紅白歌合戦・野口五郎の軌跡~ステージ編~

第23回(1972年)「めぐり逢う青春」

ステージ

作詞:大日方俊子 作曲:馬飼野俊一
前歌手:青い三角定規、南 沙織
後歌手:ザ・ピーナッツ、ビリー・バンバン
曲紹介:宮田 輝(白組司会)

「五郎ちゃん頑張ってくださいね。あなたが歌の道に入ったのは確か去年ですから十五の時。十五にして学に志すという言葉がありますがあなたは歌に志したわけですよね。今度の紅白の最年少野口五郎さん、「めぐり逢う青春」」

 宮田アナの「頑張ってくださいね」に「はい」と返事した途端、金切り声のような叫びの声援が観客席から入ります。都はるみの「ミヤコ!」や水前寺清子の鳴り物応援はこの時点で既に紅白名物でしたが、これだけ熱狂的な叫び声が発生した歌手は1971年以前だと皆無でした。1970年から連続出場のフォーリーブスでもこんな歓声は起こっていません。

 真っ赤な衣装を着た五郎さんは当時まだ16歳、若々しさと初々しさに満ちた彼の姿はまだ少し頼り無さも感じます。マイクを持つ手は終始震えていて、緊張が視聴者にも伝わります。ただ美しさにひたむきさが加わった歌唱は、確かに歌っている間ものべつもなく叫びたくなる魅力にあふれているようにも感じます。

 テンポは原曲と比べてかなり速いです。それに加えてバックの演奏もドラムや吹奏楽系の音がけたたましい位にうるさく、ほとんど別の曲に近いアレンジになっています。さらに尋常ではないほどの叫び声まで加わっているので、原曲を聴いた後にステージを見るとビックリするかもしれません(その逆も同様)。比較的スローな曲を歌う事が多い五郎さんも、紅白ならではのアレンジに巻き込まれることがこの後も複数回ありました。

応援など

 ステージ以外の衣装はオープニングからエンディングまでずっと同様、ステージも同じシャツのまま上着を赤から黒に変えるのみで基本的にはほぼ変わっていません。なお叫びの声援は冒頭から多く、”ゴロー!”という声が多く聴かれました。

 歌以外では白組総出の応援となった村田英雄、初出場の歌手でコーラスを結成した五木ひろしのステージに登場します。ドリフやクレイジーキャッツなどお笑いの応援ゲストが多く、また最年少の新人ということもあって、全体的に本番通して目立つ場面はまだ少なめです。

第24回(1973年)「君が美しすぎて」

ステージ

作詞:千家和也 作曲:馬飼野俊一
前歌手:西郷輝彦、森 昌子
後歌手:南 沙織、堺 正章
曲紹介:宮田 輝(白組司会)

 この年は同学年の郷ひろみが初出場を果たしますが、早生まれの五郎さんは前回同様白組の最年少です。紅組の対戦相手は当時中学三年生の森昌子、したがって最年少同士の対決になっています。ちなみに前回は「純潔」を歌った南沙織が紅組最年少だったので、五郎さんは2年連続最年少同士で対戦カードが組まれる形になりました。なお翌年も白組最年少、3年連続最年少出場というのもあまりない記録ではないかと思われます。

「こちらの方はちょっと先輩でございます。紅白は堂々2回目、高校3年生で、今年の北海道への修学旅行がいい思い出だったと言う野口五郎さんです。ちょっぴり大人のムードで「君が美しすぎて」。」

 先輩の北島三郎水原弘がステージまでエスコート、三波春夫三波伸介(この年の応援団長)も団扇や扇子を使って盛り立てます。激励の意味を込めて背中を押す水原さんの力が強すぎ、少しバランスを崩して笑みを見せる五郎さん。声援は前回と同様異常に大きく、歌唱中にも何度も入っていてまるで歌を聴いていないんじゃないかという勢いです。

 衣装は前年と真逆の白い衣装、首と手首に羽根のような素材が大量についています。楽曲は体全体を大きく動かしながら歌う激情型バラードで、非常に聴き応えのあるステージです。テンポもこの年は原曲と大きく変わらないものの構成は1コーラス半、したがって演奏時間は2分弱という短さでした。曲順は最初から3番目・ヒットはオリコンで年間33位(週間最高3位)・最年少の若手であることを考えると扱いはこんなものだと思いますが、もう少し長い時間歌わせて欲しいというファンも多かったのではないかと思われます。

応援など

 この年もお笑い系の応援ゲストが多く、歌以外で目立つシーンはほとんどありませんでした。「蛍の光」も後ろの立ち位置、まだステージ上にカメラを持ち込んでいない時代なのでほとんど映っていません。

第25回(1974年)「甘い生活」

ステージ

作詞:山上路夫 作曲:筒美京平
前歌手:殿さまキングス、梓みちよ
後歌手:南 沙織、菅原洋一
曲紹介:山川静夫(白組司会)

 紅組総出の梓みちよ「二人でお酒を」後、女学生に扮した三波伸介が場を繋げた後にステージ開始。この辺りの進行は本編レビューを参照してください。

「さて先ほどはですね、お酒でもって綺麗にこのステージを清めて頂きました、まことにありがとうございました。その後颯爽と若武者が登場いたします。嬉しい時にはドラムを叩き、悲しい時にはギターを奏で、本当に音楽の虫でございます。その音楽の虫、野口五郎さんが皆様に心を込めてお送りする、「甘い生活」。」

 ヒデキさんやひろみさんのステージも大きな声援が起こりましたが、五郎さんのステージも過去2回と同様大変な声援です。イントロや間奏だけでなくサビで熱唱中にも鳥のような勢いで鳴いていましたが、五郎さんもそれに負けない?くらいの声量がこの年になると身についていました。衣装も赤・白を経て黒、いまだ白組最年少とは言え経験に裏付けられた貫禄は少しずつ出始めた様子です。

 「甘い生活」は五郎さんにとって最大のレコード売上を記録、原曲に近いテンポでじっくり2コーラス歌唱。2分40秒の歌唱時間はこの年の中だと長い部類に入ります。

 なお1回目のサビでは2つのカメラで撮影した映像を同時に画面で映すという、これまでの紅白と異なる新しい演出がなされていました。舞台上に撮影用のハンディカメラが持ち込まれたのは、この年が初めてです。

応援など

 新御三家が3人勢揃いした初の紅白、郷ひろみ「花とみつばち」のステージで西城秀樹と一緒にダンスの応援。ただ普段踊るような曲を歌っていない五郎さん、郷さんどころかヒデキと比べてもほんの一瞬だけ動きが遅く、目線も明らかに2人の方向に向いてます。最後の立ち位置もひろみさんから距離が近過ぎで、少しズレが生じていましたが、ファンから見るとこれも微笑ましい光景ではないかと思います。なお中間の余興では、新御三家が揃って餅をつく場面も見られました。

 村田英雄「皆の衆」のステージで白組歌手総出のシーンもありましたが、ラインダンスなどもやっていた紅組と比べれば総じて少なめ。まだ個々のチームワークが審査基準になっていた当時、もちろん勝ったのは白組ではなく紅組。「蛍の光」も相変わらず後方で、映る場面は少ないです。

第26回(1975年)「私鉄沿線」

ステージ

作詞:山上路夫 作曲:佐藤 寛
前歌手:橋 幸夫、由紀さおり
後歌手:森山良子、三波春夫
曲紹介:山川静夫(白組司会)

「さて、五郎という名前は沢山あっても、こんなに若くて歌がうまい五郎はこの人だけです。私鉄沿線は沢山あっても五郎が心を傾けるのはこの私鉄沿線だけです。兄貴が弟のために作った歌、「私鉄沿線」野口五郎さん。」

 これまでの3回は比較的前半の出番が多めでしたが、この年は24組中15番目と若手としてはやや遅めの曲順でした。「私鉄沿線」は日本有線大賞のグランプリを受賞、後年の歌番組でも披露される機会が多い代表曲です。曲紹介にもある通り、実兄の佐藤寛による提供も話題になりました。

 ただ意外とこの曲、後年に紅白での歌唱が振り返られる場面は多くありません。原因はやはり歌合戦のアレンジによる部分が大きいと推測します。イントロから盛大に入る合唱団の声、明らかに過剰過ぎるオーケストラの演奏。サビの熱唱は五郎さんの持ち味ですが、このステージに関して言うと、特にサビで力の入り過ぎた吹奏楽があまりに主張し過ぎているように聴こえます。その一方前年までに多かった叫び声は間奏とアウトロで入る程度で、若干節度が上がった印象もありました。

 昭和の紅白歌合戦における生演奏アレンジは、特にアイドル系・アップテンポの曲調だと時間の制約もあるので特殊な内容になりやすいです。中には早回しのような演奏が原曲を超える魅力に成長する物もあります。ただ出来の良い方と悪い方に分かれるのも事実で、忖度なしの個人的感想で書くとすると、ワーストの部類に入るというのが正直な所です。五郎さんの歌声は言うまでもなく素晴らしかったですが、内心歌いにくさもあったのではないでしょうか…。

応援など

 フォーリーブス「ハッピー・ピープル」の曲紹介で、堺正章に連れられる場面がありました。「今日はですね、山川さん。大変めでたい3人をここへ連れてまいりましたよ。めでたいと言えば七五三ですよ!いいですか、まず北島三郎さん。そして野口五郎さん。そして春日八郎さん、あ、間違えちゃった」。その後に「今度は本当にハッピーな方々をご紹介します」という曲紹介に繋がる台本、たったこれだけのために五郎さん他の3人が登場しています。

 この年も歌以外で目立つ場面は少なめでした。なお白組歌手総出演の三波春夫「おまんた囃子」は直後の曲順ですが、スーツを法被に着替える程度なので普通に参加しています。

第27回(1976年)「針葉樹」

ステージ

作詞:麻生香太郎 作曲:筒美京平
前歌手:(オープニング)
後歌手:山口百恵、細川たかし
曲紹介:山川静夫(白組司会)

「さてお待たせ致しました。まず白組のトップバッターは、デビュー以来6年、しっかりと大地に根を下ろし、若々しい枝葉を伸ばし続ける野口五郎さんです。今年も一年中、ゴローゴローとみんなが騒ぎました。雲の上の雷までがゴロゴロ呼びました。天まで届け、野口五郎「針葉樹」!」

 ダジャレを活かした山川アナらしい曲紹介で、1976年紅白歌合戦の幕が開きます。アップテンポが起用されやすい傾向の中で、この年は珍しくバラードで紅白歌合戦のトップバッターを飾る形になりました。なお新御三家は西城秀樹が第25回で既に経験、郷ひろみも翌年「悲しきメモリー」でトップバッターに起用されます。

 舞台奥の入口から颯爽と登場しますが、歌う場所は画面から見て右側の白組ブロックのステージです。曲調とはあまり合わない、扇子を持ちながら応援する白組歌手陣の姿が映っています。照明はほぼ暗転、大ヒット曲かつ名曲ではありますが、他の年と比べてやや地味めのオープニングにも見えます。1コーラスが当時としてはやや長いため、2コーラスではなく1コーラス半構成にならざるを得なかった点も難しい所でした。

 この年になると観客による熱狂的な叫び声は消え、代わりに間奏やアウトロで白組歌手陣の声援が入ります。曲とは合いませんが、当時の紅白歌合戦らしさには満ち溢れています。背中からの力強さは本人も感じている様子で、歌唱後の表情は笑顔が浮かんでいました。

応援など

 郷ひろみ「あなたがいたから僕がいた」のステージにダンサーとして参加。ただ2年前の新御三家揃い踏みではなく、新沼謙治布施明なども加えた曲と特に関係のない振付でした。途中ひろみさんが歌う後ろで、ヒデキと顔を合わせて微笑む場面もあります。

 この年からバラエティ番組での代表作『カックラキン大放送!!』が人気番組になり始めますが、その割に応援で目立つ場面はまだ少なめです。

第28回(1977年)「風の駅」

ステージ

作詞:喜多條忠 作曲:筒美京平
前歌手:清水健太郎、高田みづえ、(応援合戦)
後歌手:
岩崎宏美、西城秀樹
曲紹介:山川静夫(白組司会)

 この年は歴代の紅白歌合戦でも、特に時間的余裕のない回でした。三波春夫村田英雄三橋美智也が空手の演舞で大ボケをかました後(内容はこちら)、全く間を空けずすぐに演奏が始まります。全員集合やカックラキンなどでもコントの後すぐ歌う場面は多々あったと思われるので、当時からすれば特に違和感はなかったとは感じますが…。

「何をやってるんですかね。本当にゴローはみんなから指名手配されてるウォンテッドの男です。でもそれに溺れることなく、女性たちに溺れることなく、着実に大歌手への道を一歩一歩昇っていきます。野口五郎「風の駅」をお聴きください!」

 真っ白なスーツにはインナーに光り物が入り、少しずつですが派手な衣装になりつつあります。楽曲は例年通りの聴かせるバラードで、持ち味が存分に活きている大熱唱です。ただここ3年と比べると若干レコード売上が低下したこともあるでしょうか、1コーラス半の構成は間奏までカットされる状況でした。2分10秒台なので当時から考えると不当な短さではありませんが、どうしても構成上相当短く聴こえるのは惜しい所です。

応援など

 オープニングでほとんど映らないことも多い五郎さんですが、この年はあいうえお順で後半の歌手が真ん中に来る立ち位置のため例年より多く映っています。タキシード姿で登場、スタインソングの演奏終了に合わせて頑張るぞとジェスチャーする姿がバッチリカメラに収められました。

 余興で設けられた連想ゲームでは、白組チーム3番手の回答者を担当。矢継ぎ早にお題に合わせて回答、5番手オチの前川清に繋げました(「食べ物」→かつお節→猫が好き→犬は食わない→夫婦喧嘩→男は負ける)。

 ラインダンスに対抗してこの年新しく組まれたプログラムは組体操。白ランニングと白鉢巻姿で参加、五郎さんはやはり新御三家でチームが組まれます。太ももの上に郷さんを乗せたり、小さなピラミッドを組んだりする体操を披露しました。

第29回(1978年)「グッド・ラック」

ステージ

作詞:山川啓介 作曲:筒美京平
前歌手:狩人、研ナオコ
後歌手:芹 洋子、角川 博

曲紹介:山川静夫(白組司会)

 この年はカックラキンで共演している研ナオコとの対決です。「かもめはかもめ」のラストでダンサーがポンポンで「の」「口」の文字を作り、演奏が始まってその後ろから彼女たちが道を空けた後に登場する演出となりました。

「野口五郎の名は、北アルプスの白い山・野口五郎岳にちなんで名付けられました。今年芸術祭賞に輝くゴローはいま歌の頂目指して昇っていきます。そして白に幸運を約束します。「グッド・ラック」!」

 「かもめはかもめ」が中島みゆき提供のバラードだったのに対して、こちらは体を左右に揺らしながら歌うアップテンポです。黒い生地にキラキラ光る衣装は、なんだか宇宙をイメージしているようです。聴きどころであるロングトーンの美しさは例年同様ですが、例年と比べても笑顔の表情が目立っていて思いのほか歌いやすそうです。応援団長の西田敏行率いる白組歌手席もノリノリで、非常に楽しそうな雰囲気でした。

 ちなみにこの曲は、個人的にレコードでなく紅白歌合戦で初めて耳にした楽曲です。そのため後に原曲を初めて聴いた時、あまりにもステージと違う雰囲気に大変驚きました。バラードまではいかないとは言え非常にスローなテンポ、少なくとも本来ならばリズムに乗って踊るような曲ではありません。紅白歌合戦の演奏はときに曲調まで変える、そのサンプルの一つとして個人的には後世まで語り継ぎたいステージです。

応援など

 暗転状態に本人の衣装がド派手だったので目立ってはいませんが、この年も郷ひろみのステージに後半からダンスで参加しています。ノリノリで踊る五木ひろしの横で真顔の表情、振付も明らかに憶えていない様子でほとんど他の歌手の動きを見ながら体を動かしている状況でした。

 この年は民謡ブームということで、原田直之金沢明子が歌手でありながらゲスト出演します。「秋田音頭」をベースに応援合戦しますが、白組側からは沢田研二布施明と五郎さんが一緒に参加(紅組側は中原理恵渡辺真知子庄野真代)。なお白勝つ・紅勝つと歌いながら対抗したオチは「分からない」、そのままそそくさと退場するというややグダグダな結末になっています。

第30回(1979年)「青春の一冊」

ステージ

作詞:伊藤アキラ 作曲:佐藤 寛
前歌手:角川 博、桜田淳子
後歌手:岩崎宏美、ツイスト

曲紹介:山川静夫(白組司会)

 兄の佐藤寛作曲で5年連続日本歌謡大賞の放送音楽賞に選ばれますが、シングルレコードのセールスはこの年から低下傾向に入ります。10万枚のセールスを記録したのは、この年4月の「真夏の夜の夢」以降「19:00の街」まで間が空きます。「真夏の夜の夢」はエレキギターでの演奏が話題、この曲を紅白で歌っていないのは正直申し上げると非常に惜しいの一言に尽きます。

「この本は、野口五郎さんが学生時代に愛読した北原白秋の詩集です。『真実、あきらめ、ただひとり、真実一路の旅をゆく。真実一路の旅なれど、真実、鈴ふり、思い出す。』本当に大事な大事な野口さんの本ですね。でもこれからお送りする一冊は、お兄さんが作曲し弟が歌う、まさに白組必勝の一冊、「青春の一冊」、若きベテラン・野口五郎さんです!」

 中央奥から出てくる登場が続いた五郎さんですが、この年は舞台上手側からステージに向かいます。白か黒の衣装を着ることが多い五郎さん、この年は白ですが蝶ネクタイやインナーは金色が目立っています。マイクを右手に持ち、舞台奥に繋がるコードを左手に持ちながらの熱唱でした。8回連続出場でバックダンサーの出演は一度も無し、歌で魅せるステージが続いています。

応援など

 データ&エピソード編でも少し書いた通り、この年の応援はギター演奏が大きなハイライトになっています。加山雄三「旅人よ」のステージでさだまさし小林正樹(内山田洋とクール・ファイブ)と一緒に演奏参加、最後にはアグネス・ラムからレイとキスのプレゼントもありました。

 具志堅用高を相手にする桂三枝がボクサーで登場する場面では、三枝さんのセコンドとして参加。郷ひろみミッキー吉野と一緒に、世界チャンピオン相手に逃げようとする三枝さんを無理やりリングに送り出してます。このワンシーンのためにジャージ姿になっていますが、一応その後の組体操も参加していました。顔は全然映っていないですが、観客席から”ゴロー!”の応援が入っています。

 ちなみに最前列ではないですが、この年8回目にしてようやく「蛍の光」ではっきり顔が映るようになりました。

第31回(1980年)「コーラス・ライン」

ステージ

作詞:麻生香太郎 作曲:東海林修
前歌手:田原俊彦、松田聖子
後歌手:石野真子、海援隊

曲紹介:山川静夫(白組司会)

 自身のデビュー10周年リサイタルを記念して作られた楽曲は、当時では珍しいファンと一体になって制作されたナンバーでした。

「さて、今年野口五郎さんは歌手生活10周年を迎えます。そしてその記念コンサートで素晴らしい歌が出来上がりました。くちびるからくちびるへ、心から心へ。ゴローの歌のバックに、素晴らしい大コーラス・ラインが出来上がります。「コーラス・ライン」、野口五郎さんです!」

 後半でファンと一緒に大合唱する楽曲ですが、歌い出しから早々と白組歌手が五郎さんの後ろのセット階段上に集合します。さらにスクールメイツが両サイドから、手を繋ぎながら次々と入場。9回目にして、初めてバックダンサーが加わるステージになっています。なおその際に、スクールメイツの1人がつまずいてコケるハプニングが発生しました。アップで五郎さんを映している間にも人数は増え、最終的には100人近い人数で舞台を埋め尽くすほどになりました。

 「とても優しい歌です。皆さんもよろしかったら一緒にどうぞ、「コーラス・ライン」」。その間に映像は中継に切り替わり、渋谷から「GORO」の文字が浮かび上がっている様子が映ります。スクールメイツは踊りだけでなくコーラスも担当、白組歌手も全員肩を組んで大団円となりました。

 ラストサビは途中テンポを早めて3回繰り返し、演奏時間はこの年でも上位に入る2分52秒の長さです。最後は横書きだった渋谷の中継が縦書きに変わって動きも加わり、局を挙げて10周年を祝福する温かいステージとなりました。

応援など

 沢田研二「TOKIO」のステージ前に「ライディーン」バックの電飾メガネ応援に参加。暗転状態から一瞬映るのみですが、これだけにために「K」と描かれたシャツに着替えてます。もっとももう少し出番が遅ければ「はばたけ鳥軍団」の応援でニワトリの格好にさせられていたので、そう考えると少しはマシでしょうか…。

 『カックラキン大放送』で共演している研ナオコとは、この頃になると名コンビとして認知されています。その彼女はこの年紅白で「夢枕」を歌唱しますが、途中白組歌手席に向かってゴローさんを挑発するシーンがありました。ゴローさんの周りを一周してコケにする内容ですが、残念ながらカメラにほぼ映らず。観客席からも特にこれといった反応なく、ナオコさん本人も戻る途中に苦笑いを浮かべています。

 その直後に1957年紅白初出場の最多出場歌手・フランク永井の曲紹介に登場。同じ1956年に産まれた新沼謙治と一緒に、1歳当時の大きな写真を手にしています。更にその後すぐ応援合戦に出演、忍者姿に扮して簡単なアクションを披露しています。

 終盤では森進一「恋月夜」がノリノリの楽曲、ボックスを踏む歌手が続出しますが、五郎さんも横にいる布施明田原俊彦などと一緒に踊っていました。この年の五郎さんは、これまでにないほど歌以外でも名場面は多いです。

第32回(1981年)「裏切り小僧」

ステージ

作詞:伊藤アキラ 作曲:宇崎竜童
前歌手:竜 鉄也、(応援合戦)、石川さゆり
後歌手:
岩崎宏美、新沼謙治
曲紹介:山川静夫(白組司会)

「今年はゴローにとって苦しい一年でした。病に倒れてファンは本当に心配しました。でもご安心ください。紅白のこのステージにこんな元気で登場いたします、決して期待は裏切りません!」

 山川アナの曲紹介はやや尺の配分がうまくいかず、曲名の紹介が残念ながらカットされました。体調の他にレコードセールスも目に見えて落ち始めた年ですが、紅白歌合戦では普段と一味違うステージを見せます。

 茶色系のタキシードに金色も入る衣装、11回の紅白では一番派手な衣装です。楽曲はややサビのメロディーがはっきりしていない部分もあり、良い曲ですが確かにヒットする曲ではない雰囲気もあります。もっともそれは、実際の売上を見てから書く結果論でしかありません。

 さて、間奏では自らのハーモニカ演奏が始まります。それに合わせて、両サイドからはそれぞれの組の出場歌手が座った状態で歌手席セットが舞台袖から移動してきます。この年から初導入となった大掛かりなセット転換、それは五郎さんの演奏に合わせて移動開始となる演出でした。オーケストラボックスのみが設置されている舞台は、曲が終わるとすっかり賑やかな様子に切り替わります。

 ハーモニカの演奏は後年だと長渕剛もいますが、映像で確認出来る限り紅白歌合戦ではこの年の五郎さんが初めてです。歌手としてだけでなく、ミュージシャンとしての五郎さんを表現できたステージは、紅白だと案外これが一番かもしれないと感じるところです。

応援など

 この年に大ヒットした「愛のコリーダ」を、ポップス系若手出場歌手中心に歌うステージが設けられました。白組からは新御三家とたのきんの2人が選抜、YMCAを担当したあまがいりょうじの日本語詞でダンスを交えながら歌っています。郷さん、五郎さん、ヒデキさんそれぞれソロパートも用意されました。

 出場歌手全員が参加するデュエットショーでも新御三家の3人が一緒です。紅組実力派3人(青江三奈小柳ルミ子松村和子)で一緒に「新宿そだち」を歌唱、五郎さんのソロパートでは演歌仕込みの甘い声を聴かせていました。

第34回(1983年)「19:00の街」

ステージ

作詞:伊藤 薫 作曲:筒美京平
前歌手:西城秀樹、柏原芳恵
後歌手:河合奈保子、郷ひろみ

曲紹介:鈴木健二(白組司会)

 レコードセールス低下もあって第33回はついに落選、連続出場も10回でストップします。もっともこの年は空前の懐メロ紅白、さらに売上だけならもっと低い出場歌手も正直他にいたのですが…。ただ年が明けて1983年は「19:00の街」が自身も出演するドラマ『誰かが私を愛してる』の主題歌に起用されロングセラーを記録。これが評価されて2年ぶりの紅白復帰となりました。曲紹介では新しく司会に起用された鈴木健二アナが、面談から得た五郎さんの紅白にかける熱意をアピールします。

「私は初めてこの紅白の仕事に携わりました。そして歌手の方がこの紅白に出られることを熱望してることを知りました。しかし五郎くんは去年は出られませんでした。しかし再登場の日、彼は目に涙をいたしました。全国の女性の皆さん、どうぞ五郎に2年分の拍手を贈ってください。お願いします、「19:00の街」!」

 グレーのタキシード姿、2年ぶりに紅白に返り咲いた五郎さんの表情はとても晴れやかで笑顔に満ち溢れています。出場して間もない頃は緊張でマイクを持つ手が震えていた時も多かったですが、この年は緊張というよりも紅白という場を噛みしめながら歌っているように見えます。ファンの手によって「おかえりなさい五郎!野口五郎FC」と書かれた横断幕が2階席に掲げられ、その様子も間奏でテレビ実況の紹介が入りました。歌手とファンの想いが通じ合った、紅白歌合戦の歴史に残る名シーンです。

 1コーラス半+ラストの構成、テンポは原曲より速くなるどころかむしろ少し遅くなっているようにも聴こえます。演出もダンサーなどは存在せず、あったとしたら後ろのセットに終始「19:00の街」が左スクロールされているくらいでした。

 なおこの年の白組は紅白で唯一西城秀樹野口五郎郷ひろみと新御三家で始まる曲順になっています。前年に関東地方で13年ぶりに70%割れした視聴率を少しでも回復させようという意図もあったようですが、実際この年は様々な試みが功を奏して多くの地域で視聴率上昇という結果になっています。

応援など

 新御三家を含んだ各3組終了後、紅白歌手が入り混じった「ビギン・ザ・ビギン」ショーが始まります。歌い終わってあまり間のないタイミングですがショーの後半から参加、ひろみさん・五郎さんの順番にソロパートを歌い継いだ後に2人揃って歌う場面も用意されます。

 「紅白俵積み合戦」にも参加しますが、こちらは俵を持ちながら踊るくらいであまり見せ場はありません。「日本の童謡メドレー」も新御三家が一緒の出番ですが、残念ながら幟を持つだけで歌うシーンは用意されていません。あとは細かい場面ですが、『南極物語』で活躍した犬のタロージローが登場した際に北島三郎と一緒に介助役として登場します。総合司会のタモリ曰く、「サブローゴロー」「シローは別にございませんが、こちらの方が一応白組ということで…」とのことでした。

おわりに

 新御三家の郷ひろみは現在もまだ出場回数を更新中、西城秀樹も若くして逝去されましたが平成期に7度出場を果たしました。アップテンポの盛り上げ曲が少ないとは言え、五郎さんが平成の紅白歌合戦で見られなかったのはやはり残念で勿体ないという印象は強いです。どうせなら桑田さんが作った楽曲で、久々に特別出演で良いので見たい所でもありますが…。

 11回の紅白は振り返ると、実は初期よりも中期~後期の方が名場面も多いような気がします。会場が一体になった「コーラス・ライン」やハーモニカ演奏の「裏切り小僧」は、もう少し後世に語られてもいいような気がします。反面ファンの叫びが大き過ぎる初期のステージ、とりわけ演奏過剰な「私鉄沿線」はファンにとっては勿論名ステージですが、あらためて後世から見ると違和感の残る部分はあるかもしれません。あとは意外と応援で目立つシーンが少なく、民放のコント番組で見せるキャラクターを活かす場面に恵まれなかったのも少し惜しいところです。

 さて今年は岩崎宏美とジョイントコンサートを開催しています。2人は紅白歌合戦の常連であるとともに、平成期の紅白に出演していないという共通点があります。そしてもう一つの共通点は、平成以降幾度となく紅白に応援出演したコロッケの格好のネタであるということ。直接足を運ぶ予定はありませんが、ゲストで2人に数々の失礼を働いた?コロッケさんが登場する機会があれば是非どこかで記事にして欲しいと、個人的にはひそかに期待しております。

 

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