紅白歌合戦・辞退の歴史・その4~J-POP躍進編

1990年代後半

トーク番組の増加

 1995年にフジテレビで放送開始した『HEY! HEY! HEY!』はMCとのトークに重きを置いた番組でした。同様に1996年では、TBSで『うたばん』も放送開始になります。

 この頃辺りから、楽曲の支持以上にアーティストのキャラクターが重要視されるようになります。そのため1曲ヒットしただけでセールス急降下、という例は格段に減りました。以下1990年~1999年における、オリコン年間シングルランキング20位以内に入ったアーティストの紅白出演表です。ヒットによる出演の可否だけを見せる意図のため、アーティスト名・曲名は省略しています。◯は紅白でその曲を歌唱、□は曲違いであるものの出場、×は不出場を指しています。

シングル
順位
90919293949596979899
1××××
2××××××
3×××××
4×××××××
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6×××××××××
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9××××
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17×××××××
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19××××××
20×××××××

 ざっと見渡しだけでも、1990年代前半と後半でヒットアーティストの紅白に出場する確率は大きく異なることが分かると思います。また□の多さを見ても、1990年前半は複数曲大ヒットしたアーティストが紅白に出場することは稀でしたが、1990年代後半は全く珍しく無くなるのがよく分かります。TRF安室奈美恵GLAYL’Arc~en~Cielなどは、まさに年に何曲もビッグヒットを残しながら紅白に出場するアーティストでした。

 1990年代後半にブレイクしたバンド系、小室哲哉プロデュース勢はヒット期に多く音楽番組に出演、その延長線上で紅白歌合戦にも出場する形になりました。反面、音楽番組の出演がゼロでなくとも紅白に出場しなかった勢力も存在します。

小林武史プロデュース陣は軒並み不出場

 Mr.ChildrenサザンオールスターズMY LITTLE LOVERYEN TOWN BAND…。どこまでオファーがあったかは分かりませんが、小林武史プロデュースのアーティストは軒並み紅白不出演でした。この時期に辞退を続けたミスチルは第59回・第71回に出場していますが、本当にその2回だけで落ち着いています。21世紀以降もレミオロメンはヒットが落ち着いた第60回(2009年)でようやく初出場、back numberは現在に至るまで出場がありません。唯一縁があったのは一青窈くらいですが、彼女も紅白歌唱曲について言うと全て武部聡志プロデュース作品です。

 松任谷由実CHAGE & ASKAなど、1980年代からの活動組は相変わらず辞退が続きます。B’zZARD大黒摩季などのビーイング系も同様でした。この時期ブレイクしたアーティストだと、スピッツも”興味がない”という名目で現在まで不出場が続いています。変わった所では、1996年のPUFFYは先にTVKの裏番組出演を受諾した為に辞退するもののメンバーの怪我で結局どちらも出られずというケースもありました。

1970年代辞退組が少しずつ…

 一方この時期になると、特にフォーク系で1970年代に出場しなかった歌手が紅白出場を受諾するケースが多くなります。近年は1990年代に活躍したアーティストの初出場・復帰が増えていますが、この流れが発生し始めたのも1990年代以降のことです。

アーティスト初出場備考
谷村新司第38回(1987年)アリス含めて17年連続・通算19回出場
堀内孝雄第39回(1988年)アリス含めて19年連続出場・通算20回出場
アリス第51回(2000年)通算3回出場
南こうせつ第43回(1992年)かぐや姫含めて通算6回出場
かぐや姫第50回(1999年)
河島英五第42回(1991年)2001年逝去時に第52回で追悼が組まれる
イルカ第43回(1992年)
小椋 佳第45回(1994年)前年第44回で全員合唱曲提供&ゲスト出演
吉田拓郎第45回(1994年)豪華ミュージシャンの生演奏

2000年代前半

女性ソロアーティストが次々ブレイクするも…

 2000年は女性ソロアーティストが次々ブレイクした年でした。こちらもランキングから検証しますが、実を言うとヒット当時は辞退だらけです。

アーティストオリコン年間ランキング最高位紅白出場
宇多田ヒカル1999年アルバム1位第67回(2016年)でようやく初出場
アメリカから中継出演・出場は1回のみ
倉木麻衣2000年アルバム1位第54回(2003年)で初出場
3年連続出場するも、当時はほとんど歌番組出演無し
浜崎あゆみ2000年アルバム2位第50回(1999年)から15年連続出場
ブレイク時から歌番組出演多数
椎名林檎2000年アルバム3位第62回(2011年)で初出場
歌番組出演は散発程度、紅白出場は東京事変含めて9回
MISIA2000年アルバム4位第63回(2012年)で初出場(特別出演
2000年代まで歌番組出演は基本無し
鈴木あみ2000年アルバム9位第50回(1999年)から2年連続出場
ブレイク時から歌番組出演多数
aiko2000年アルバム10位第51回(2000年)で初出場
歌番組出演は多め、紅白出場は現在まで14回
小柳ゆき2000年アルバム12位第51回(2000年)から3年連続出場
ブレイク時から歌番組出演多数
鬼束ちひろ2001年アルバム16位現在まで紅白出場は無し
歌番組出演は有り
矢井田瞳2001年アルバム33位現在まで紅白出場は無し
歌番組出演は有り
Cocco2001年アルバム45位現在まで紅白出場は無し
歌番組出演は散発程度

 こちらもテレビ出演の積極性がほぼ出場可否を決める形でしたが、ヒットして10年以上経ってから紅白出場に至った例もあります。特に椎名林檎MISIAは近年の紅白で欠かせない重要な存在になっていますが、上記のフォーク辞退組・再結成組などと比べても現役感が強い点に大きな違いがあります。

中島みゆきの初出場

 そして第53回(2002年)、中島みゆきによる黒部ダムからの中継出演です。

 前年にも当時引退状態だった森昌子の復帰が話題になりましたが、「地上の星」がロングセラー中・長年辞退を続けていた中島さんの出演は極めて大きな反響を呼びました。

 「地上の星」は年始のオリコン週間CDシングルランキングで1位を獲得、これ以前の紅白歌合戦には無かった経済効果が生まれます。この年を境に、紅白を辞退し続けたアーティストが出場に至るケースが少しずつ増加します。また第53回で12年ぶりに中継出演が解禁、これも大物アーティスト出演に際して追い風になりました。2007年からは1アーティストをクローズアップする『SONGS』が放送開始、これをきっかけに紅白出場となるケースも続出します。

 第60回(2009年)は矢沢永吉出演が大きな話題になりました。これも第53回以降の道のりがあってこそだったのではないかと思います。

アーティスト出場回紅白出場
中島みゆき第53回(2002年)「地上の星」を黒部ダムから生中継
生放送での歌唱は当時24年ぶり
倉木麻衣第54回(2003年)「Stay by my side」を京都・東寺から生中継
生放送での歌唱は当時初めて
ゆず第54回(2003年)横浜・松坂屋前から生中継
生放送での歌唱は当時ほとんど無し
長渕 剛第54回(2003年)NHKホールで「しあわせになろうよ」を歌唱
13年ぶりの出場、その間もヒット曲は多数
山崎まさよし第56回(2005年)「One more time, One more chance」を横浜・桜木町から生中継
出場打診は以前からあったとのこと
松任谷由実第56回(2005年)「Smile again」を中国・上海から生中継
当日はFriends Of Love The Earthとしてゲスト歌手も存在
Def Tech第56回(2005年)大ヒットした『Def Tech』から「My Way」を披露
テレビ歌番組出演はこの時が初
渡辺美里第56回(2005年)アンケートで上位に入った「My Revolution」を披露
19年前のヒット曲、当時は出場辞退
今井美樹第57回(2006年)1996年のヒット曲「PRIDE」を披露
夫の布袋寅泰もギター演奏で出演
德永英明第57回(2006年)1990年のヒット曲「壊れかけのRadio」を披露
『VOCALIST』シリーズのヒットでその後10年連続出場
槇原敬之第58回(2007年)この年ヒットした「GREEN DAYS」を披露
第42回の「どんなときも。」以降は辞退が続いた
Mr.Children第59回(2008年)この年の五輪中継テーマ曲「GIFT」を披露
ブレイクした1994年以降はほぼ毎年辞退
福山雅治第60回(2009年)「はつ恋」を長崎・グラバー園から生中継
16年ぶりの紅白復帰
第60回(2009年)ジャニーズでは光GENJI以来21年ぶりにメドレーで4曲披露
デビューから10年間は事務所枠のため辞退を余儀無くされた
矢沢永吉第60回(2009年)サプライズ出演
1990年代は毎年のように辞退が報じられていた

そして現在…

 ここ数年は新たな辞退の傾向が発生しそうな兆しが見えます。

 次回に続きます。このシリーズは次回が最終回となる予定です。

コメント

  1. いつも楽しく拝見しております。紅白はやはり、年末のお楽しみ番組って感じで、色んな趣向の方々が出た方が飽きずに観れると思います。出ない人は無理には出演しなくてもいいんじゃないでしょうかね。そろそろ岩崎宏美さんの復帰(トリ前に)や、柏木由紀さんにソロで『桜の木になろう』なんか歌ってもらいたいなと、ちょっと思っています。

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