紅白歌合戦・布施明の軌跡~ステージ編(2000~2009)~

第51回(2000年)「シクラメンのかほり」

ステージ

作詞・作曲:小椋 佳
前歌手:美川憲一、松田聖子
後歌手:八代亜紀、前川 清
曲紹介:和泉元彌(白組司会)

 歌唱前、シドニー五輪競泳女子400m個人メドレーで銀メダルを獲得した田島寧子選手が登場。悔しさを隠しきれない競技後のインタビューが非常に話題になりましたが、ここでも司会の和泉元彌に促されて「やっぱ白がいいですぅ~」と言わされます。とは言え本人は翌年に引退後芸能活動をするくらいなので、嫌がるどころかノリノリでした。「またも今年の名ゼリフが生まれました。白がいいのは、やっぱりこの人がいるからです。布施明さん、「シクラメンのかほり」」。10年ぶりの紅白復帰ですが、全くそうとは思えない雑な曲紹介です。

 第26回・第41回はギターを演奏しながらのステージでしたが、この年は黒のタキシードで普通に立って歌っています。冒頭からいきなり大きくリズムをずらしての歌唱、切々と語りかけるようにじっくりと聴かせています。サビも相当歌い方を変えていて、原曲がどうだったのかを一瞬忘れてしまいそうなほどです。

 とは言えステージ、特に歌声は大変素晴らしいものでした。声を張り上げてのロングトーンは布施さんに限らず他でもよく見られますが、やや弱め・音程をキープしたまま最後まで15秒ほど声を出し続けるのは少なくとも紅白でこれ以外に見た記憶がありません。匠の技です。

応援など

 復帰後の布施さんは、もう初出場年で言えば北島三郎加山雄三に次ぐ最古参歌手です。昭和のあいうえお順優先と違ってこの時期はキャリア・人気・実績が立ち位置に繋がるオープニング、布施さんの登場は大トリを務める五木ひろし森進一に挟まれる最前列の目立つ位置です。歌手席は廃止されて久しいですが冒頭からの2組は出場歌手全員が脇で応援する演出、映り込む機会は当時よりはるかに多め。藤井隆の「ナンダカンダ」のサビを振付入りで踊る布施さんが、はっきりと映っています。

 白組歌手は白組のステージのみに出てくるのが昭和の紅白ですが、2000年になるとその区分けも曖昧になります。明治をイメージした小芝居やマジックを演じる場面のステージは紅組・中村美律子「おんなの純情」です。共演者も森進一小林幸子鈴木あみで随分ボーダレスになりました。

 この年は20世紀最後の紅白ということで、やや特別感のあるコーナーも多いです。劇団四季の面々を呼んで『ライオン・キング』の「サークル・オブ・ライフ」を演じる場面がありましたが、コーラスを担当したのは布施さんをはじめとする歌唱力に定評のあるメンバーです。わざわざそれっぽい衣装に着替えて、”ウゴニャンバ…”とひたすら繰り返し歌っていました。

 全員合唱の「上を向いて歩こう」を含めて、前半は4シーンに出番がある忙しさです。マイクスタンドは安室奈美恵との共用でした。後半も日本の祭りをテーマにした応援合戦にエンディングと出番は多め、昭和の頃は後ろにいることが多かった「蛍の光」も前列・薄いピンクのスーツでよく目立っています。

第52回(2001年)「ア・カペラ」

ステージ

作詞:秋元 康 作曲:小池雄治
前歌手:西城秀樹、伍代夏子
後歌手:小柳ゆき、加山雄三
曲紹介:阿部 渉(白組司会)
ヴァイオリン演奏:川井郁子

 21世紀最初の年ですが、その割にベテラン陣が新曲を歌うステージが非常に多い紅白歌合戦でした。布施さんの「ア・カペラ」もオリコン週間100位入りしていない新曲ですが、順当に選ばれています。紅白で布施さんがその年発表の曲を歌うのは21年ぶりです。とは言えステージは、やはり素晴らしいものがありました。

 「1日1日を充実した時間にしたい。そして1曲1曲を一生懸命歌いたい。布施明さん、今夜は川井郁子さんのヴァイオリンとともに、ドラマティックにお届けします。曲は、「ア・カペラ」」。この年は出場歌手全員がメッセージを用意する段取りになっていて、白組司会の阿部アナによって曲紹介と同時に読み上げられています。

 イントロから高級感のある楽曲で、赤いドレスで奏でる川井さんのヴァイオリン演奏は芸術作品を見ているかのような美しさです。若い頃とはまた違う持ち味がよく出た布施さんも、50代ならではの魅力が非常によく出ています。それを最大限に引き出した秋元康の歌詞も素晴らしく、AKB48や坂道グループの作詞者と同一人物には全く思えないプロの仕事ぶりでした(もちろん向こうも向こうで凄い仕事なのですが)。ラストは本当にタイトルと歌詞通り、アカペラの歌唱でグッバイと締める内容。曲の知名度が高くなくとも、これならば多くの人が満足すること間違いないお手本のようなステージでした。

応援など

 昭和50年代の出場時にはたびたび変な振り付けのダンスを踊らされていましたが、この年も山川豊「泣かないで」に変な動きを入れたコーラスで参加しています。「泣かないで」と歌うサビでいちいち右目を指でさす振付ですが、こういうのでもしっかり全力で参加するのが布施さんの良さです。

 この年はザ・ドリフターズが歌手として初出場、曲紹介では細川たかし西城秀樹前川清とともに彼らの持ちギャグを披露。志村けんの「アイーン」をやっています。ドリフも元々は渡辺プロダクションの大先輩ですが、志村さんに関して言うと芸能生活のキャリアは布施さんの方が長いです。そのまま少年少女聖歌隊コーナーにも参加、横にいた前川清の大ボケにコケたりツッコんだりのリアクションを見せていました。

第54回(2003年)「君は薔薇より美しい」

ステージ

作詞:門谷憲二 作曲:ミッキー吉野
前歌手:Gackt、松浦亜弥
後歌手:鳥羽一郎、神野美伽
曲紹介:阿部 渉(白組司会)
踊り:薔薇組ダンサーズ 振付:ラッキィ池田

 前回は吉幾三伍代夏子由紀さおり安田祥子他のベテラン陣大リストラに巻き込まれるような形で不出場でしたが、この年は各4枠も出場歌手数が増えた影響もあって再出場となります。ただ紅組でポップス系のベテランが当時終盤~トリの曲順がメインだった和田アキ子くらいしかいないこともあり、対戦相手はまさかの松浦亜弥でした。向こうは当時17歳・39歳差ではありますが、曲間のやり取りは全く無しで「ね~え?」から続けざまの演奏となります。

 「歌にドラマにそして舞台に、今年も大活躍の布施明さん!「君は薔薇より美しい」!」。非常にシンプルな曲紹介です。ドラマはこの年NHKで放送の『夢みる葡萄~本を読む女~』やフジテレビ『WATER BOYS』に出演、舞台は三谷幸喜演出の『オケピ!』再演がありました。

 金色の衣装を着たあややとキッズダンサー・NHK各キャラクターと入れ替えで登場したのは、布施さんと紳士のような風貌の2名・宇宙をイメージしたような衣装のダンサーです。ダンサーはへそ出しの衣装どころか変にセクシーな振付もあり、まるで武富士のコマーシャルを見ているかのようでした。

 やや長めに設けられた間奏ではそのダンサーが布施さんを誘惑するシーンあり、少し過剰な表情でそれに応えています。2コーラス省略無しの構成はやや速めのリズム、テンション高く歌いやすい構成に仕上げています。「変わった~」に代表される歌声の方はやはり圧巻、音の動きが非常に激しいメロディーと合わせて大迫力。ラストは紳士が衣装を脱いで金色のドレス姿、男装かと思いきや実はそもそもが男性だったというオチでした。

 ステージ終了後、総合司会の武内陶子アナがコメントを求めた審査員はやはり三谷さん。「今お歌いになった布施明さんは三谷さんのミュージカルにも出ていらっしゃいますがここまで紅白いかがですか?」「いや、なんか楽しいねぇ。毎年やってもいいんじゃないですか?」「やってますー」。カメラには三谷さんが口ずさんでいる様子も映っていました。

応援など

 極限まで出場歌手を増やしたため、合間の出演は2年前よりも少なめです。紅白リングショーでは沖縄バージョンの「雪」を輪唱する歌手の1人として参加しますが、全く時間がないので何も触れられずにコーナーごと終了になりました。

第55回(2004年)「MY WAY」

ステージ

作詞:Lucien Marie Antoine Thibaut & Paul Anka
作曲:Claude Francois & Jacques Revaux
日本語詞:中島 潤・片桐和子
前歌手:氣志團、中村美律子
後歌手:島倉千代子、(全員合唱)、前川 清
曲紹介:阿部 渉(白組司会)

 「第55回NHK紅白歌合戦、テーマは「愛・感動・希望の歌を」です。歌の道を歩んで40年、愛を高らかに歌い上げ、いつも私たちに心揺さぶる感動を与え続けてくれた素晴らしいシンガーがいます。布施明さんです。常に前を見つめて生きていこうというメッセージを込めて。「MY WAY」。」

 イントロが始まると同時に、客席から「布施さーん!」コールが起こります。32年前の紅白で歌った時はトリ前とは言えまだ25歳・電飾のバラを施す演出でしたが、この年にはもう57歳になっています。布施さんが紅白で「マイ・ウェイ」を歌った年、海の向こうで「My Way」をヒットさせたフランク・シナトラはちょうど57歳でした。そういう意味では、運命的な部分も感じさせる選曲でもあります。

 歌唱力の布施さんとは昔から言われていますが、20代の頃と比べても歌声の厚味は圧倒的に増しています。また長年愛唱曲としてコンサート・テレビで歌い続けているので、一つ一つの言葉に対しての説得力も段違いです。当時からこれが選曲された時点で最高の内容になることは分かっていましたが、実際に目にするとやはり圧巻も圧巻。そのままエンディングに入り、結果発表から「蛍の光」に至っても全く不思議ではない内容でした。そしてこれが、翌年の大仕事に繋がります。

応援など

 オープニングの衣装は濃赤色、あまり見慣れない色のスーツ姿です。ステージはシャツも含めて黒で統一していますが、その衣装のまま「上を向いて歩こう」全員合唱にも参加しています。

 後半は旗揚げのコーナーに参加。曲に合わせて出場歌手に旗揚げしてもらうという内容ですが、布施さんは歌の方がメインです。「フニクリ・フニクラ」を”赤を上げて、白あげて~~~”と持ち前の歌唱力で大熱唱、高音で伸ばすシーンの後に「頭痛くなっちゃった」と小ボケも入れてます。仕切る立場の和田アキ子北島三郎にまで苦言を呈される散々なコーナーでしたが、その中で自分の仕事を全うしていました。あとはマツケンサンバにも参加しています。

第56回(2005年)「少年よ」

ステージ

作詞:藤林聖子 作曲:佐橋俊彦
前歌手:w-inds.、坂本冬美
後歌手:コブクロ
松浦亜弥&DEF.DIVA&モーニング娘。
曲紹介:山本耕史(白組担当)
殺陣:JAE

 何と言ってもこの年は『仮面ライダー響鬼』への主題歌起用が話題になりました。エイベックス所属でも平成期デビューでもない大ベテランの起用は当時考えられなかったことですが、前年の紅白歌合戦の熱唱を見て主題歌にすることを決めたと言われています。仮面ライダーの登場はそれ以前の紅白でも応援で何度かあり、うっかり曲名として紹介しちゃったシーンも一回だけありましたが、主題歌が出場歌手の歌唱曲として選出されたのはこれが初めてのことでした。

 「続いて白組は、仮面ライダーの登場です。子どもたちにブームを呼んでいる最新作・仮面ライダー響鬼のテーマソング。布施明さんで、「少年よ」」

 坂本冬美と花柳糸之社中が共演した前ステージ、ダンサーが両側で掃ける後ろから布施さんと仮面ライダー響鬼が登場します。ステージは1番が響鬼・威吹鬼・轟鬼によるアクション、2番は怪人との戦いがメイン。布施さんが大熱唱する後ろで、迫力のある動きを見せています。高音だけでなく肺活量も相当に必要で、まさに布施さんだからこそ絵になる楽曲でした。

 高音が続く2番のサビでライダーが舞台袖に掃けますが、直後に劇中で響きを演じた俳優・細川茂樹まで登場。これは事前発表のないサプライズ出演でした。「響鬼、鍛えてます!全国の少年、また一緒に鍛えようぜ!じゃあな!」全国の視聴者にメッセージを送って、布施さんと一緒に舞台袖へ掃けます。布施さんのファンは勿論ですが、それ以上に仮面ライダーを愛する子どもたちや特撮ファンの記憶にいつまでも残るステージになりました。

応援など

 「エロかわいい」が流行語になって大ブレイク、レコード大賞まで受賞した倖田來未がこの年初出場。「エロかっこいい!! 倖田來未 見学ツアー」と書かれた旗を持って、前川清に案内されて堀内孝雄と一緒に登場。サラリーマンのような格好で、双眼鏡を首にぶら下げメガネもかけています。そのまま袖で彼女のステージ観覧、スカートからホットパンツに早替えした場面では3人揃ってナイスリアクションを見せています。

 その後は普通の格好に戻ってショーコーナー『昭和・平成ALWAYS』に出演。ゴスペラーズと一緒に「上を向いて歩こう」を一節披露しています。

第57回(2006年)「イマジン」

ステージ

作詞・作曲:ジョン・レノン 日本語訳:山本安見
前歌手:ORANGE RANGE、夏川りみ
後歌手:森 昌子、前川 清

曲紹介:中居正広(白組司会)
合唱:VOJA、東京女声合唱団、TNC

 夏川りみ「花~すべての人の心に花を~」とともに、この2組のステージは平和をテーマにした演出が施されています。曲紹介も正確には紹介ではなく、中居さんの「イマジン」日本語詞の朗読がメインです。

 第38回の「そして今は」は一部が英語歌唱でしたが、この年の「イマジン」は最初から最後まで英語での歌唱でした。歌詞テロップは英語と同時に、日本語詞もカッコ書きで表記されています。なお紅白で「イマジン」が披露されるのは、第41回(1990年)に女性コーラスグループ・EVEが歌唱して以来16年ぶり2回目です。

 地球を映す衛星映像や発展途上国の子どもたちの映像をバックに、客席ではペンライトを左右に振る演出。1番を暗転状態で歌った後、大人数のコーラスが舞台に入場します。世界各国から集まったと思われる合唱団はおよそ80人、自らの曲を歌う布施さんとはまた違う一面を見ることが出来るステージでした。

応援など

 この年も前年同様堀内孝雄前川清とチームになってショーコーナー。『2006スーパーレビュー』に出演。新語として定着した「ちょい悪オヤジ」風ファッションのモデルとして登場します。赤い薔薇の花束にカジュアルなスーツ姿、ただ他の2人はともかく布施さんは元々がオシャレなのであまりネタとして成立していないような気がします。

第58回(2007年)「君は薔薇より美しい」

ステージ

作詞:門谷憲二 作曲:ミッキー吉野
前歌手:WaT、アンジェラ・アキ
後歌手:香西かおり、前川 清
曲紹介:笑福亭鶴瓶(白組司会)、中居正広(紅組司会)若槻千夏、柳原可奈子
振付:玉野和紀 踊り:伊央里直加、風花 舞、貴城けい、初風 緑、星奈優里、蘭香レア

 若手女性タレントとして当時大活躍の若槻千夏柳原可奈子が応援に登場、会場を盛り上げます。柳原さんはショップ店員のネタを持っていますが若槻さんはお笑いでないのでネタ無し、ただ「綺麗な枠で呼ばれたみたいでなんかすみません」と言った後に「拍手がまばらっていう」と自らツッコミ。そこで会場に拍手をもらうという、なかなかのトークを展開。確かにこれだけのトーク技術があれば、15年経った2022年でもテレビでよく見る存在になるのが分かるというものです。綺麗どころ繋がり?で元タカラジェンヌの方々と共演することを鶴瓶さんが紹介、「どうぞ聴いちゃってくださ~い」とショップ店員口調でステージに振る柳原さんでした。

 タカラジェンヌが紅白歌合戦に登場するステージは過去にも何度かありますが、ステージでの共演となるとやはり少なく第50回(1999年)の西城秀樹以来9年ぶりです。ただ登場した6人はいずれも各組でスターを務めた歴戦の面々、これだけ豪華なメンバーが6人も集まった例は他にありません。第29回(1978年)で書いた通り布施さんと宝塚は浅からぬ縁があり、この年のステージはそれがあって実現した内容ではないかとも思います。

 ピラミッド型の階段の頂上から、布施さんを真ん中にした横一列でステージに降りる登場です。4年前と比べると少しゆったりとしたリズムで、その分ゴージャスさをより強調したような演奏になっています。これも宝塚メインの演出を意識していたでしょうか…。前年までと比べても多くのステージが押し詰まった編成の都合で、2コーラスではなく1コーラス半だったのは惜しい所ですが、懐メロのみには留まらない魅力は十二分に伝わる内容でした。歌唱力は相変わらず抜群、マイクの距離やロングトーンの長さも60歳にして更に進化したように見えます。

応援など

 この年は白組司会・笑福亭鶴瓶の語りが曲間のメインになっているため、出場歌手の登場シーンは他の年と比べても格段に少ないです。唯一目立ったのは出場歌手全員参加の北島三郎「帰ろかな」のステージくらいで、鮮やかな赤いジャケットがよく似合っていました。

第59回(2008年)「君は薔薇より美しい」

ステージ

作詞:門谷憲二 作曲:ミッキー吉野
前歌手:(オープニング)、浜崎あゆみ
後歌手:GIRL NEXT DOOR、美川憲一

曲紹介:中居正広(白組司会)、 仲間由紀恵(紅組司会)
振付:康本雅子 踊り:ジョーとサブリナ

 前回の宝塚歌劇団OGとの共演は大変好評、さらにこのタイミングで歌唱力があらためてクローズアップされたこともあったでしょうか、予想外な2年連続同曲歌唱となりました。「君は薔薇より美しい」は2010年代以降星野源がニセ明としてたびたび歌うスタンダードナンバーになり、今となってはレコ大受賞の「シクラメンのかほり」を上回る知名度と言って良いかもしれません。Spotifyでも、再生回数は「シクラメンのかほり」の2.5倍くらいの数字で他を圧倒しています。トップバッターの出演は「甘い十字架」を歌った第24回以来、実に35年ぶりのことでした。

 中居正広と歌前トークもあり、「今度勝利したら4年目ですから。4年連続を目指して、みんなで頑張ろうということで」と話しています。舞台袖には他の歌手も大勢集まっていて、賑やかです。「大人の魅力全開、It’s Show time。名曲「君は薔薇より美しい」布施明さんです!」、小気味良い曲紹介に、布施さんも早々に「アォ!」の叫びで応えます。当時は白組最強時代、第56回~第61回まで実に6年連続勝利を飾る結果となりました。

 ステージ後ろのLEDビジョンも大型化、白い薔薇の花々が大きく映し出されています。布施さんの脇で踊る6人の紳士、後ろでは青いドレス姿も淑女たちも大勢登場してステージを盛り立てます。間奏では6組が男女ペアになってダンスを披露、その後ろで白鳥の湖をイメージしたような女性ダンサーが20人ほど踊っています。演奏はジャズテイストやや強め、特にピアノの音がこれまでよりやや目立つアレンジでした。

 この年も布施さんの歌声は絶好調、ラストのロングトーンは12秒にわたる長さです。次の曲紹介で登場する初出場のPerfumeのメンバーによる「すごーい!」の声が、思わず手持ちのマイクに入ってしまうほどでした。

応援など

 脇で白組歌手が集まる演出は2組目まで続きますが、歌い終わった布施さんも律儀に参加しています。美川憲一の応援に登場したIKKOさんの高すぎるテンションには、さすがの布施さんもちょっと苦笑いの様子でした。

 この年の布施さんは、9月にカバーアルバム『Ballade』を発表しています。『VOCALIST』シリーズが当時ヒットしていた德永英明の曲紹介でスタンバイ後にトークあり、「名曲をカバーするとね、また違った景色や物語が見えてきて、すごく緊張して楽しかったです」「いい意味で刺激になりました」と話していました。こうやって歌手の魅力を引き出すトークは、実を言うとこの時期までの紅白歌合戦ではほとんどなかった光景だったりします。

第60回(2009年)「MY WAY」

ステージ

作詞:Lucien Marie Antoine, Thibaut & Paul Anka
作曲:Claude Francois & Jacques Revaux

前歌手:ゆず、アンジェラ・アキ
後歌手:小林幸子、福山雅治
曲紹介:堺 正章(ゲスト)、森 光子(ゲスト審査員)

 この年限りでの勇退を決めたラスト紅白、曲順は第51回以来となる後半の出演です。曲紹介は両軍司会の中居正広仲間由紀恵の紹介で、過去に司会も務めたゲスト・堺正章と審査員・森光子が担当します。『時間ですよ』の共演話から60回を迎えた紅白歌合戦の祝福、そこから曲紹介のトークに入ります。

「お母さんから、布施さんに何かメッセージはございますか?」
「布施さんには、もう大事に大事にしていただいて、たくさん歌って頂きたいと思います」
「そうですね。今のお母さんの励ましの言葉とはちょっと裏腹になってしまうんですが、布施さんは若い歌手の方たちが紅白で頑張って頂くために、自分はこの紅白を卒業するんだというふうにおっしゃったそうでございます」
「そうかもしれませんが、他にも色々やり方あるますでしょ?沢山歌ってくださるということも、いいことですね」
「そうです!布施さんにはもう、一生元気に歌って頂きたいと思います。それでは万感の思いを込めて歌って頂きましょう。布施明さん、「MY WAY」」

 森さんはこの年国民栄誉賞受賞、ただ89歳という高齢なので堺さんに手を引かれての登場でした。何とか堺さんがうまくまとめましたが、ちょっと会話が覚束ない状況です。とは言え話そのものはしっくり来る内容でした。結果的に森さんは、この紅白が生前最後のテレビ番組生出演となっています。

 この年は歴代の紅白歌合戦でも特に高級感溢れるセット演出で、特に緞帳の使い方が優れていました。そんな中で紅白最後の舞台として歌う「MY WAY」は、演出側からも布施さんの卒業に出来る限り応えようという意気込みまで伝わる内容です。笑顔で、爽やかに、そして歴代の出場歌手でもトップクラスの格段に素晴らしい、類稀な声量と表現力を持ち合わせた歌声。特にラストサビを歌うために階段を降りて移動する後ろ姿は、これ以上ないほど絵になっていました。

 演奏が終わってすぐ「ブラボー!」と大きな声、次の曲紹介で登場する堺正章武田鉄矢西田敏行といった歴代白組司会陣も最大限の声援を贈っています。もちろん長年紅白を見続けている私から見ても、歴代トップクラスに印象に残る名ステージの中の名ステージです。

応援など

 この年になると、平成前期~中期に多かったショーコーナーは特別企画化します。矢沢永吉スーザン・ボイルの特別出演が話題になりましたが、逆に言うと出場歌手の歌以外の出番は少なめです。布施さんの歌以外の出演は、オープニング・エンディングと後半冒頭の「歌の力」全員合唱のみでした。「歌の力」もソロは21世紀以降に初出場した歌手が大半を担当、世代交代を演出側でもアピールしています(ステージ自体は本編レビューで執筆済です)。エンディングは白いジャケットを着用、「蛍の光」はデビューの頃一緒に名を上げた平尾昌晃(指揮担当)の真後ろ、最後に曲紹介して頂いた森光子の隣という立ち位置でした。

おわりに

 今年で75歳を迎える布施さんですが、歌声は現在も全く衰えがありません。さすがに過去の名歌手でも70代となると多少の衰えが出てくるものですが、この人に関して言うと全くの例外のようです。やはり彼は歌い手として、生ける伝説クラスの人であることは言うまでもありません。

 紅白歌合戦もいつの間にか世代交代は少しずつ進み、60代の出場歌手は布施さんが出ていた頃よりも格段に減少しました。さすがに昭和期ほどではないものの、積極的な若手起用は平成前半と比べて進んでいる様子です。ただ、布施さんが紅白を卒業した頃に過去の常連歌手による特別出演はありませんでした。第69回の北島三郎サザンオールスターズ、あるいは近年の細川たかしさだまさしのように布施さんもあと1回くらい紅白で見たい気もしますが、どうでしょうか。

 

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