第22回(1971年)NHK紅白歌合戦~その0~

 放送100周年を迎える2025年、その中で紅白歌合戦はその3/4にあたる75回の歴史を刻んできました。ラジオからテレビ、さらに映像も年々進化していますが、前半50年については全ての番組が現存しているわけではありません。

 現存している古い映像はここ最近4Kリマスターを施して、総合BSを問わず放送しています。その一環で昨年12月に放送されたのが1971年・第22回NHK紅白歌合戦。この回までは放送局側で保存されておらず、もっぱら当時の司会担当・宮田輝アナの奥さまが寄贈した録画VTRを公式映像として使用している状況です。むろんこの当時は家庭用VHSなど存在せず、非常に高価な録画機器を複数台使って記録していたとのこと。一般家庭で録画していた視聴者は、ほぼいなかったのではと思われます。

 したがってカラー放送が始まっていた1960年代はまるまる白黒のみ(第16回のみ一部カラーで残存)、第21回・1970年は一部のパフォーマンスが白黒でさえも現存していないと言われています。この第22回は全国にあるNHK公式ライブラリーで前半後半は視聴可能ですが、中盤は映像の乱れが激しく見られない状況とされてきました。そのため1990年代にBSで毎年放送された昭和の紅白歌合戦リストには入っておらず、この機会にようやく53年の時を経て全編再放送となりました。

 さて以前第14回第25回について書いた時は、本編レビューとともに出場歌手発表を想定した記事も執筆しました。この第22回についても、同様に書いていくこととします。フォーマットは第75回のものを流用します。表記はあいうえお順ではなく、出場歌手(回数/初出場回/デビュー年/年齢)・初出場順です。なおこの回は本番直前で出演者変更もありましたが、記事はあくまで出場歌手発表時点の情報を当時の書籍・資料をもとに再現したものとします。

紅組出場歌手

連続・復帰出場

美空ひばり(15年連続16回目/第5回/1949/34)
 前回紅組司会・大トリ兼任で見事優勝に導きました。今回も司会…とはさすがにいかなかったようですが、早くもNHK側で今年もトリで歌って頂くという発表。ここ最近ベテランの落選・辞退が多い紅白ですが、まだまだこの人の存在は欠かせません。

雪村いづみ(6年ぶり9回目/第5回/1953/34)
 ここ最近はアメリカで年を越す生活になっていましたが、世界歌謡祭グランプリという実績をひっさげて6年ぶりの復帰。

島倉千代子(15年連続15回目/第8回/1955/33)
 15年連続出場、先輩のひばり嬢と並ぶ記録は今回も継続。

朝丘雪路(5年ぶり10回目/第8回/1955/36)
 ここ最近は歌手よりタレント・女優としての活躍が目立ちますが、「雨がやんだら」の大ヒットで見事5年ぶりの復帰。連続出場時とは異なる、コメディエンヌ的な役割も果たすことになるでしょうか。

ザ・ピーナッツ(13年連続13回目/第10回/1959/30)
 デビュー年以来ずっと連続出場を続けて13回。今年も聴かせてくれそうです。

弘田三枝子(3年連続8回目/第13回/1961/24)
 「人形の家」以降は高い歌唱力で聴かせる歌謡曲のヒットが続いています。

伊東ゆかり(9年連続9回目/第14回/1958/24)
 スパーク3人娘もヒットが出なくなりつつありますが、現在「誰も知らない」が久々ヒットの兆しを見せています。佐川満男との結婚も大きなニュースでしたが、残念ながらこちらは夫婦共演といかずの模様。

岸 洋子(2年ぶり7回目/第15回/1962/36)
 前回は病気のため出場できずでしたが、紅白でやはり「希望」を歌わないわけにはいきません。活動再開につき、紅白も無事2年ぶりの復帰となりました。

水前寺清子(7年連続7回目/第16回/1963/26)
 3年ぶり2回目の紅組司会は、宮田輝アナの指名があったとか。もうすっかり歌以外でも欠かせない紅組のエンターテイナーと化しています。

都はるみ(7年連続7回目/第16回/1964/23)
 もうすっかり女性演歌の第一人者として欠かせない存在、堂々の7年連続出場。

青江三奈(4年連続5回目/第17回/1966/26)
 「池袋の夜」「国際線待合室」と大ヒットしていた昨年までと比べるとセールスは落ちましたが、人気はもちろん高いままで当然の連続出場。

佐良直美(5年連続5回目/第18回/1967/26)
 チータ同様デビュー以来オールラウンドで活躍、ややもすると歌以上に目立っている状況になりつつあります。

ピンキーとキラーズ(4年連続4回目/第19回/1968/20~33)
 「恋の季節」のようなメガヒットはもう望めない印象もありますが、紅白はデビュー以来4年連続の出場。

いしだあゆみ(3年連続3回目/第20回/1964/23)
 「砂漠のような東京で」が大ヒット、堂々の3年連続出場。

由紀さおり(3年連続3回目/第20回/1965/23)
 「夜明けのスキャット」「手紙」ほどのヒットではありませんが、高い人気と歌唱力で3年連続出場。

和田アキ子(2年連続2回目/第21回/1968/21)
 2年連続ヒットを残して紅白も連続出場。

ちあきなおみ(2年連続2回目/第21回/1969/24)
 こちらも大ヒットではないものの出す曲全て堅調なセールスを残し、2年連続出場。

藤 圭子(2年連続2回目/第21回/1969/20)
 さすがに前年ほどの大ブームで無いとしても、ヒットは今年も続いています。前川清との結婚も大きな話題、今回の紅白は歌手として史上初の夫婦共演実現も注目されます。

トワ・エ・モワ(2年連続2回目/第21回/1969/21, 23)
 翌年開催の札幌オリンピックテーマソング「虹と雪のバラード」は、NHKが全力を挙げてプロモーションしています。

 

初出場

真帆志ぶき(初出場/第22回/1952/38)
 1952年の初舞台以来長年観客を魅了し続けた宝塚歌劇団の大スター。雪組男役トップを卒業した今年は星組のショーにも特別出演、7月には帝国劇場で開催された舞台『ひばりのすべて』出演もありました。NHKでは『歌のグランドステージ』レギュラー出演、その流れで紅組司会という噂もありましたが、最終的には歌手としての出場に落ち着いたとのことです。

加藤登紀子(初出場/第22回/1966/28)
 1966年デビュー、「赤い風船」「ひとり寝の子守唄」などのヒットもありましたが、紅白出場はこの1年にわたる「知床旅情」の大ヒットでようやくという形となりました。

渚ゆう子(初出場/第22回/1967/26)
 ハワイアン歌手から1970年、ザ・ベンチャーズ提供の「京都の恋」で大ブレイク。ただ前回はなぜか出場叶わず、「京都慕情」「さいはて慕情」を引き続きヒットさせた今年ようやく出場実現となりました。

本田路津子(初出場/第22回/1970/22)
 カレッジ・フォークの第一人者として初出場。ヒット規模の割に、という印象もありますが今回森山良子が出産のため不出場。ここの埋め合わせという意味もあるのかもしれません。

小柳ルミ子(初出場/第22回/1971/19)
 「わたしの城下町」がディスカバー・ジャパンの流れに乗って空前の大ヒット、デビュー1年目ながら見事紅白初出場の切符を掴みました。なお前回連続テレビ小説『虹』からの応援で出演しているので、紅白自体は2年連続となっています。

南 沙織(初出場/第22回/1971/17)
 こちらもデビュー曲「17才」が大ヒットして堂々の紅白初出場。来年5月に沖縄の日本返還が決定していますが、その沖縄から初の紅白出場歌手となります。

 

白組出場歌手

連続・復帰出場

フランク永井(15年連続15回目/第8回/1955/39)
 15回目の出場、白組では2年前を最後に不出場の春日八郎に並ぶ最多記録となっています。

三波春夫(14年連続14回目/第9回/1957/48)
 今年も紅白歌合戦最年長、国民的歌手として場を締めます。

ダーク・ダックス(14年連続14回目/第9回/1956/38~41)
 グループ最長記録を更新する14年連続、今年もハーモニーで聴かせます。今年は「花のメルヘン」が話題になりました。

水原 弘(5年連続8回目/第10回/1959/36)
 奇跡のカムバックから5年、もうすっかり再びの常連となっています。

アイ・ジョージ(12年連続12回目/第11回/1960/38)
 高い歌唱力とオールジャンルを歌える対応力で、12年連続出場となっています。

橋 幸夫(12年連続12回目/第11回/1960/28)
 前回結婚祝いで突然歌うことになった「いつでも夢を」は大変鮮烈でしたが、今回はどうなるでしょうか。

村田英雄(11年連続11回目/第12回/1958/42)
 堂々の11年連続出場。ベテランの味で聴かせます。

坂本 九(11年連続11回目/第12回/1958/30)
 こちらも11年連続出場。さすがに以前ほどのヒットではありませんが、高いタレント性はまだまだ健在。

デューク・エイセス(14年連続14回目/第13回/1960/32~37)
 『にほんのうた』は昨年で完結、あらためて日本全国を網羅するコーラスグループになりました。

北島三郎(9年連続9回目/第14回/1962/32)
 男性演歌の旗手として、今年も9年連続出場。

舟木一夫(9年連続9回目/第14回/1964/27)
 青春歌謡・時代物から文学路線まで幅広く。もう9年連続の出場になっています。今年は大河ドラマ出演もありました。

西郷輝彦(8年連続8回目/第14回/1964/24)
 「真夏のあらし」以降歌のジャンルがロック路線に変わりました。今年も迫力のステージを見せてくれそうです。

菅原洋一(5年連続5回目/第18回/1958/38)
 歌唱力といえばこの人、今回も安定の連続出場。

布施 明(5年連続5回目/第18回/1963/24)
 前回の「愛は不死鳥」は大変センセーショナルなステージでした。今回もそうなるでしょうか。

鶴岡雅義と東京ロマンチカ(4年連続4回目/第19回/1969/21~38)
 4年連続の出場、コンスタントにヒットを残しています。

美川憲一(4年連続4回目/第19回/1965/25)
 前回歌った「みれん町」に続き、今年も「おんなの朝」が大ヒット。歌詞が少々過激な気もしますが…。

千 昌夫(4年連続4回目/第19回/1965/24)
 年々セールスは落ち着いている印象ですが、なんとか4年連続の出場。

森 進一(4年連続4回目/第19回/1966/24)
 2年連続白組トリ、今年も「望郷」「おふくろさん」が大ヒット。3年連続トリの可能性も高そうです。

内山田洋とクール・ファイブ(3年連続3回目/第20回/1969/23~35)
 ここ2年と比べればセールスは高くないですが今年も大人気、前川さんは藤圭子との夫婦共演も期待されます。注目度はむしろ過去2年以上でしょうか。

にしきのあきら(2年連続2回目/第21回/1970/21)
 「空に太陽がある限り」は前回歌った「もう恋なのか」以上の大ヒット。新人賞などで多く共演した野村真樹とは対照的な結果となりました。

ヒデとロザンナ(2年連続2回目/第21回/1970/21, 29)
 トワ・エ・モワと同様、デュエットで2年連続出場。今年も堅調にヒットを残しています。

 

初出場

堺 正章(初出場/第22回/1965/25)
 1960年代後半にザ・スパイダースのボーカルとして人気を博しましたが、当時のGS長髪禁止令などもあって紅白には一度も出られず。ただ俳優・タレントとしての活躍だけでなく今年はソロデビューシングル「さらば恋人」も大ヒット。ようやくの紅白初出場となりました。

五木ひろし(初出場/第22回/1965/23)
 数多くの芸名で活動してきましたが、五木ひろしの名前でデビューした「よこはま・たそがれ」が今年大ヒットを記録。念願の紅白初出場です。

尾崎紀世彦(初出場/第22回/1967/28)
 こちらもソロデビューは1970年ですが、1960年代はハワイアンやコーラスグループで経験を積んできました。「また逢う日まで」がコマーシャルソングに起用されて大ヒット、一気に紅白初出場を掴みました。

はしだのりひことクライマックス(初出場/第22回/1971/??~26)
 はしだのりひことシューベルツで1969年に「風」がヒット、第20回初出場でも不思議ではありませんでしたが、結果的には「花嫁」が大ヒットした今年クライマックスで初出場となりました。はしださん主体とは言えメインボーカルは藤澤エミ、女性ボーカルで白組から出場というのは史上初。数年前までは全く考えられなかったことになっています。

不出場歌手

主な不出場(紅組)

森山加代子
 前回「白い蝶のサンバ」でカムバックを果たしましたが、その後のヒットが続かず残念ながら落選。

西田佐知子
 俳優の関口宏と結婚、それに伴う芸能活動縮小で紅白出場も10年連続でストップ。

黛ジュン
 レコードセールス低下に伴い連続出場は4年でストップ。レーベル移籍もマイナスになった可能性があります。

小川知子
 レコードセールス低下に伴い連続出場は3年でストップ。

奥村チヨ
 レコードセールス低下に伴い連続出場は3年でストップ。黛ジュン・小川知子と共に呼称された東芝3人娘はまさかの同年同時落選となってしまいました。奥村さんは他の2名と比べるとセールス低下は顕著ではなく、渚ゆう子の件と合わせて考えても東芝に割かれる枠がいささか少ないような印象もあります。

森山良子
 先述した通り、出産に伴い今回は早くから不出場が決まっています。

辺見マリ
 1月発売の「めまい」はヒットしましたが、それ以降のシングルは全く振るわず。2年連続出場はなりませんでした。

日吉ミミ
 前回は代役としての初出場でしたが、今年のセールスはそれも上回らずあっさり落選。

江利チエミ
 前回復帰からの辞退、今回は久々にひばり・いづみとの勢揃いが期待されましたが残念ながら辞退したとのことです。

欧陽菲菲
 デビュー曲「雨の御堂筋」が大ヒット中ですが、ヒットする時期が少し遅かったでしょうか紅白には間に合わず。ベンチャーズ提供・東芝レコード所属という点では前回の渚ゆう子と同様です。

平山三紀
 「真夏の出来事」が大ヒットしましたが、惜しくも出場には届かず。

天地真理
 10月のデビュー曲「水色の恋」が現在話題、既にお茶の間では人気者になっていますが、紅白出場は早くても翌年以降になりそうです。

 

主な不出場(白組)

佐川満男
 伊東ゆかりとの共演も期待できましたが、そもそも前年の時点でセールスは低下しています。残念ながら納得の落選でしょう。

フォーリーブス
 若い女性からの人気は高いですが、意外にレコードセールスが高くなく残念ながら2年連続出場ならず。

野村真樹
 「一度だけなら」の後が全く続かず、昨年新人賞を争ったにしきのあきらとは全く対照的な結果に。

鶴田浩二
 「傷だらけの人生」は1971年を代表するヒット曲になりましたが、残念ながら選ばれず。ヤクザ映画のイメージが強くNHKでも未歌唱でドラマ出演実績さえも無く、これは会見でもはっきりと言及されておりました。

小林 旭
 こちらも「ついて来るかい」が久々に大ヒットしましたが、紅白には選ばれず。紅組を陣取る美空ひばりは前妻、そういった配慮もやはりあったのでしょうか。

ヘドバとダビデ
 「ナオミの夢」が大ヒット、イスラエルから初の紅白出場もあるかと思われましたが、さすがに男女デュエットの初出場さえまだ1年前。ヒデとロザンナも既に存在、さすがにまだ時代が追いついてないという判断もあったでしょうか。

湯原昌幸
 「雨のバラード」が大ヒットしていますが、ヒットし始めたのは9月に入ってから。時期がもう少し早ければ紅白出場もあったのではないかと思われます。

あおい輝彦
 ドラマ主題歌「二人の世界」が大ヒットしましたが、鶴田浩二や小林旭も出ない中で彼が選ばれるとすれば色々とやりにくい面もあるでしょうか。

仲 雅美
 こちらも出演していたドラマから「ポーリュシカ・ポーレ」の大ヒット。俳優のヒットが多い今年ですが、そこからの選出は軒並み無しということのようです。

森田健作
 「さらば涙と言おう」は主題歌になったドラマともども話題になりましたが、こちらも同様に選ばれず。

井上順之
 「昨日・今日・明日」「お世話になりました」で堺正章と同時初出場も期待されましたが、残念ながら惜しくも届かず。

講評

 紅組は前回の反省もあるでしょうか、ややベテラン優遇の傾向が見られる選出でした。雪村いづみ真帆志ぶきなどが名を連ねる中で、割を食ったのが東芝3人娘に代表される中堅どころ。とは言え若手の選出も多く、小柳ルミ子南沙織はデビュー1年目で初出場という快挙。この2人は今後、新しい時代を象徴する存在になりそうな予感もします。

 白組は再出場無しで入れ替わりも少なめ、常連組は全員連続出場しています。鶴田浩二や小林旭を筆頭とした俳優メインの方は全員却下、強いて言えば堺正章がいる程度。実力本位と言えば聞こえは良いですが、若干新鮮さに欠ける印象もあります。

 したがってヒットという点では紅組の方に分があるというのが第一印象ですが、果たして大晦日の勝敗はどうなるでしょうか。今年も楽しみです。

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