました。曲調を変えた「静かな湖畔」の輪唱に挑戦してもらうという企画で、マイクスタンドが6本用意されています。6組の歌手がそれぞれワルツ・ラップ・演歌バージョンの輪唱を披露してもらうわけですが、5人はワルツバージョンの4番手として参加しています。オペラ歌手の鈴木慶江がトップなので細川たかしが裏声で歌う中、1本のマイクで見事なハーモニーで難なく歌っていました。なお裏声を使ったことのない6番手の草彅剛がこのパートのオチになっています。

第54回(2003年)「新大阪」

ステージ

作詞・作曲:村上てつや
前歌手:藤あや子、(ショーコーナー)、中島美嘉
後歌手:坂本冬美、細川たかし
曲紹介:阿部 渉(白組司会)、ストレッチマン&まいどん

 当時教育テレビ(現・Eテレ)で人気を博していたストレッチマンと、マスコットキャラクターのまいどんが曲紹介に登場。放送が始まってから約3時間のタイミング、「やあみんなー!長時間じっとしていると体がガッチガチに固まっていないかな~?そんな時にはそう、ストレッチだ~!」というわけで、会場全員でストレッチをしてもらいます。両手バンザイ、片方の手で片方の手首をつかまえてゆっくり横に引っ張って、途中でストップさせて1~5まで数えるという運動を全員でしてもらいます。客席は概ね協力的でしたが、ゲスト審査員は星野監督を筆頭にちゃんとやってない人も何人か見受けられました。「ストレッチパワーがここに、溜まってきただろー!」「たまってきたよね~」

 10年に1回くらいのペースで入る紅白歌合戦の体操演出ですが、この年ゴスペラーズはストレッチマンの番組にゲスト出演していたようです。というわけで「さあメンバー全員が大ファンというストレッチマンの応援を受けまして、ゴスペラーズの皆さんが美しいハーモニーを響かせます。「新大阪」」と曲紹介、そのままステージに移ります。体の向きが村上さんではなく客席になっている部分が一番の違いでしょうか。ステージは星空ではなく、ドーナツ状のセットの中心から光が指す演出になっています。

 「新大阪」というタイトルですが、内容は新幹線のホームで繰り広げられる恋愛物語です。大阪のご当地ソングでよく見られる、コテコテの関西弁は一切存在しません。むしろJR東海のCM辺りの方がしっくり来る内容です(実際のタイアップはマルイのCMでした)。言うまでもなく、MVは新幹線の新大阪駅が舞台になっています。

 村上さんの熱唱も素晴らしいですが、ハーモニーでホームの音を表現している構成が何より凄いです。コーラスでこういった音を表現するのはデューク・エイセスの得意分野という印象ですが、オリジナルのJ-POPでこれをやっているのは他にないと思います。「ひとり」や「星屑の街」ほどの大ヒットではありませんが、個人的には「街角 -on the corner-」とともにゴスペラーズでトップクラスの完成度を誇る楽曲だと思っています。

 ステージはベースの北山さんが少し音に苦労していた様子で、後半は客席ではなく村上さんの方を向いて歌うシーンもありました。それだけアカペラで歌うのは難しいということです。なお紅白歌合戦史上、3年連続フルでアカペラのステージを披露したのはゴスペラーズ以外に存在しません。そもそものサンプルが少ないと言われたらそれまでですが、そうそう実現できる記録でないことはあらためて強調したいです。

その他

 民謡歌手の伊藤多喜雄がこの年「TAKIOのソーラン節」で14年ぶり紅白復帰を果たしますが、応援する白組歌手のうちの1組として出演。手拍子だけで済ませる歌手もいた中、彼らとw-inds.は登場時から南中ソーランの踊りも一緒に披露するノリの良さを見せていました。

第55回(2004年)「ミモザ」

ステージ

作詞:安岡 優 作曲:黒沢 薫、佐々木真理
前歌手:Gackt、浜崎あゆみ
後歌手:藤あや子長山洋子
曲紹介:阿部 渉(白組司会)、前川 清

 前半ラストに前川清「そして、神戸」のステージにコーラスで参加したゴスペラーズ。そのお返し?といった形で曲紹介に登場。「いやいやこれからね、僕が加わってね名前をねロクスペラーズに変えましょう。」横にいる白組司会の阿部アナは当然ながらスルー、そのまま台本通り進行して「ミモザ」と2人声を合わせるという内容でした。なお冒頭阿部アナの紹介は「音楽に情熱を燃やす五人の侍、ゴスペラーズの登場です」、この年発売のベストアルバム『G10』にも収録された「侍ゴスペラーズ」を意識したような内容となっています。

 4回目の出場にして、初めてアカペラと違う音楽が流れるステージとなっています。左から村上・安岡・黒沢・北山・酒井と並ぶM型の立ち位置、紅白では初めて黒沢さんがメインボーカルを務める形となっています。結果的にアカペラ率が高くなった紅白のステージですが、本来のシングル曲は演奏入りの方が多くなっています。

 Cメロ入りの1コーラス半、代表曲をじっくり聴かせるステージです。宮殿のようなセットがバック、全体的には非常にノーマルな内容です。黒沢さんのソロショットはやはり多め、ラストサビは引きの映像とメンバーのアップを混ぜ合わせるカメラワークでした。黒沢さんが歌い終わると同時に、村上さんが「どうもありがとうございました!」と挨拶します。酒井さんが手を振り、5人揃って挨拶した所で次の進行に移ります。

その他

 オープニングは全歌手が紅組白組アナウンサーによって紹介されます。「ゴスペラーズ、nobodyknows+、そしてEXILEの皆さん!」と大人数グループがまとめてラストに紹介されるような形でした。

 前述した通り、前半白組ラストの前川清「そして、神戸」にコーラスとして参加。美しいハーモニーを披露しています。この時が4回紅白で歌われたうちの3回目ですが、発表時同様にコーラスの演出が入るのは初めてでした(内山田洋とクール・ファイブ時代は意外にも紅白で歌唱無し)。

 あとは松平健「マツケンサンバII」にも白組有志(ほぼ全員ではありましたが)の一員として一緒に参加。途中4分割になる画面の右下は村上さんのワンショットでした。元々用意されていた白い法被だけでなく、曲に合わせて?明るい青のスーツに着替えています。

第56回(2005年)「ひとり」

ステージ

作詞・作曲:村上てつや
前歌手:氣志團、BoA
後歌手:長山洋子、森山直太朗

曲紹介:山本耕史(司会)、安田大サーカス

 『エンタの神様』の影響で若手芸人の応援出演が多いこの年の紅白、ここでは歌唱前に安田大サーカスがショートコントを披露。HIROが頭で鏡餅を表現した後に、団長が白組勝利と書かれた褌ネクタイ姿でおめでたい裸の応援。「何とも言えない応援」「こちらのチームワークは凄いです」と曲紹介。

 この年は全国ツアー後ソロワーク中心でグループとしての新譜はシングル・アルバムともに無し。そのため初出場の代表曲「ひとり」を再度歌う形となりました。スキウタというアンケートが広く取り行われましたが、600曲あるリストの中で白組59位という結果となっています。

 この年は村上さんがセンターではなく、画面左端で歌唱する立ち位置になっていました。M型だった立ち位置も、横一列のフォーメーションになっています。また2番がまるまるカットになっています。村上さんの喉の調子は4年前と比べると良くないようで、高音がやや掠れ気味です。それでも他のミュージシャンが表現できない楽曲であることは間違いなく、歌い終わってすぐ客席から大きな拍手が起こりました。

その他

 後半『昭和・平成ALWAYS』のコーナーでは、布施明と一緒に「上を向いて歩こう」を歌唱します。前年の全員合唱にも参加しているので、紅白では2年連続「上を向いて歩こう」を歌う形になりました。ハーモニーの他、安岡さんにはソロパートも与えられています。

 なおこの年も「世界に一つだけの花」の全員合唱が後半オープニングに組まれていますが、ゴスペラーズの5人はこちらにもしっかり参加していました。

 この年は白組優勝でしたが、機械の調子の悪さ・段取りの悪さで結果発表のくだりは非常にバタバタしました。白組優勝が決まった瞬間に後ろからのカメラワークが入りますが、ガッツポーズをする黒沢さんがワンショットで抜かれています。

第57回(2006年)「ふるさと」

ステージ

作詞:高野辰之 作曲:岡野貞一
前歌手:前川 清、BONNIE PINK
後歌手:石川さゆり、森 進一

曲紹介:中居正広(白組司会)
ピアノ演奏:島 健

 ゲスト審査員を務めたバレリーナ・吉田都が登場。海外生活が長かったということで、それに因んだトークを繰り広げます。それも含めて、曲紹介では海外に住む日本人を強く意識したような内容でした。

 前年と違ってこの年は新曲がしっかり発売されています。CDセールスは確かに高くありませんでしたが、それでもこの選曲は正直驚きました。紅白歌合戦では由紀さおり・安田祥子が第46回・第50回で歌って以来7年ぶり3回目。ボニージャックスならば何も珍しくないですが、ゴスペラーズがテレビで童謡を歌う姿は当時全く見られなかった光景ではないかと思います。

 アカペラではなく島健のピアノ演奏がバック、ただそれ以外の音は無く非常にシンプルな編曲です。照明も夕焼けをイメージしたオレンジを使用。立ち位置は画面左から村上・酒井・黒沢・安岡・北山、フォーメーションは横一列です。あとは村上さんのサングラスのレンズが、他の年と比べて明らかに小さい物になっています。

 構成は3コーラス、まず1番は5人全員のハーモニーで聴かせます。2番は前半が村上さんソロになりました。3番は全員合唱に戻って前半アカペラ、ラストのフレーズは間奏を作る2回繰り返しで2回目の音程を下げる形になっています。しみじみと聴かせるステージで、観客席からの拍手も大きめでした。

 なおゴスペラーズは現在まで童謡・抒情歌をテーマにしたアルバムの発表はありません。ただ「ふるさと」は2011年、加藤登紀子のアルバム『命結-ぬちゆい』でコラボレーション参加が確認できています。

その他

 鳥羽一郎「兄弟船」のステージで大漁旗応援を担当します。ボーカルグループとしては無駄遣い感が半端ない使い方ですが、そもそもこのステージは曲紹介からして非常にカオスな内容でした(こちらで書いてます)。あとは『みんなのうた』の企画ステージにも、特に担当曲はなかったですがラストで全員集合する「WAになっておどろう」に紛れる形で参加しています。

おわりに

 ゴスペラーズは現在も5人で活動中、2020年にはTHE FIRST TAKEの「ひとり」も話題になりました。新譜もコンスタントに発売されています。出来ればYouTubeで昔の曲のMVもフルでアップしてくれると嬉しいのですが…。もちろんSpotifyやApple Musicをはじめとするサブスク配信は既に解禁となっています。

 J-POP系のアーティストは紅白歌合戦だと、自分のステージとオープニングとエンディング以外参加しない人も結構多いですが、彼らは積極的に参加していました。コンサート中心に現在も高い人気を保っているのは、その親しみやすいキャラクターが大きな要因ではないかと思います。2000年代前半はハモネプリーグなどアカペラがブームになりましたが、白組では第53回のRAG FAIR以降しばらくボーカルグループが見られない形になっています(紅組はLittle Glee Monsterが登場しましたが)。そろそろこういった形態のグループから久々に大ヒット、紅白出場があってもいいとは思いますが、どうでしょうか…。

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