2022年アルバム~宇多田ヒカル『BADモード』

 今週から毎週土曜日は、2022年にリリースされたアルバムについて記すことにしました。昨年も年初に数作、2010年代にも時期によって週1~2回ペースで取り上げていましたが、久々に再開します。第1作目は現在もっとも話題になっている、宇多田ヒカル『BADモード』を選びました。

 各アルバムはよほどのことが無い限り、Spotifyでのチェックとさせて頂きます。CD入手した上で書く作品は、年に数作あるかないかぐらいになると思います。

アルバム概要

リリース:2022年1月19日(CD→同年2月23日)
前作:『初恋』(2018年6月27日)
通算枚数:8枚目
楽曲数:10曲(リミックス除く)
うち先行配信済:6曲

レーベル:エピックレコードジャパン

 

楽曲解説

BADモード

先行配信:なし(新曲)
MV:あり(Youtube
演奏時間:5分3秒

 先日のビルボードチャートレビューでも感想を記した表題曲。歌詞をあらためて見返すと、ここ2年の”新しい生活様式”から自身が感じられたことを歌で表現した内容であるのがよく分かります。予想できない曲の進行に、軽快さと重さを兼ね備えた楽曲構造はまさに立体的。一通りでは表現できないような魅力に満ちた名曲です。

 

君に夢中

先行配信:2021年11月26日
MV:あり(Youtube
タイアップ:TBS系ドラマ『最愛』主題歌
演奏時間:4分17秒

 楽曲はビルボードチャートレビューでレビュー済。長い人生経験を培ったからこそ表現できる歌詞表現が秀逸な、大人のラブソングです。

 

One Last Kiss

先行配信:2021年3月9日
MV:あり(Youtube
タイアップ:映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』テーマソング
演奏時間:4分9

 発表当時にビルボードチャートレビューを通して聴いた時はピンと来ない部分もありましたが、アルバムで「君に夢中」から通して聴くと非常に自然な流れになっていると感じました。今回のアルバムは海外からプロデューサーを迎えて制作された楽曲が多くを占めますが、その1人であるA.G. Cookは日本人アーティストをこの曲で初担当。したがって従来のJ-POPと全く異なる構成であることが、聴けば聴くほど実感できる楽曲でもあります。

 

PINK BLOOD

先行配信:2021年6月2日
MV:あり(Youtube
タイアップ:NHK Eテレアニメ『不滅のあなたへ』OPテーマ
演奏時間:3分17

 この曲もビルボードチャートレビューで既に扱っています。「BADモード」と同様、定石と少しズラしたようなリズムの使い方がクセになります。冒頭から4曲通して聴くとまさに音のシャワーを浴びている感覚で、「PINK BLOOD」くらいまで進行すると完全に沼にハマっている状況になりそうです。洗脳されている感覚・夢の中をさまよっている感覚という言葉で表現する人もいるかもしれません。

 

Time

先行配信:2020年5月8日
MV:あり(Youtube
タイアップ:日本テレビ系ドラマ『美食探偵 明智五郎』主題歌
演奏時間:4分58秒

 前作『初恋』でも関わった小袋成彬がプロデューサーで参加。そのため4曲目までとは少し流れが変わります。高音で歌い上げるシーンが、ここまでの4曲と比べるとやや目立ちます。

気分じゃないの(Not In The Mood)

先行配信:なし(新曲)
演奏時間:7分28秒

 配信で聴いていてもアナログレコードの感覚が残っているような編曲が特徴。楽曲の前半はそれを象徴するような音飛びの仕掛けがあります。ピアノやベースの演奏、ボーカルの歌声も心地良く、音を使った高貴な遊びを聴かされて頂いているような感覚もあります。過去7枚のアルバムでは感じられない今作ならではの個性が、一番よく出ている楽曲のような気もします。

 

誰にも言わない

先行配信:2020年5月29日
MV:なし
タイアップ:サントリー天然水CMソング
演奏時間:4分40秒

 「Time」と同様に小袋成彬がプロデュースに参加。楽曲から感じられる浮遊感は「Time」より上で、「気分じゃないの」からの繋がりも自然です。

 

Find Love

先行配信:なし(新曲)
MV:ライブ映像(Youtube

演奏時間:4分37秒

 終始リフレインする3連続音が特徴の楽曲。出だしはポップな楽曲という印象ですが、時間が経つとどんどん深淵に潜んでいくような雰囲気になっていきます。全編英語詞。

 

Face My Fears (Japanese Version)

先行配信:2019年1月18日(CD同時発売)
MV:あり(Youtube
タイアップ:スクウェア・エニックス『キングダム ハーツIII』OPテーマ
演奏時間:3分38秒

 電子音が目立つアレンジです。3年も前の曲になるので、アルバム全体から見ると少し作風が異なっていることがよく分かります。アメリカのミュージシャン・Skrillexとの共同作で、Spotifyには彼のクレジットもあり。YoutubeでアップされているMVもSkrillex発信です。

 

Somewhere Near Marseilles-マルセイユ辺り-

先行配信:なし(新曲)
演奏時間:11分54秒

 宇多田ヒカル史上最も長い時間を誇る楽曲です。空間を操作するように奏でられるトラックは、オリジナルながらリミックスに近い雰囲気もあります。中盤以降は時々ボーカルが入る程度で、ほとんど打ち込みの音のみが流れる構成です。

Beautiful World (Da Capo Version)

先行配信:2021年3月9日(EP「One Last Kiss」収録)
オリジナル:2007年8月29日
演奏時間:5分57秒

 「Beautiful World」の新バージョンです。元祖エヴァのタイアップで、昨年のEP「One Last Kiss」に収録されていました。アコースティックから、曲が進むについて音が広がっていきます。

 

キレイな人(Find Love)

先行配信:なし(新曲)
演奏時間:4分37秒

 全編英語詞の「Find Love」の日本語詞版。英語に合わせたメロディーだとやはり英語の方がしっくり来る印象で、それだけ日本語という言語が特別であることがよく分かります。

Face My Fears (English Version)

先行配信:2019年1月18日(CD同時発売)
オリジナル:2019年1月18日

演奏時間:3分38秒

 こちらは「Face My Fears」の英語詞版。元々の楽曲が英語入り混じりということもあって、違和感は全くありません。なお今作のリリース以降にあたってでしょうか、英語版と日本語版で区別されていたSpotifyの再生回数が統合されています。

 

Face My Fears (A.G. Cook Remix)

先行配信:なし(新曲)
オリジナル:2019年1月18日

演奏時間:5分22秒

 今回のアルバムをプロデュースしているA.G. Cookのリミックスです。

アルバム全体の感想

 何度も聴けば聴くほど深く楽しむことが出来る、細かいこだわりに満ち溢れた作品です。逆に言うとサラッと聴き流すには向いていないアルバム…というのは不正確ですね。「サラッと聴かせない」アルバム、というのが適当だと思います。

 先行配信曲を含めてもキャッチーさはほとんど無く、日本の歌謡曲~J-POP史の流れからは完全に外れていますが、それゆえに「果敢な挑戦をしたアルバム」と読み取ることが出来ます。今回の共同作業者はほとんど海外のクリエーターがメインで、日本の小袋成彬も海外の影響が極めて強いアーティストです。J-POPの要素を排し…たわけではないと思いますが、それ以上に自身が「いま表現したいこと」を徹底的に追求した結果が今作のアルバムだったような気がします。

 20年超のキャリアになると多少は守りに入るものですが、少なくとも今作からそういった雰囲気は全く見えず、海外に向けて「攻め」を重視した作品のように感じました。デビュー当時から彼女の場合はそうだと思いますが、日本国内のみに目がいかないという点は非常に素晴らしいことです。というより本来ならもう2022年になると日本の音楽関係者全員がそうであってほしい部分もありますが…。

 ただ20年前と比べるとさすがに海外指向は日本でも進みつつあるのは確か。商業的な観点でいくと、多少はリスナーの耳も肥えたからこそ今作を発表できたという面もあるような気がしています。私も20年くらい前だと、今作に大きな戸惑いを憶えていたかもしれません。とは言え現在でも宇多田ヒカルが時代より多少進んでいることは確かで、個人的にはそれでこそ、という気持ちもあります。日本を代表するアーティストのアルバムということで、是非皆さんにも触れて頂きたい作品です。

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